僕と五百城さんの46日戦争④
22日目
登校中、いつもの場所に茉央の姿がなかったため、○○は久し振りに1人で学校に向かった。
○○(やっぱり怒ってるだろうな…。今日ちゃんと謝ろう)
○○はそう心に決めていたが、教室に入ると見たくなかった光景が目に入る。
○○「え…」
そこには、楽しそうに笑いながら話している茉央と△△の姿があった。
△△「お、○○!おはよう!」
○○「おはよう」
茉央は何か言いたげな様子ではあったが、少し俯いて口を噤んでいた。
○○は複雑な気持ちのまま自分の席に着く。
○○(仕方ない、僕が招いた結果だ…)
その後登校し状況を把握した美空は、○○の寂しそうな背中を複雑な表情で眺めていた。
○○(はぁ…早く帰ろ)
放課後、日直の仕事で職員室に日誌を提出し教室へ戻ってくると、中から話し声が聞こえる。
「さすが△△だよな〜。もう落とせそうじゃん!」
△△という名前に反応し足を止める。
どうやら△△がクラスメイトと雑談をしているようだった。
○○(何の話だろう…?)
△△「いや、あいつ結構ガード硬いんだよな。押せばいけそうな感じはあるけど」
「お前って本当悪いやつだよな〜。別に好きでもなんでもないくせにw」
△△「まあ顔は結構可愛いし、男慣れしてなさそうだから、適当に遊んでポイするかな」
○○(…!)
△△の言っていた「あいつ」とは間違いなく茉央のことである。
○○は、自分の体が急速に冷えていくのを感じた。
しかし、頭の中は熱くなっていて、次第に何も考えられなくなる。
茉央を穢す発言に、○○は自分でも驚くほどに激昂しており、気付けば教室のドアを開けていた。
○○「ねえ」
△△「おわっ!?なんだ、○○か…」
教室には△△と数人のクラスメイトが残っており、突然の来訪者に驚いていた。
○○「今の話、全部聞いてたよ」
そう言いつつ、ゆっくりと近付く○○。
△△「な、何の話…」
○○「とぼけるな!お前が彼女をどう思ってるのか全部聞いた!」
普段大人しい○○が豹変した姿に、△△は言葉に詰まる様子を見せる。
しかし、クラスメイトが口を挟む。
「おい…ちょっと落ち着けよ…」
○○「お前らは黙ってろ」
鋭い眼光で睨まれ、クラスメイト達は萎縮してしまう。
○○は構わず続けた。
○○「本気なら告白でも何でもすればいい。だけど、彼女の心を弄ぶような真似をするなら許さない」
△△「許さないって…お前には関係ないだろ」
○○「僕は…本気で彼女のことが好きだ。だから…お前なんかに彼女は渡さない!」
宣戦布告とも取れる発言に、△△は一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐにニヤッと笑いだした。
△△「本気って…陰キャのお前があいつと付き合うってことかよ?無理に決まってんだろ!」
他のクラスメイト達も、ゲラゲラと笑い出す。
しかし○○は全く動じなかった。
むしろその表情からは自信さえ感じられた。
○○「無理かどうかはお前が決めることじゃない」
それだけ言うと、踵を返して教室を出ていった。
その背中を見つめるクラスメイト達。
「あいつってあんな顔もできるのかよ…。この人数にも全く動じてなかったし」
「どうする?ああいうタイプは怒らせると何するか分かんねえぞ」
△△「…ああ」
△△は何か思うところがあるようで、ボソッと呟くように答えた。
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23日目
○○(昨日は勢いに任せて言いたい放題言ってしまった…。大丈夫かな…)
そんなことを考えながら教室に入ると、茉央がひとりで席に座っていた。
○○(あれ、昨日は△△と一緒にいたのに…)
そう思った瞬間、茉央と目が合う。
「あ…」
何か言おうとするが、何も言葉が出てこない。
そんな○○に対し、茉央は静かに目を伏せてしまう。
○○(やっぱり嫌われてるか…)
○○はため息をつきながら席に着いた。
その日は一日中どんよりとした気分で過ごしていた。
放課後
重い足取りで帰る準備をしていると、△△が茉央に話し掛ける声が聞こえてきた。
△△「ちょっと話があるんだけど、時間もらってもいいか?2人きりで話したいんだ」
茉央「え…う、うん」
△△「ありがとう」
昨日のことがあったので不安な気持ちになる○○だが、ふと△△と目が合った。
目が合った彼は笑っていた。
まるで「大丈夫だ」と言わんばかりに…。
○○(あいつ、何を考えてるんだ?)
