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僕と五百城さんの46日戦争⑦

43日目


月曜日の朝

いつもの待ち合わせ場所に茉央はおらず、この日も一緒に登校することはなかった。

しかし、一人で登校した○○が教室で美空と話していると、茉央が登校してきた。

○○「おはよう」

美空「おはよう、茉央」

茉央「…おはよ」

○○に続くようにして美空も声を掛けたことで、やや間は空いたものの挨拶は返ってきていた。

美空「…とりあえずは一安心だね」

○○にだけ聞こえる声で囁く美空。

作戦実行のためには茉央が学校に来てくれる必要がある。

そういった意味では、まずは第一段階クリアと言えるだろう。


帰りのホームルーム

「明日からはいよいよ文化祭だ。楽しむのは結構だが、ハメを外しすぎるんじゃないぞ?」

担任の冗談めかした言葉に、教室中が笑いに包まれる。

「はい、それじゃ号令!」

「気をつけ!礼!」

「「ありがとうございました!」」

ホームルームも終わり、生徒たちは早速帰り支度を始めた。


そんな中、○○は足早に教室を後にする。

○○「あれ、五百城さんの靴箱ってどれだっけ…?」

手紙を入れるため、茉央の靴箱を探す○○。

できれば今日中に渡したいため、茉央が靴を履き替えてた時の記憶を辿る。


茉央「そこに立たれてたら履き替えられないんやけど…」

○○「あっ、ごめん…」

靴箱を探すのに時間を取られて、まさかのご本人登場という失態を犯してしまった。

○○(…仕方ない!)

