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とある若頭の高校生活⑩ 終

街中がイルミネーションで彩られた聖夜


◯◯と絵梨花は、駅前の大きなクリスマスツリーの前で待ち合わせをしていた


絵「ごめん、お待たせ!」


黒いコートに赤いマフラー姿の絵梨花が笑顔で駆け寄ってくる


◯「…おう」


文化祭を経て無事付き合い始めた二人だったが、絵梨花が受験を控えているため、今日が交際後初めてのデートだった


◯「私服、似合ってんな」


絵「本当?」


◯「ああ、すげえ可愛い」


絵「えへへ…」


絵梨花は頬を赤く染め、喜びを隠し切れない様子だった



絵「じゃ、行こっか」


少し照れ臭そうに言う絵梨花の手を、◯◯は優しく握る


絵「わっ…」


◯「嫌か?」


絵「ううん、嬉しい…」


繋いだ手からお互いの温もりを分け合いながら、二人はゆっくりと歩き出した



◯「順調なのか?受験勉強は」


絵「うん、今のところは大丈夫そうかな」


◯「そうか…」


絵「◯◯は?卒業試験に向けた勉強は順調?」


転校当初より格段に学力が上がったとはいえ、それでも試験の度に追試を受けていた◯◯


学校側もこのまま卒業させていいのかと思案した結果、来年の2月に卒業試験を実施することになった


◯「正直、まだまだ不安はあるな」


絵「私で良ければ勉強教えるよ?」


◯「…いや、大丈夫だ」


絵「私じゃ力不足?」


◯◯は少し申し訳なさそうに続ける



◯「そういうつもりで言ったんじゃねえんだ。ただ、その…」


絵「…?」


言いづらそうな様子から察したのか、絵梨花は優しい口調で問い掛ける


絵「もしかして、私に迷惑かけたくないとか思ってる?」


◯「……」


◯◯は答えられず黙ってしまう


絵「大丈夫。入試が終わってからなら私も時間取れるから、一緒に勉強しよう?」


◯「いいのか?」


絵「うん!私も◯◯と一緒に卒業したいから…」


◯「…ありがとな」



◯◯と絵梨花は手を繋ぎながら、イルミネーションで輝く街中を歩いていく


目の前に控えた大勝負を前に、二人は幸せなひと時を噛み締めていた


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冬休みが明け、いよいよ2日間に渡る共通テストを迎えた


クラスで唯一進学をしない◯◯は、静寂に包まれた教室で勉強に励んでいた


◯(絵梨花、それにみんな、頑張れよ…)


心の中でそう呟きながら、一人黙々とペンを走らせていく


共通テストこそ受けないものの、卒業試験に向けて◯◯も必死に知識を詰め込んでいた


そして共通テストが終わると、多くのクラスメイトが◯◯に勉強を教えてくれるようになった


結果はまだ出ていないが、概ね悪くない手応えだったようだ




絵「いよいよ明日だね…卒業試験」


◯◯と絵梨花は二人並んで学校からの帰り道を歩いていた


◯「ああ、そうだな」


絵「自信はどう?」


◯「…分かんねえ。けど、これでダメなら仕方ないって思えるくらいにはやってきたと思ってる」


絵「そっか。それならきっと大丈夫だよ」



◯◯は足を止めた絵梨花に目をやると、不意に唇に柔らかい感触を覚えた


絵「んっ…」


◯◯は確かめるように自分の唇を触りながら、少し照れ臭そうに言った


◯「バカ、ここ外だぞ…」


絵「ふふっ、明日頑張れるように、おまじない!」


◯「…そうか。ありがとな」


絵「うん!試験終わったらどこか遊びに行こうね」


◯「ああ、行きたいところ考えといてくれ」


絵「分かった!」


二人は互いの手をぎゅっと握り締めて、再び歩き出した




翌日、いよいよ卒業試験の日がやって来た


◯(チッ、ガラにもなく緊張してやがる…)


