第28話 今夜だけ
おれは、寂しさを紛らわせるように、バーで飲みなおしたものの、全く酔えない。
今日はそういう日か。
たどたどしい足取りで、ホテルの部屋に戻る。
2部屋タイプのビジネス用ツインだ。
手前がベッドルーム。
奥には執務室。大きな机もあり仕事するには悪くない。
でも、今日はもういいや。
おれは部屋の明かりすらつけずに服を脱ぎ捨ててベッドに倒れこむ。
今日一日の出来事、長かった。
明日からどうなるのだろう。
昨日まではメイがいなくても、いつかどこかでまた一緒にできるという気持ちがあった。
でも、今日、その期待すら消え去ってしまった。
メイはCFO……今後、おれと一緒に現場でタッグを組むことなどあり得ないだろう。
本当は……
「また、メイと組みたかった……な」
口に出すと寂しさが倍増するのはわかっているのに、ついつい口に出してしまう。
わかっていたんだ、こうなるということを。
でも、今夜だけ。
今夜だけは、悲しみを止められない。
ため息を……止められない。
今夜だけは……
明日になれば、忘れられるから……
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そんなおれの頭の中では、メイの美しい声がこだまして離れなかった。