○○は気を取り直し、鞄から手紙を取り出して茉央に渡した。


○○「これ、読んでほしい」

茉央「…うん」

茉央は少し戸惑いつつも、素直に受け取ってくれた。

○○「…待ってるから」

それだけ言い残して、○○は早足で校内へと戻っていく。

茉央「なんやねん…忙しいなぁ」

茉央は少し緩んだ表情でそう呟くと、○○から受け取った封筒を大事そうに鞄にしまった。




音楽室

美空「手紙渡せた?」

○○「うん。予定とは違って直接渡すことになっちゃったけど…」

△△「後は明日来てくれることを願うばかりだな」

○○「…そうだね」


△△「それじゃ練習するか。いよいよ明日だし、集中して行くぞ」

○○「うん、よろしく!」

○○と△△は最後の練習に励み、美空はそれを微笑みながら見守るのだった。


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44日目


いよいよ文化祭当日を迎えた。

覚悟はもう決まっているからか特に眠れないようなことはなく、ぐっすりと眠ることができた。

朝食を食べ、身支度を済ませて学校に向かう。


校門をくぐると、各クラスの個性豊かな飾り付けや屋台が並び、早くも祭りの様相を呈している。

美空「おはよ!」

○○「おはよう」

○○が教室に入ると、既に美空が来ていて挨拶を交わした。

美空「大丈夫?ぐっすり眠れた?」

○○「うん、バッチリだよ」

美空「よかった!」

そのまま二人で談笑していると、他のクラスメイトも続々と登校してくる。

その中には茉央の姿もあった。

○○「おはよう」

茉央「おはよ…」

気まずそうに目を逸らされてしまったものの、返事が返ってきたことに少し安堵する。


○○のクラスではメイド喫茶をやることになっており、今は衣装合わせをしている。

可愛らしさとはかけ離れた男子のメイドもいるが、それもまた青春らしさを演出している。

○○「うわぁ…キッチン担当でよかった」

△△「間違いないな」

男子のメイド服を見て、○○と△△は苦笑いしながら呟いた。

二人はキッチン担当だったため、衣装を着ずに済んでいた。


そうこうしているうちに女子たちも衣装合わせが終わったらしく、続々と教室に入ってくる。

茉央「ちょっと美空…押さんといてっ…」

美空「いいからいいから♪」

恥ずかしそうに顔を隠しながら、茉央が○○たちの前に姿を見せた。

美空「ほーら、顔隠さないの!」

美空に促され、茉央はおそるおそる顔を上げる。

茉央のメイド服は露出は控えめではあるがとても可愛らしく、艶やかな黒髪に白い肌が映えて見えるためか、他を圧倒するほど似合っていた。

美空「○○くん、感想は?」

美空にニヤニヤしながら肘でつつかれる。

○○「似合ってるよ…凄く可愛い」

茉央「あ…ありがと…」

顔を赤らめながら、小さくお礼を言う茉央。


美空「ちょっと〜?私には?」

○○「も、もちろん似合ってるよ。ハマり過ぎてて怖いくらい」

美空「えへへ…ありがと♪」

少しの皮肉を込めて言ったのだが、どうやら美空はご満悦のようだ。


○○「それじゃあ準備しようか。もうすぐ開店だし」

美空「そうだね。みんな頑張ろう!」

「「おーっ!!」」


○○たちのクラスは予想以上の反響を得て、瞬く間に大盛況となった。

クラスの女子たちは料理や接客を手際よくこなし、男子たちもそれをサポートするように動き回っている。

その中でも一際目を引くのが美空だ。

元々顔が整っている上に対応も抜群に良いため、メイド喫茶はまさに美空の独壇場だった。

控えめながらも健気に対応する茉央も人気を博している。

そんな中、○○は忙しなく動きながらクラスのために奮闘していた。


「○○、お前休憩取ってないだろ?交代だから行ってこい」

そう声をかけてくれたのは、同じくキッチン担当のクラスメイトだ。

○○「ううん、大丈夫だよ。どっちにしろ後少しで抜けることになっちゃうし…」

「だったら尚更だろ。ステージ出るんだから、△△と二人で抜けて大丈夫だぞ」

周りを見ると、クラスメイトたちが賛同するように頷いている。

○○「みんな…ありがとう!」

