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僕と五百城さんの46日戦争⑥

36日目


昨晩、茉央から『明日は先に行っててほしい』との連絡があったため、○○は一人で登校した。

○○が教室に着いてからしばらくした後、茉央が教室に入ってきた。


○○「おはよう、五百城さん」

茉央「お…おはよう」

どこかぎこちない挨拶を返すと、そのまま自分の席へと行ってしまった。

○○(やっぱりこの前のことがあったから気まずいのかな…?)

その日の茉央は終始○○を避けるようにしており、ろくに会話もできなかった。

帰りも一緒に帰ろうと誘ったが、用事があると言って断られてしまった。

○○(仕方ない…。時間が解決してくれると信じよう…)



その頃、職員室にて

茉央「先生、お話があるんですが…」

茉央は父から言われた通り、担任に引っ越しの可能性があることを告げた。

用事とはこのことだったのだが、双方のすれ違いもあり、ギクシャクしたまま一日が終わってしまった。


この小さなすれ違いが、二人の間に大きな溝を作ってしまうことになるとは知る由もなかった。


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37日目


この日も一人で登校することになった○○。

茉央とのLINEでのやり取りも、昨日に続き『明日も別々で』『了解』といった淡白な内容のみであった。

○○(やっぱり僕がはっきりしなかったのが悪いよなぁ…)

学校に着いた○○はため息をつきながら下駄箱を開けると、小さな紙切れが落ちた。

○○「ん…?」

拾ってみると、それは可愛らしい便箋だった。

『昼休み屋上で待ってます』

差出人の名前は書いていなかったが、筆跡からおそらく女子であろうことが推測できた。

○○(これ、もしかして…)