落ち着かない様子で教室の隅っこに佇んでいると、扉が開く音がした


◯「!?お前ら、なんで…?」

そこには絵梨花や勇紀、麻衣を始めとしたクラスメイトたちが立っていた


他の生徒たちは自由登校にもかかわらず、◯◯の応援のために来てくれたらしい


「頑張れよ、設楽!」

「設楽くんファイト!」

麻「しっかり卒業決めてきなさいよ!」

日「◯◯なら大丈夫!」

絵「みんながついてるから…頑張ってね!」


クラスメイトたちの心強い応援の言葉に、思わず目頭が熱くなる◯◯


◯「…ありがとな」



試験の時間が近付いてきたので、衛藤に促された生徒たちは次々と退出していった


衛「…愛されてるわね」


◯「はい。幸せ者だと思います」


衛「準備はいいかしら?」


◯「…もちろん」


まっすぐに答える◯◯の目を見て、衛藤は試験の合否を確信した


衛「それでは…はじめ!」



設楽◯◯、卒業試験合格


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あっという間に時は過ぎ、とうとう卒業式の日を迎えた


「若、車の準備できました」


万が一にも式に遅れないよう気を回した組員に、◯◯は穏やかな口調で答えた


◯「最後だから、自分の足で歩いて行きたいんだ。せっかく準備してくれたのにすまないな」


「いえ、とんでもないです!お気をつけて」


◯◯はブレザーに袖を通すと、鞄を持って事務所を出た



すっかり通い慣れた通学路を、しみじみとした気持ちで歩いていく


◯「毎日早起きして歩くなんて面倒だったけど、最後だと思うと少し寂しいな」


独り言を呟きつつ、学校に向かってゆっくりと歩いて行く


しかし、◯◯はここで違和感を覚える


◯「おかしい、静か過ぎる」


少しずつ学校が近付いているにもかかわらず、登校している生徒の姿を一人も見掛けない


それどころか、車のエンジン音すら聞こえないのだ


◯(なんだ…?この嫌な予感は…)


そして、その予感は現実となってしまう



◯「なるほど、これぞ四面楚歌ってやつか…」


◯◯は気が付くと、武器を持った男たちに周囲を取り囲まれていた


◯◯「チッ…大事な日だってのによ」


思わず舌打ちをする◯◯の前に、一人の男が姿を現した


「卒業おめでとう。設楽◯◯くん」


ニヤニヤと笑いながら近付いてくる男を、◯◯は冷めた目で見つめる


◯「…アンタまで出て来るってことは、何もかも計画通りってことか」


男の名は中田敦彦、武勇会の会長を務めている男である


くせ者揃いの武勇会を頭でのし上がった、インテリ系のヤクザである


中「残念だが助けは来ない。事務所の方にもうちの者が行ってるからな」


◯「…そうか。それは残念だな」


中「最後に言い残すことはあるかな?」


◯「ねえよそんなもん。…最後にはならねえ」


◯◯は鞄を放り投げると、鋭い視線を中田に向けた


◯(こりゃあ式には行けそうにねえな…)