○○と△△はクラスメイトたちに礼を言って、その場を後にする。

△△「あいつら…みんないい奴だな」

○○「だね。みんなの分まで頑張らなきゃ…!」

まだ仕事が残っていて抜けられない美空に茉央のことを連れて来てもらうようお願いし、二人はステージのある体育館へと向かった。


桜「あ…○○くん!」

体育館に着くと、実行委員としてステージの進行などをしていた桜が駆け寄ってきた。

桜「次の次が○○くんたちの出番だよ。頑張ってね!」

○○「うん、ありがとう」

桜と別れてステージに向かう途中で、○○は△△に問いかける。

二組前の発表が終わり、二人はステージ袖に待機する。


○○「緊張してる?」

△△「そうだな…それなりに」

○○「僕も。でも、何だか楽しみでもあるんだよね」

△△「奇遇だな。俺もだ」

二人で笑い合いながら、その時が来るのを静かに待つのだった。



桜「…軽音楽部の皆さん、ありがとうございました!」

どうやら一組前の発表が終わったようだ。

△△「さ、出番だな。…行こうぜ、相棒」

○○「うん…!」

力強く拳を合わせる。

桜「続いては、2年A組の小川○○くんによるソロ歌唱になります!同じく2年A組の△△くんが伴奏を務めます!」

舞台袖から桜に呼ばれ、二人はステージへと上がった。

パチパチと拍手が鳴り響く中、△△はピアノの前に座り、○○は中央にあるスタンドマイクの前に立つ。

客席の後ろの方には、途中で抜けてきたことが窺える、メイド服のままの茉央と美空の姿があった。


○○はゆっくりと口を開く。

○○「僕には…好きな女の子がいます」

その一言で会場がざわつく。

○○「笑顔が素敵で、料理が上手で、怖がりでどこかちょっと抜けてて…。でもいつも僕に元気をくれる、そんな彼女のことが僕は大好きです」

そう告げると、客席からは黄色い歓声が上がる。

そんな様子とは対照的に、茉央はステージをじっと眺めたまま口をつぐんでいる。


○○「そんな彼女に伝えたい想いが、この曲には全て詰まっています。それでは聞いてください、FUNKY MONKEY BABYSで『告白』」

曲名を告げると一瞬ざわめくが、すぐに静寂に包まれた。

○○が目で合図を送ると、△△は小さく頷き、ピアノを弾き始める。

その優しくも力強い音色に背中を押されるように、○○は歌い出す。


「君に伝えたいことがある
胸に抱えたこの想いを
うまく言葉にできないけど
どうか聞いて欲しい」


○○は初めのワンフレーズで、観客の心を鷲掴みにしてみせる。


「いつの間にか夜も眠れないぐらい
君を想っていた
眠ったって夢の中で探すくらい
想いが募っていた
君に全部伝えたらこの関係
壊れちゃいそうで
でも友達のままじゃ辛くて
だから全部伝えたくて」


楽しかった日々やすれ違ってしまった日々を思い出しながら、歌声に感情を乗せていく。


「いざ君の目の前に立つと
勇気が臆病風に吹かれ
散々予習したフレーズ
胸から溢れ出して忘れる
熱くなる鼓動が痛いぐらい
本当に僕らしくない
もうカッコ悪くてもいいや
とにかく君に聞いて欲しいんだ」


○○の熱の入った歌声に、観客のボルテージもどんどん高まっていく。

そして曲はサビに入る。


「大好きだ大好きなんだ
それ以上の言葉をもっと上手に届けたいけど
どうしようもなく溢れ出す想いを伝えると
やっぱ大好きしか出てこない」


そんな飾らない真っ直ぐなメッセージが、会場中に響き渡る。

「大好き」

これ以上の言葉はもう必要ないと言わんばかりに。


ステージから遠く茉央の表情までは確認できないが、真っ直ぐにこちらを見てくれているのは分かった。

そんな茉央に想いが届くようにと、○○は歌い続ける。


「本当は恐くて不安もあるけど
君のこと君の夢守れるように
もっと強くなると約束して
今すぐにまっすぐに君の街へ
君の元へ」


いよいよ最後のサビに差し掛かるところで、△△は伴奏の音程を僅かに変化させる。

それに合わせるように、○○は今までで最大の声量で歌い上げた。


「大好きだ大好きなんだ
それ以上の言葉をもっと上手に届けたいけど
どうしようもなく溢れ出す想いを伝えると
やっぱ大好きしか出てこない
ただそれだけで でもそれがすべて」