教室に入り、登校してきた茉央に声をかける。

○○「おはよう」

茉央「あ…おはよ…」

だが、やはりどこか素っ気ない返事を返される。

普段であれば笑顔で返してくれるのだが、やはり表情は曇ったままだ。



そして迎えた昼休み、

○○が屋上の扉を開くと、一人の女子生徒が立っていた。

その女子生徒は○○の姿を見て、ニコッと微笑んだ。

「来てくれてよかった」

○○「君は…」

そこにいたのは、クラスメイトの川﨑桜だった。

クラスどころか学年でも指折りの美少女であり、成績も運動神経もいいため男女問わず人気者だ。


桜「突然ごめんなさい…。どうしても伝えたいことがあって…」

恥ずかしそうにモジモジする様子が可愛らしいが、どこか緊張しているようにも見える。

桜「えっと…五百城さんとは付き合ってるの…?」

○○「え?」

桜「凄い仲良さそうに見えるから、もしかして付き合ってるのかなって…」

○○「ううん…付き合ってないよ」

桜はホッとしたような表情を浮かべる。

桜「そ、そっか…よかった…」

そして意を決したように口を開く。


桜「わ、私…○○くんのことが好きです…!」


顔を真っ赤に染めながら必死に気持ちを伝えてくる。

そんな彼女の姿を見て、思わずドキッとしてしまう。

桜「良ければ…私と付き合ってください!」

そう言いながら頭を下げる桜。

突然のことに、○○は戸惑いを隠せない。


○○が言葉を返せないでいると、

桜「急にごめんね。返事は今度でいいから…」

桜はそう言い残し、屋上から走り去ってしまった。

自分には好きな人がいるはずなのに、なぜ何も言えなかったのだろう。

残された○○は、しばらくその場で呆然と立ち尽くしていた。


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38日目


昼休み、○○は昨日と同じく屋上に来ていた。

用事はなかったが、なんとなく一人になりたい気分だった。

今日も茉央とはまともに話せていない。


△△「よう、大丈夫か?」

声の方を見ると、△△と美空が心配そうにこちらを窺っていた。

○○「…どうしたの?」

△△「屋上で昼飯食おうと思って来たら、なんか黄昏てたからよ」

美空「何かあったの?」

美空が首を傾げながら問いかける。

○○「えっと…その…」

美空「私たちで良ければ、相談乗るよ?」

△△「まあ、話したくないなら無理には聞かねえけどよ」

二人が自分の事を心配してくれているのが伝わり、胸が温かくなる。

○○はゆっくりと話し始めた。


金曜日に茉央に告白されたこと。

それに対して言葉を返せなかったこと。

それ以来ギクシャクしてしまっていること。

そして、昨日桜に告白されたこと。

一通り話を聞き終えた二人は、納得したような表情を浮かべた。


△△「なるほどな…」

美空「それにしても、○○くんってモテるんだね」

○○「からかわないでよ…。真剣に悩んでるんだから」

美空「ごめんごめん。まあ茉央もね…色々あって今大変みたいだから」

△△「また引っ越すかもだなんて聞かされたら、そりゃ落ち込むわな」

○○「え…?」

美空「最近学校が凄い楽しいって言ってたからね、余計にショックだったんじゃないかな」

○○「ちょ、ちょっと待って…」


○○は二人の言葉に耳を疑う。

美空「どうしたの?」

○○「引っ越すって…誰が?」

美空「茉央だよ」

○○は頭の中が真っ白になった。

だが、混乱する頭を何とか落ち着かせながら問いかけた。

○○「な、なんで…?」

美空「お父さんの仕事の都合だって。まだ確定ではないらしいけど」

ショックのあまり言葉を失う○○。


美空「もしかして聞いてなかった?」

○○「うん…何も」

美空「…茉央も言いづらかったんだと思うよ。○○くんには特に」

△△「…あぁ、そうだな」

二人はそれ以上何も言わず、○○が落ち着くのを待ってくれていた。

そして、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。


美空「あ、もうこんな時間だね」

△△「じゃ、そろそろ教室戻るか」

○○「…うん」

三人は教室に戻っていった。


先程の会話が○○の頭の中をグルグルと駆け巡り、午後の授業の内容など全く頭に入ってこなかったのであった。


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39日目


帰りのホームルーム中

茉央(今日もほとんど話せてへん…)

茉央はため息をついていた。

未だにショックから立ち直れず、○○とどう接すればいいのかわからないのだ。

茉央(でも…)

ここでうじうじしていても何も変わらないし、きっと後悔するだろう。

茉央(残り少ない時間かもしれへんなら…最後は笑ってお別れしたい)

茉央は覚悟を決める。


日中が号令を掛け、帰りの挨拶が終わる。

○○は荷物を持つと、足早に教室を出て行ってしまった。

茉央(あかん…帰ってまう…!)

茉央は慌てて教室から出ると、○○の後を走って追いかけた。

急いで追いかけていると、ちょうど下駄箱で靴を履き替えている○○の姿を見つけることができた。

茉央「○○くん…!」

○○「五百城さん」

茉央「…よかったら一緒に帰らへん?」


「……」

一緒に下校することになった二人だが、しばらく沈黙が続いていた。

茉央「…ごめんな」

沈黙を破るように話し始める。

茉央「最近、なんか素っ気なかったやろ…?実はな、茉央引っ越すことになるかもしれんねん…」

○○「…そうなんだ」

茉央「お父さんの仕事の都合なんやけどね。まだどうなるかはわからんけど…」

○○「…うん」

茉央「本当はすぐ言いたかったんやけど、なんか言いづらくて…。でも、大好きな○○くんと、このままお別れなんて嫌やったから…」

勇気を振り絞って言う茉央。

しかし、○○の反応は予想だにしないものだった。


○○「…そんなの勝手だよ」

茉央「え…?」

茉央の思いを理解できていないわけではなかった。

しかし、ここ最近色々あり過ぎて頭の中がぐしゃぐしゃになっていた○○は、つい思ってもないことを言ってしまう。


○○「避けるだけ避けておいて、そんなの勝手過ぎるよ。どうせいなくなるなら、何も言わずにそのまま行っちゃえばよかったんだ。…今更そんなこと言われても、迷惑なだけだよ」

全てを言い終わってから、○○はハッとした表情を浮かべる。

○○「あ…」

次の瞬間には、ボロボロと涙を流す茉央の姿が視界に入った。

茉央「…ごめん」

そう言い残すと、茉央は逃げるようにその場を走り去ってしまった。


○○「最低だ…僕って」

追いかけることもできずにその後ろ姿を見送りながら、○○は小さく呟くのだった。


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40日目


昨晩、家に帰ってからも自責の念に苛まれた○○。

茉央に対し謝罪のメッセージを送るが、朝起きてからも既読さえ付いていなかった。

○○「はぁ…行きたくないなぁ…」

憂鬱な気分を引きずりながら、重い足取りで学校に向かう。

いつもの待ち合わせ場所を通過するが、そこには誰の姿も見られなかった。


ボーッとしながら歩いていたため時間ギリギリに教室に着いた○○だったが、茉央の姿はない。

やがてチャイムが鳴り、担任が教室に入ってくる。

「えー、今日は五百城が体調不良で休みらしい。寒くなってきたからな、皆も体調管理には気をつけるように!」

○○(体調不良なんかじゃない。きっと僕のせいだ…)