そう思うも、どうすることもできないので黙って2人の背中を見送った。
その日の夜、風呂上がりにスマホを確認すると、茉央からLINEが入っていた。
『話したいことがあるから、明日の朝いつもの場所に来てほしい』
○○(話したいこと?△△と付き合ったとかいう報告かな…)
そんな不安を抱えつつも、「分かった」とだけ返信した。
基本的に寝付きのいい○○だが、その日は中々眠ることができなかった。
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24日目
翌朝、眠い目を擦りながら待ち合わせ場所に向かう。
待ち合わせ場所に着くと、既に茉央の姿があった。
○○「あ…おはよう」
茉央「お、おはよう…」
お互い挨拶を交わすが、どこかぎこちない感じがする。
「……」
「……」
しばらく沈黙が続いた後、茉央が口を開いた。
茉央「あ、あのな…」
○○「う、うん…」
茉央「そ、その…ごめんなさい!」
いきなり頭を深く下げて謝る茉央。
○○「え…何が?」
状況が飲み込めない○○は、ただただ戸惑う。
茉央「昨日、△△くんに全部聞いたんや。『○○は悪くない。俺が相談したから気を遣っただけだ』って…」
○○「△△が…?」
茉央「△△くんと何か話したん?」
○○「いや…うん、まあ…」
○○は言葉に詰まってしまう。
茉央「一方的に怒ってばっかでごめんな?△△くんに言われて、○○くんのこと何も分かってなかったんやなって…反省した」
茉央は申し訳無さそうに眉尻を下げる。
○○「いや、五百城さんは悪くないよ…僕が…」
茉央「ううん、悪いのは茉央や…ほんまにごめん!」
そう言ってもう一度頭を下げる。
○○は複雑な表情で彼女を見つめていたが、ややあって話し始めた。
○○「じゃあこれで仲直りってことでいいかな?今まで通り話してくれる?」
茉央「もちろんや!」
○○「良かった…ありがとう」
茉央の返事に、安堵の表情を浮かべる○○。
茉央「ほな学校行こか?2人揃って遅刻してまう」
○○「そうだね」
そう言うと、2人は並んで歩き始めた。
教室に入ると、美空が先に来て待っていた。
○○「おはよう、一ノ瀬さん」
茉央「おはよ〜」
2人揃って挨拶をすると、美空は微笑んで答えた。
美空「その様子だと、仲直りできたみたいだね♪」
その言葉に2人の顔が少し赤くなる。
そして美空は、○○に聞こえないよう茉央にそっと耳打ちする。
美空「私ね…茉央には勝てないって確信しちゃった」
茉央「え…?それってどういう…」
美空「なんでもなーい♪」
○○(僕は本気だ…本気で彼女のことが好きだ。だから…お前なんかに彼女は渡さない!)