「君に伝えたいことがある
胸に抱えたこの想いを
うまく言葉にできないけど
どうか聞いて欲しい」


最後のフレーズを歌い終え、深く礼をする○○。

それと同時に、割れんばかりの拍手が鳴り響く。


鳴り止まない拍手に包まれながら、○○は茉央がいる方向へと視線を向けた。

相変わらず遠くて表情までは分からないが、何となく伝わった気がした。

○○の想いがちゃんと届いていることを…。




文化祭初日も無事終わりを迎えた。

生徒たちは明日も続くお祭りに、胸を踊らせながら下校していく。

そんな中、○○はすっかり暗くなった空を見上げながら、屋上の手すりに寄りかかって一人黄昏ていた。


「風邪引くで…そんなとこずっといたら」

程なくして、背後から声を掛けられる。

振り返ると、そこには茉央の姿があった。

○○「五百城さん…」

茉央「ごめんな?ほんまはすぐ話したかったんやけど、中々タイミング合わんくて…」

申し訳なさそうにしながら、茉央は○○の隣に寄りかかる。

二人の間に何とも言い難い沈黙が流れるが、先に口を開いたのは○○だった。


○○「ごめんね、あんなズルい伝え方で…」

茉央「ううん、嬉しかった…。やっぱり○○くんの歌は上手やなぁ」

そう言って、茉央は柔らかく微笑む。

○○「…あの時もそうやって褒めてくれたよね」

茉央「あの時って…カラオケ?」

○○「うん。あの時五百城さんが褒めてくれたから、今回あんな人前で歌う決心がついたんだ。本当にありがとう…」

茉央「そんな…茉央はなんもしてへんよ」

謙遜する茉央に、今度は○○が微笑みかける。


○○「あのね、五百城さん。ずっと言いたかったことがあるんだ」

茉央「うん…」

そう頷いて、静かに耳を傾けてくれる茉央。

○○「…今度は歌じゃなくて、自分の言葉で伝えるね」

○○は茉央の方に向き直り、真っ直ぐ見つめて口を開く。


「僕は…五百城さんのことが大好きです」


シンプルな言葉だが、ありったけの想いを込めてそう告げる。

茉央「っ…!」

茉央は一瞬驚いた表情を浮かべてから、何かを堪えるように口をつぐむ。


しかし次の瞬間には、目に大粒の涙を溜めて○○に抱きついた。


茉央「まっ…茉央も…○○くんのことが大好きぃ…」


泣きじゃくりながら想いを告げてくれる茉央をしっかりと受け止め、優しく頭を撫でる。


そんな二人の様子を、月明かりが静かに照らしていた。

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45日目


○○「おはよう、"茉央"」

茉央「おはよう、"○○"」

久し振りに一緒に登校するため、二人はいつもの場所で待ち合わせをしていた。

茉央「やっぱあかんわ…急に呼び方変えたら恥ずかしくてたまらん…」

○○「確かに…」


お互いの想いを確かめ合い、無事に結ばれることとなった二人。

その後も下校時刻ギリギリまで話し込み、一緒に話しながら帰り、更には帰ってからも長電話をするなど、すれ違ったまま過ぎてしまった時間を取り返すように話し続けた。

会話の中で呼び方も変えてみようという話になり、お互いに名前の呼び捨てで呼ぶことになったのだった。

茉央「…やっぱりもう少し今まで通りでもええ?なんかむず痒いわ…」

○○「うん、僕もそう思った。ゆっくりちょっとずつ慣れていこうか」

茉央「そうやね」


○○は学校へ向かうため歩き出そうとするが、茉央はその場に立ち止まったまま動かない。

振り返って茉央を見ると、彼女は何か言いたげにモジモジしている。

○○「どうしたの?」

茉央「…その、えっと…手ぇ繋いだらあかん…?」


上目遣いでおずおずと尋ねてくる茉央に、胸がキュンと高鳴るのを感じる。

もちろん断る理由などない。

○○は優しく微笑み、手を差し伸べる。

茉央「えへへ…♪」

茉央は嬉しそうにはにかみながら、その手をぎゅっと握る。

そんな彼女が愛おしくて、自然と笑みが溢れた。


○○「それじゃあ行こうか」

茉央「うん!」

繋いだ手から互いの温もりを感じながら、学校へ向かって笑顔で歩き出すのであった。

文化祭もいよいよ最終日である二日目を迎える。

○○のクラスのメイド喫茶は、この日も大盛況だった。

昨日の評判を聞きつけた他クラスや他校の生徒たちが押し寄せて、大忙しである。


この日は美空が午前中不在だったので、それに匹敵する人気だった茉央は特に忙しそうに働いていた。

○○はそんな茉央をフォローしながら、呼び込みや会計などを買って出ていた。

ピークであるお昼時が過ぎ、メイド喫茶からも少しずつ人がまばらになり始めた。

茉央「はぁぁ〜!やっと一息つける〜」

○○「お疲れ様、大人気だったね」

茉央「うん…もうヘトヘトやわ…」

そんな会話を交わしていると、美空と△△が休憩スペースに入ってきた。


美空「二人ともお疲れさま〜!午前中はありがとね♪」

○○「そっちはどうだった?ちゃんと楽しめた?」

美空「うん、とっても!」

美空は満足そうに言うが、△△は少し照れ臭そうに頬を掻いている。

茉央は一人何のことか分からず、キョトンとしていた。

○○はそんな茉央に向かって優しく微笑みながら言った。


○○「文化祭、午後から一緒に回ろう」

茉央「え?いいの…?」

美空「○○くんと話してたんだ。片方がカバーすれば、もう片方が文化祭回る時間作れるんじゃないかって。それで私たちも午前中は回ってきたから…午後からは二人が楽しむ番だよ♪」