中「…お前ら、やっちまえ!」



その時、背後から◯◯を狙っていた男が吹っ飛んだ


◯「!?」


「卒業式だってのにどこで道草食ってんだ、設楽よぉ」


◯「お前…!」

そこに立っていたのは、武勇会の幹部である男、藤森慎吾だった



中「慎吾てめぇ、一体どういうことだ?」


中田は怒りに震えた眼差しで藤森を睨み付ける


藤「中田さん、悪いけどアンタのやり方にはもううんざりだ。俺はこいつに付かせてもらう」


中「ふん、それでもたった二人で何ができる?死体の数が増えるだけだぞ」


藤「ああ、本当に俺だけなら…な」


中「なんだと?」



その時、ゾロゾロとこちらに向かってくる足音と話し声が聞こえてくる


「久々の喧嘩や、腕がなるで!」

「ホンマやな、ごっつワクワクしてきたわ」


中「なんだこいつらは!?」


さらに一台のバイクが猛スピードで突っ込んできて、◯◯の近くに止まった


「相変わらず人騒がせな奴やなぁ…◯◯は」


◯「…七瀬!?」


声の主は、西野七瀬と関西最大の極道組織「土井谷会」の組員たちだった



◯「どうして七瀬がここに?」


七「設楽組長から連絡貰ってたんや。この日に襲撃があるって情報があったから、◯◯を守ってやってほしいって。もちろん、事務所の方にも増援が行ってるはずや」


中「なぜ計画がバレてる!?ま、まさか…!」


◯「藤森、まさかお前が?」


藤「へっ、さあな。…そんなことより、お前は早く行け。せっかくの卒業式に間に合わなくなっちまうぞ」


七「◯◯!早よ乗りや!」


七瀬はヘルメットを◯◯に投げると、後ろに乗るように促した


◯「七瀬、藤森…ありがとよ」


七「ふふっ…みんな!今日は思い切り暴れてええで!」


意気上がる組員たちを尻目に、◯◯を後ろに乗せた七瀬はアクセルを全開にして走り出していった


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二人を乗せたバイクは学校の前に到着した


七「着いたで。ほら、早よ行かんとホンマに遅刻やで」


◯「おう。…ありがとな、七瀬」


七「いくちゃんにもよろしくな!」


◯◯は後ろ手でピースしながら、まっすぐ校舎に向かって走っていった


七「…卒業おめでとう、◯◯」


荒れに荒れていた幼馴染がこうして晴れの日を迎えられることに、感慨深く思いながらその背中を見届けるのだった


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「卒業証書、授与!」


朝のホームルームには遅刻したものの、なんとか卒業式には間に合った◯◯


小学校すら途中で行かなくなってしまった◯◯にとって、人生で初めての卒業式だった



衛「3年A組、秋元真夏」

秋「はい!」

半年間の交換留学を終えた秋元も、卒業式に参加していた


(頑張ってるね、新学級委員さん)

(設楽くんにできることを精一杯やればいいんだよ)


◯「(クラスに馴染めたのは間違いなくあんたのおかげだよ)」


次々と名前を呼ばれていく度に、クラスメイトとの思い出が蘇っていく◯◯



衛「生田絵梨花」

絵「はい!」

(私、生田絵梨花。よろしくね!)

(いつまでさん付けなの!?◯◯!)

(はぐれちゃいそうだから、手繋いでてもいい?)

(◯◯なんて…大っ嫌い)

(ヤクザだとか、将来がどうとか関係ない。ただ…あなたが好き)


◯「(俺の正体を知っても、変わらず好きだと言ってくれた。この先どうなるかは分からないけど、できる限り一緒にいたいと思ってる)」



衛「梅澤美波」


梅「はい!」

(当たり前でしょ、学級委員なんだから!)

(かっこよかったよ。お疲れさま)


◯「(秋元さんがいなくなって、学級委員の仕事で行き詰まった時はいつも助けてくれたな。本当に感謝してる)



衛「久保史緒里」

久「はい!」

(これ、よかったら使って?)

(どうせならクラスみんなで卒業したいし…追試頑張ってね)


◯「(久保さんが貸してくれたノートのコピー、めちゃくちゃ分かりやすかった。追試や卒業試験を突破できたのもあれのおかげかもしれない)」



衛「齋藤飛鳥」

飛「はい!」

(齋藤飛鳥。一応クラスメイトなんだけど)

(呼び方、飛鳥でいい。…追試頑張れ)


◯「(飛鳥にも世話になったな。無愛想に見えるけど本当は凄い優しい奴だって、俺は知ってる)」



衛「白石麻衣」

麻「はい!」

(私たちも二人のグループに入れてもらえないかな?)

(勇紀があんなに楽しそうにしてるの、久しぶりに見たかも。設楽くんのおかげなのかな、ありがとね)

(隠しごとはもう無し!これからはみんなで楽しい思い出作ろ!)


◯「(あの時俺たちのグループに来てくれなかったら、きっと何もかも始まってなかった。正体を知っても友達でいてくれて、支えてくれて、何度も救われたんだ)」



衛「山下美月」

山「はい!」

(ごめん、やっぱり私帰るね)

(設楽くん、誘ってくれてありがとう。すっごく楽しかったよ)


「(一方的で無理な約束だったのに、あの時駆け付けてくれたな。…チームスポーツってのも悪くなかっただろ?)



衛「日村勇紀」

日「はい!」

(俺、同じクラスの日村勇紀っていうんだ。よかったら、友達になってくれないかな…?)