茉央の欠席を聞いた○○は、一人浮かない表情を浮かべていた。


昼休み、机に突っ伏して沈んでいた○○だったが、誰かに肩を叩かれる。

△△「…よお、ちょっといいか?」

顔を上げると、そこには△△の姿があった。

○○は黙ったまま小さく頷くと、二人は屋上へと向かった。

向かっている時も、屋上に着いてからもしばらく無言だった二人だが、やがて△△が沈黙を破る。

△△「…で?何があったんだよ」

○○「え…?」

△△「五百城が休んでること、それに今日のお前の様子を見てれば、何かあったことくらい分かる」

どうやら△△にはお見通しのようだった。

○○は観念したように、事の顛末を話し始めた。

話を聞いた△△は、苦虫を噛み潰したような表情を見せた。

△△「…そういうことか」

○○「だから、僕のせいなんだ…。最低なことを言ってしまった」

△△「いや…色々あって余裕がなかったのは分かってる。お前のことは責められねえよ」

○○「でも…」

情けない声を出しながら俯く○○に対し、△△が口を開く。


△△「俺は…一ノ瀬に告白しようと思ってる」

○○「えっ…!?」

△△から飛び出した意外な言葉に、○○は驚きの声を上げた。

△△「あいつは、自ら孤独を選んだ俺の近くにずっといてくれた。俺が塞ぎ込んだり弱音を吐いたりしても、いつでも側にいてくれたんだ」

○○「……」

△△「だから今度は…俺が一ノ瀬の支えになってやりたいんだ」

○○「…そっか」

真剣な眼差しで語る△△に対し、○○は小さく呟くだけだった。

そんな様子を見た△△は笑みを浮かべると、立ち上がった。


△△「お前はこのままでいいのか?」

○○「…え?」

△△「あの日俺に啖呵切ったお前はどこに行ったんだ?このまま何もせず、五百城と気まずいまま終わっていいのか?」

○○「で、でも…今の僕には…」

弱々しく呟く○○の肩に△△は手を置き、正面から真っ直ぐ見つめて言う。

△△「…お前にしかできないんだぞ?五百城が待ってるのは、他の誰でもないお前なんだぞ」

○○「……!」

その力強い言葉に、○○の目の色が変わる。

迷いが消えたその顔を見て、△△は満足そうに頷いた。


△△「今お前にできることをやればいいんだ。…後悔だけはするなよ」

○○「…ありがとう、△△」

昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

それはまるで、覚悟を決めた○○の背中を押すような音色であった。




放課後、○○は桜を屋上に呼び出していた。

○○「ごめんね、突然呼び出しちゃって」

桜「ううん、全然大丈夫だよ…」

○○「この前の返事の件なんだけど…」

桜「うん…」

○○は一つ深呼吸をすると、ゆっくりと口を開く。


○○「ごめん…川﨑さんとは付き合えない。…他に、好きな人がいるんだ」

桜「五百城さん…だよね?」

○○「うん…」

桜「そっか、やっぱりそうだよね…」

桜は悲しそうな表情を浮かべながらも、どこかスッキリとした顔をしていた。

○○「待たせてしまったのに、本当にごめん…」

桜「ううん、気にしないで!…むしろ私の方こそごめんね?」

桜は申し訳なさそうな表情を浮かべると、小さく頭を下げた。

○○(やっぱりいい子だな…この子と付き合えたら間違いなく幸せだと思う。でも…僕はもう迷わない)