茉央「そっか…ありがとう…」

△△「ほら、せっかくの時間が無くなっちまうぞ?早く行ってこい」

○○・茉央「「行ってきます!!」」

△△に急かされ、二人は手を取り合いながら教室を出ていった。


美空「ふふっ…可愛いなぁ〜♪」

二人の背中を見送った後、微笑ましそうに呟く美空。

△△「やけに上機嫌だな」

美空「だって…本当に可愛いんだもん♪」

美空はスマホの画面に目をやりながら言った。


△△「…おい、ちょっと待て。何してんだよ」

画面を覗き込むと、そこにはりんご飴を片手に満面の笑みを浮かべる△△の姿が。

美空「せっかくだからロック画面にしちゃお♪」

△△「いつ撮ったんだ!消せ!」

美空のスマホを取り上げようと手を伸ばすが、ひらりと躱されてしまう。

そのまま廊下に出て走り去っていく美空に、後を追いかける△△。

○○たちと形は違うが、こちらはこちらで仲良くやっているようであった。


制服に着替え、校内を回っていた二人。

昼食もまだだったため、まずは屋台でたこ焼きを買うことにした。

○○「買ってくるから待ってて」

そう言ってたこ焼きを買いに行く。

そんな様子を遠くから見ていた茉央は、静かに頬を膨らませていた。


○○「ここに座って食べようか」

人混みから離れた場所にあるベンチを指差し、茉央を誘う。

○○「どうしたの?さっきからずっと黙ってるけど…」

茉央「別に…可愛い子に囲まれて嬉しそうやったなぁって」

昨日のステージを観ていた売り子の女子生徒に話しかけられていた○○だった。

○○「そんなことないと思うけど…」

茉央「いや、そんなことあったやろ」

○○「困ったなぁ…」

苦笑いを浮かべる○○に対し、茉央はプイッと顔を背けた。


○○「ほら、あーん」

たこ焼きを竹串に刺すと、茉央の口元へと差し出す。

茉央「ふえっ!?」

突然のことに驚きつつも、恥ずかしそうに口を開ける茉央。

○○はそこへたこ焼きを放り込む。

茉央「はふっ…はふっ…」

○○「あ、ごめんね!熱かった?」

○○は慌てて水を差し出した。


茉央「ふぅ…もう、いきなりなんなん…」

憎まれ口を叩きつつも、その顔はどこか嬉しそうだった。

○○「ふふ…ごめんね?でも、僕にとって一番可愛いのは茉央だよ」

茉央「っ!?そ、そんなお世辞言われても嬉しくないわ…」

不意打ちに動揺したのか、モジモジしながら目を逸らす。

そして何かを思いついたように、再び口を開いた。


茉央「でも…お礼に次は茉央が食べさせたる…」

そう言ってまだ熱々のたこ焼きを○○の口に放り込んだ。

○○「あつっ!あつっ…!」

茉央「ふふ…さっきのお返しや♪」

悪戯っぽく笑いながら、○○に水を手渡す。


○○「ぷはっ…もう、勘弁してよ…」

茉央「あ…」

何かに気付いたのか、顔を真っ赤にして俯いた。

そんな茉央の反応に、○○は首を傾げる。

○○「どうしたの?」

茉央「いや…その、間接キス…してもうたなって」

○○「あっ…」


少しの沈黙の後、お互いに顔を見合わせた二人は同時に吹き出した。

○○「あははっ…なんだか楽しいね」

茉央「ふふっ…ほんまやね…」

そう言って笑い合う二人。

その瞬間だけはここが学校であることを忘れてしまいそうなほど心地よかった。


茉央「文化祭、終わってもうたなぁ…」

文化祭のフィナーレを飾る後夜祭。