(◯◯だけは、そんな卑怯な真似しないと思ってたよ。少し幻滅した)

(もっと早く言ってほしかった。一人で抱え込んで苦しむくらいなら、もっと頼ってほしかった…)


◯「(初めに友達になってくれたのが勇紀だったな。ぶつかることもあったけど胸を張って言える。お前は、俺の親友だ)」




そしていよいよ、◯◯の番がやってくる


壇上に上がり、衛藤は◯◯と目を合わせ優しく微笑む

衛「設楽◯◯」

◯「はい!」


(担任の衛藤です。よろしくね)

(人の心は自己主張だけじゃ動かないわ。相手の気持ちになって心に寄り添うこと。今のあなたはそれをせずただ甘えているだけよ)

(うん、良い顔してる)


◯(「バカで頑固で、めちゃくちゃ迷惑かけたと思います。でも、先生は逃げずに正面からぶつかってくれた。俺はそれが本当に嬉しかったです)」



衛藤の呼名を受け、校長である深川が◯◯に卒業証書を授与する

深「卒業おめでとう。よく頑張ったわね」


◯◯は込み上げてくるものを必死で抑えながら、証書を受け取って一礼する


◯「(高校に通えて…いや、この学校でみんなに出会えて、本当によかった)」


壇上から降りる◯◯の目は、溢れんばかりの涙で潤んでいた





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卒業式から約1ヶ月が経ち、クラスメイトたちもそれぞれ新しい生活を送っていた


絵「ごめーん!待った?」


絵梨花のバイト終わり、二人はカフェで待ち合わせをして久し振りに会った


◯「いや、俺もさっき来たところ。悪いな、バタバタしてて中々会えなくて」


絵「ううん、大丈夫だよ。どう?予備校の授業は」



そう、◯◯は高校を卒業後、なんと予備校に通っていた


みんなとは一年遅れにはなるが、大学への進学を目指している


◯「元があれだからな、さすがに絵梨花と同じ大学は無理だろうけど、なんとか頑張ってるよ」


絵「そっか…。でも、◯◯が頑張ってるって思うと私も嬉しい」


絵梨花は目を細め、嬉しそうに笑った



絵「そういえばその…家の、組のことは大丈夫なの?」


◯「…ああ。親父には悪いが、卒業式の後、組は継げないってことを伝えたよ。『散々迷惑掛けた挙げ句、こんな勝手なことして済まなかった』って謝ったら、親父は『お前のやりたいようにやれ。どんな形であれ、子が決めたことを尊重するのが親だ』って言ってくれたよ」


絵「いいお父さんだね」


◯「まあ、組もあいつになら任せられるしな」


◯◯が堅気になるにあたり浮上するのが跡目の問題だが、そんな◯◯本人から強い推薦があった男がいた


それが藤森慎吾である


元々敵対組織の幹部だった男だが、◯◯と設楽組のピンチを救った彼を拒否するものは誰もいなかった


腕っぷしだけでなくカリスマ性も備えており、◯◯に代わり若頭の役割を担うことになったのである



◯「春休み中に、勇紀と麻衣も付き合い始めたんだって?」


絵「そうなの!この前二人に会った時もうラブラブでさ、見てるこっちが恥ずかしくなっちゃう」


◯「ははっ、まああの二人なら心配ないだろ」


絵「うん、ちょっとやそっとじゃ別れたりしないと思うよ」


◯「みんな元気でやってるんだな…。俺も頑張らねえと」


親友たちの近況を聞き、改めて身が引き締まる◯◯だった




◯「絵梨花」


絵「ん?」


◯「俺さ、夢が二つできたよ」


絵「えー?なになに?」



◯「一つは…大学に行って、教師になりたいと思ってる。あの頃の俺みたいな奴らに、一歩踏み出す勇気を与えたい」


絵「へー!でも確かに、◯◯って意外と良い先生になりそうだよね」


◯「意外は余計だけどな」


絵「それで…二つ目は?」


絵梨花は興味津々に訊ねるが、◯◯は少し考えてからこう言った



◯「…二つ目は、一つ目の夢を叶えてから言うことにするよ」


絵「え〜、何それ!気になるよ〜!」


◯「んじゃ、そろそろ時間だから行くか」


絵「ちょっと、はぐらかさないでよ〜!」


頬を膨らませぶーぶー言っている絵梨花を見て、◯◯は楽しそうに笑うのだった





とある若頭の高校生活 -完-

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