○○の視線はもう下を向かず、真っ直ぐ前を見据えていた。


桜「じゃあ…これからもクラスメイトとして仲良くしてくれる?」

○○「もちろんだよ!」

桜「ふふ、ありがとう…。五百城さんとのこと、応援してるから…」

○○「そのことなんだけど…。川﨑さん、確か文化祭実行委員だったよね?」

桜「そうだけど…それがどうかしたの?」


○○「…一つお願いしたいことがあるんだ」


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41日目


見慣れた自分の部屋

○○はそこに、初めて家族以外を招いていた。


○○「ごめんね、土曜日なのに呼び出しちゃって」

○○は昨晩△△と美空の二人に連絡をし、話したいことがあるから家に来てほしいと頼んでいたのだった。

△△「いや、大丈夫だ」

美空「それで…話って?」

○○「うん…」

○○はゆっくりと、昨日の出来事を話し始めた。


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○○「一つお願いしたいことがあるんだ」

桜「お願い…?」

○○「文化祭の中で、ステージイベントがあると思うんだけど…」

例年文化祭では体育館のステージにて、軽音楽部や落語研究会、その他有志らによって、様々な形で発表が行われていた。

桜「うん、あるけど…」


○○「実は…それに参加させてほしいんだ」

桜「参加って…○○くんが?」

○○が小さく頷くと、桜は驚きの表情を浮かべている。

○○はお世辞にも人前に出るのが得意なタイプには見えず、桜もそう認識していたからだ。

○○「10分…いや5分でもいい、時間を作ってくれないかな?」

○○の真剣な眼差しに、桜は思わず息を呑んだ。


桜「…うん、分かった。なんとか調整してみるね」

桜は何かを察したのか、静かに頷きながらそう言った。

○○「ありがとう。…何から何まで迷惑かけてごめん」

桜「気にしないで?頑張ってね!応援してる」

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美空「そっか、ついに決めたんだね」

美空の言葉に、○○は力強く頷いた。

○○「うん…このままじゃ絶対後悔すると思うから」

△△は表情にこそ出していないものの、どこか嬉しそうにしている。


△△「それで…ステージでは何する予定なんだ?」

○○「うん…実は、この曲を歌おうと思ってるんだ」

○○はスマホを取り出し、曲を再生した。

曲が流れ終わると、二人は感想を漏らした。

△△「…良い歌だな」

美空「うん!まっすぐな歌詞が○○くんにピッタリだと思う!」

○○「ありがとう…」

二人の言葉に、少し照れ臭そうにする○○。


○○「僕らが小さい頃の曲なんだけど、今僕が伝えたい言葉の全てが詰まってるような気がするんだ」

△△「なるほどな…」

美空「私たちに何かできることはある?」

○○「それなんだけど、一ノ瀬さんには当日五百城さんを体育館に連れてきてほしいんだ。もちろん僕からも来てもらえるようにお願いはするけど…」

美空「おっけー♪任せて!」


○○「後は…うーん…」

どこか歯切れが悪い様子だ。

その様子を見た美空が、心配そうに尋ねる。

美空「どうしたの?」

○○「…この曲、ピアノの音色が凄く綺麗だから、できれば弾き語りしたかったんだけど…さすがに素人が一から練習してたんじゃ間に合わないなって」

美空「なるほど…私も小さい時ピアノやってたけど、しばらく弾いてないしさすがに数日じゃ厳しいかも…。力になれなくてごめんね?」

美空が申し訳なさそうに手を合わせた。

○○は首を横に振ると、美空に笑いかける。

○○「ううん、気持ちだけで十分だよ!別のこともお願いしちゃったし…」


すると、これまで黙っていた△△が口を開く。

△△「…俺が弾くか?」

○○「えっ!?」

△△の言葉に、○○は驚きの表情を浮かべた。

美空「でも、ピアノなんて弾けるの?」

美空は不思議そうにしている。

しかし、そんな二人をよそに、△△は自信ありげな表情を浮かべていた。

△△「あぁ…昔やってたんだ」


実は△△は幼い頃、コンクールで入賞するほどの天才ピアノ少年だった。

しかし、初めて出場した全日本のコンクールでとある女の子の圧倒的な演奏を目の当たりにし、挫折した△△はピアノをやめてしまった。