キャンプファイヤーを囲んだ生徒たちが踊る中、○○と茉央は二人並んでその様子を眺めていた。


○○「あっという間だったね」

屋台を巡ったり、お化け屋敷で怖がったり、その後も文化祭を満喫した二人。

茉央「うん…ほんまに」

そう呟く彼女の横顔には、寂しさの色が見て取れた。


○○「五百城さん…?」

茉央「え…?」

彼女は涙を流していた。

茉央「あれ…?どうしたんやろ…なんで…」

止めようとしても止まらない涙に戸惑う茉央。

そんな彼女を○○はそっと抱きしめた。

茉央「っ!」

突然の出来事に動揺する茉央だが、○○の背中に手を回すと、ぎゅっと抱きしめ返す。


茉央「嫌や…離れるなんて嫌や…!」

そう言って更に力を込める。

○○はそんな茉央の頭を撫でると、優しく語りかけた。

○○「僕にできることなら何でもするから…」

茉央「ほんま…?」

○○「うん。だから遠慮しないで言ってみて?」

その言葉に、茉央はゆっくりと口を開いた。


「毎日LINEしてほしい…」

「分かった。もちろんする」


「それから…時間がある時は電話したい…」

「うん、それもしよう」


「…今日みたいに、またあーんってしてほしい」

「いいよ。たくさん食べさせてあげる」


「あと…たまにでええから会いに来てほしい…」

「…うん。必ず会いに行くよ」


涙声で一つ一つ要望を口にする茉央に、しっかりと答えていく。

「他には…何かある?」

「キス…してほしい」

その言葉に一瞬目を丸くする○○だったが、すぐに微笑んで茉央の涙を拭う。

そっと顔を近づけると、茉央もそれを受け入れるように目を閉じた。

やがて、お互いの唇が触れ合う。

初めてのキスは甘く切ない味がした。


茉央「…ありがとう」

そう言って、涙で濡れた笑顔を見せる。

そんな彼女が愛おしくて堪らなくなり、再び抱き寄せた。

茉央「…大好きやで」


その言葉に、○○は何も返すことなくギュッと抱きしめ続ける。

…正確には、何も返すことができなかった。

○○も泣いていたから。


肩を震わせる○○を見て察したのか、茉央は何も言わず、頭をそっと撫でる。

全てを受け入れるように、ただただ優しく抱きしめるのだった。


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46日目


○○「お、お邪魔します…」

文化祭の翌日、○○は朝から茉央の家にやって来ていた。

なぜこうなったかの経緯は昨晩に遡る。


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帰宅後、茉央から電話が掛かってくる。

茉央『もしもし?今大丈夫やった?』

○○『うん、大丈夫だよ』

茉央『その…明日って、朝茉央の家寄れたりせえへん…?』

○○『特に何もないから大丈夫だと思うけど…どうしたの?』

茉央「あんな…ついにお父さんの会社で辞令が出たらしいんよ。けど、茉央一人で聞くの怖いから…○○くんにも一緒にいてほしいねん…』

○○『そっか…分かった。それじゃ朝行くよ』

茉央『ほんまに?ありがとう!』

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という経緯で、茉央の家にお邪魔することになったのである。

茉央「ごめんな?朝からわざわざ来てもらって…」

○○「ううん、全然平気だよ」


茉央はやはりどこか緊張している様子だった。

リビングに案内されると、茉央の両親が待っていた。

茉央母「いらっしゃい。わざわざ来てくれてありがとうね」

○○「初めまして。茉央さんとお付き合いさせて頂いております、小川○○と申します」

茉央父「君が○○くんか…。茉央が最近楽しそうにしていたのは、どうやら君のおかげのようだね」

茉央「ちょ、お父さん…!」

そう言って優しい笑みを浮かべる茉央の父。

母親の方もニコニコしていて、優しそうな印象を受ける。


茉央父「…君なら安心して任せられる。これからも茉央をよろしく頼むよ」

そう言って○○の肩をポンっと叩いた。

茉央「お父さん…それって…?」


茉央父「…異動の件だが、無かったことになった」

茉央「え!?」

予想外の返答に、茉央は驚きを隠せない。

茉央父「別の社員が後任として異動することが決まってな、父さんは東京支社に残ることになった」

茉央「それって…引っ越さなくて良くなったってことなん!?」

茉央父「そういうことだ。…心配掛けてすまなかったな」

茉央「っ!よかったぁ…!!」

茉央は○○と顔を見合わせると、安堵から目に涙を浮かべて喜んだ。

茉央父「さ、積もる話もあると思うが、そろそろ登校の準備をしなさい」

茉央「うん!」

元気に返事をすると、茉央は自分の部屋へと向かっていった。

茉央父「…というわけだ。これからも娘をよろしく頼む」

○○「はい…!」

その後、準備が終わった茉央と合流して学校へと向かうのだった。


…後日、しばらくして茉央の母から聞いた話だが、茉央の父は異動を断った上に、転勤が無い部署に自ら異動を願い出たらしい。

昇進も今の地位も全て捨てて、家族を選んだのだ。

将来の自分がそんな立派な父親になれるかは分からないが、今はただ、隣にいる彼女を大切にしたいと思う○○だった。



茉央「最近めっきり寒くなって、人肌が恋しい季節になってきたなぁ」

隣を歩く茉央は白い息を吐きながら、そんなことを言い出した。

○○「はいはい、分かったよ」

○○は茶化しながら手を差し出す。

茉央はクスクスと笑いながら、その手を取った。

茉央「えへへ…♪○○の手あったかいなぁ…」

○○「茉央の手は冷たいね…」

お互いの手を温め合いながら歩く。

色々とあったからか、いつの間にか自然に呼び捨てで呼び合えるようになっていた。


茉央「知っとる?手があったかい人って心が冷たいらしいで?」

○○「ふふ、じゃあ茉央は心が温かいんだね」

茉央「その返しはずるいわ…。言い出した茉央の方が恥ずかしくなってくるやん…」

○○「あはは、ごめんごめん」

茉央「むぅ…」

茉央は不機嫌そうに頬を膨らませている。


そんな彼女を見て、○○は思わず笑ってしまう。

茉央「もぅ…○○のいじわる…」

言葉とは裏腹に、茉央はどこか楽しそうな表情を浮かべていた。



○○「そういえばさ…」

茉央は首を傾げながら○○の方を見る。

○○「あの勝負ってどっちの勝ちなの?」

茉央「え?」

○○「ほら、『どっちが相手を好きにさせられるか』…ってやつ」

茉央「あっ…!それは…えっと…」

急にしどろもどろになる茉央。

○○「もしかして…僕の勝ちだった?(笑)」

○○が煽るように言うと、茉央は考えるように黙り込んだ後、恥ずかしそうに口を開いた。


茉央「…多分な、勝敗ははじめから決まってたと思うんよ」

○○「…どういう意味?」

茉央「えっとな…茉央は、初めて神社で会ったあの日に…既に○○に恋してたんやと思うねん」

○○「え…」

茉央「やから…茉央の負けや!」

茉央はそう言って目を細めるようにして笑う。


○○「…僕もだよ」

茉央「へ?」

突然のことに戸惑う茉央の手を少しだけ強く握ると、○○は続けた。

○○「あの日、初めて神社で会った日からずっと…茉央のことが好きだったんだと思う」

茉央「…そっか」

茉央は少しだけ嬉しそうに笑うと、腕を絡めてきた。

茉央「…ほんなら、引き分けやな」

○○「うん…そうだね」

そして、そのままぎゅっと身体を寄せてくる。

冷たい風が吹く中で感じる彼女の体温は、とても心地よかった。


茉央「…ちょっとこっち向いて?」

○○「なに…っ!?」

チュッという軽い音と共に唇に伝わる感触。

それはほんの一瞬だったが、確かな温かさを持っていた。

茉央は顔を離すと、ぺろっと舌なめずりをする。

まるで悪戯っ子のような仕草にドキッとした。



茉央「なあ、もう一回勝負せえへん?」

○○「…何の勝負?」

○○が聞き返すと、茉央はとびっきりの笑顔で言った。

茉央「…次は、この人とずっと一緒にいたいって思わせた方が勝ちや!覚悟しいや!」


…どうやらこの勝負も勝てそうにない。

だって僕は、もう既に彼女と離れるつもりなんてないから。



僕と五百城さんの46日戦争 -完-

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