それ故に、△△はそれ以降一切ピアノを触らずに過ごしてきたが、○○の話を聞いているうちに、なんとかして力になりたいと思ったのである。


△△「お前の晴れ舞台だ。…協力させてくれ」

真剣な眼差しで言う△△を見て、○○は改めて彼の本気度を感じた。

○○「…うん、ありがとう」

文化祭まで残り3日、○○たちは最後の大勝負に向け、着々と準備を進めていくのだった。




○○の家を出て帰路に就く△△と美空。

美空「○○くん、吹っ切れたみたいでよかったね!なんか私まで楽しみになってきた!」

△△「あぁ、そうだな…」

美空「?」

どこか歯切れの悪い△△の様子を見て、美空は首を傾げた。

美空「…大丈夫?何かあった?」

○○の家を出てからというもの、どこか上の空の様子を見せている。

そんな△△に対し、美空は心配そうに声をかける。

すると、△△がおもむろに口を開いた。


△△「…なぁ、一ノ瀬」

美空「ん?どうしたの?」

△△「好きだ」

美空「…ふぇ?」

△△の言葉に美空は思わず足を止める。

△△は真剣な眼差しで、じっと美空の目を見ながら言った。

△△「俺と付き合ってくれないか?」

美空「ちょ、ちょっと待って…」

予想外の告白に、美空は動揺を隠せない。


突然の展開に思考がついていかない美空だったが、なんとか落ち着こうと深呼吸をする。

しかし、鼓動は速まるばかりだ。

そんな美空の様子を見て、△△は優しい声音で問いかける。

△△「…嫌か?」

その声色からは本当に自分のことを想っていることが伝わってきて、美空は思わずドキッとする。

美空「嫌…じゃない…」

△△「…そうか」

美空(どうしよう、ドキドキしすぎて心臓が破裂しちゃいそう…!)

美空は混乱した頭で必死に考えるも、思考がまとまらない。


すると、△△は優しい表情で口を開いた。

△△「言葉は選ばなくていい。一ノ瀬が思ってることを聞かせてくれ」

美空はその言葉でハッとすると、少しずつ落ち着きを取り戻していった。

△△は美空のことを急かさず、じっと待ってくれている。

そして、やがて決心がついたのか、ゆっくりと口を開く。


美空「…私でいいの?」

消え入りそうな声で呟く美空に対し、△△は即答する。

△△「一ノ瀬がいいんだ」

美空「本当に…?」

△△「ああ…」

美空の瞳を真っ直ぐ見据えながら、はっきりとそう告げる△△。

次の瞬間、美空は△△に抱き付いていた。

美空「私も…△△くんのことが好き…!」

△△「…!」


△△は美空を抱きしめ返すと、耳元でそっと囁いた。

△△「ありがとう。これからもよろしくな、"美空"」

美空「うん…!」

お互いの想いを確認し合った二人は、しばらくの間抱きしめ合っていたのだった。


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42日目


○○たちがそれぞれ思いを馳せている一方で、茉央は一人、自室で物思いに耽っていた。

茉央(もう…ダメなんやろか…)

○○との一件から塞ぎ込んでしまい、ほとんど部屋に篭りっぱなしになっている茉央。

その顔色は悪く、目元には深いくまができている。

茉央(きっとこれでお別れやね…)

そんな諦めにも似た考えが浮かんでしまい、思わず涙が溢れそうになる。

すると、コンコンと扉がノックされる音が響いた。


「茉央?入ってもいいか?」

扉越しに呼びかけてくる声、その声の主は父であった。

茉央「…うん」

父はドアを開けて部屋に入ってくる。


茉央父「…すまない。父さんの転勤のことで、茉央に辛い思いをさせてしまったな」

父の申し訳なさそうな声を聞いて、茉央は少し動揺した。

茉央(茉央のせいで、お父さんにまで気を使わせてしまってるんや…)

茉央は反射的に口を開いた。

茉央「ううん…大丈夫や」

茉央父「…今の学校は楽しいか?」

茉央「最近ちょっと辛いことがあったけど、でも凄い楽しい…」

茉央父「そうか…」

茉央(茉央がこんなんやったら、お父さんにも心配かけてまう…)

茉央は無理やり笑顔を浮かべ、明るく答える。


茉央「…大丈夫やで。何があってもお父さんと一緒に行く覚悟はできてるから」

茉央父(…!)

茉央の表情を見て、父は僅かに目を見開く。

そして、何かを決断したかのように目を瞑った。

茉央父「…すまない」

しばしの沈黙の後、父はそれだけ言い残して部屋を後にするのだった。

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