美空(あんなの見ちゃったら諦めるしかないよね。…短い恋だったなぁ)
関係が修復した2人とは対照的に、美空の恋はひっそりと終わりを告げていた。
昼休み、屋上で一人黄昏ている△△を見つけ話し掛ける○○。
○○「やっと見つけたよ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど…」
△△「…話せることなんてないぞ」
ぶっきらぼうに答える△△。
○○「君が五百城さんに説明してくれたのは知ってる」
△△「……」
○○「なんでそんなことを?言いたくないけど僕は五百城さんに完全に嫌われていて、君の言う通り押せばいけたかもしれないのに…」
△△「……」
○○「…答えてくれ」
すると、△△は面倒くさそうに言った。
△△「意外と分かってないんだな」
そしてそのまま話を続けた。
△△「五百城がお前のこと嫌ってたって?そんなやつが俺との会話でお前の話ばっかりするかよ」
○○「え…」
△△「俺と話してる時でさえ、チラチラお前のこと見てやがったしな」
○○「……」
△△「そんな姿見せられたら、さすがにお手上げだ」
ポカンとしている○○の顔を見て、△△は笑った。
△△「…質問の答えだけど、なんであんなことしたのかは俺にも分かんねえ。ただ、本気のお前を見て、こんな自分が情けないって思ったのかもな」
そう言って大きく伸びをして立ち上がると、
△△「…悪かったな。迷惑掛けて」
そう言って背を向けて去ろうとする。
○○「△△!」
それを引き止める○○。
△△「…なんだよ?」
○○「ありがとう」
△△は少し驚いた表情を見せた後、ぶっきらぼうに言った。
△△「…馬鹿かよ?そんなんじゃまた別の奴に付け込まれんぞ」
そう言って笑うと、今度こそ立ち去っていった。
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25日目
昨日に続いていつもの場所で待ち合わせをし、一緒に登校する二人。
他愛もない話ばかりだが、○○はこの何気ないひと時がやけに幸せに感じていた。
茉央「それでな…」
隣で楽しそうに話している茉央を見て、○○は思い切って言ってみる。
○○「あの…さ」
茉央「うん?」
○○「今週の土曜日って空いてる?」
茉央「…へ!?」
突然の誘いに戸惑う茉央。
茉央「あ、空いてるけど…どしたん?」
○○「よかったら遊びに行かない?せっかくこの前誘ってくれたのに断っちゃったし…」
茉央「え、ええの?」
○○「うん。何か予定ある?」
茉央「いや、大丈夫やけど…突然やからびっくりしたわ」
○○「はは、ごめんね。じゃあ決定でいいかな?」
茉央「う、うん…」
少し戸惑いながらも頷く茉央。
その表情には少しの期待が含まれていた。
茉央(まさか○○くんから誘ってくれるなんて…。これは期待してもええんかな…)
学校で会えるのも嬉しいが、休みの日にまた二人きりで会える。
土曜日が待ち遠しい。
そう思うと人知れず頬が緩んでしまう茉央だった。
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26日目
社会人も学生も気分が軽くなりがちな金曜日。
ここにも土曜日が待ち遠しくて浮かれている人物がいた。
茉央「はぁ…早く明日にならへんかなぁ」
授業の内容など耳に入らず、ぼんやりと黒板を眺めていると、隣の席から茉央を呼ぶ声が聞こえた。
○○「おーい…五百城さん?」
茉央「ふぇ?どうしたん?」
○○「先生に指されてるよ?46ページの問2」
茉央「え?…あっ」
茉央は驚き、慌てて立ち上がりながら教科書の問題に答える。
茉央「えっと…。X = 3 です」
「正解だ」
茉央が席に着くと、先生が話を再開した。
○○「なんか考え事でもしてた?」
茉央「あ、うん。ちょっとね」
茉央は苦笑しながら答える。
○○「もしかして、明日のことが楽しみだったとか?」
茉央「え…なんで分かったん?」
茉央が驚いた顔で○○を見る。
すると、彼は少し照れくさそうに笑った。
○○「…僕も同じだったからさ」
○○はそう言うと、書き込んでいたノートの表紙を見せた。
今は数学の時間だが、ノートの表紙には「化学」と書かれている。
茉央「…もしかして間違えたん?ドジやなぁ」
茉央はケラケラと笑い、○○もつられて笑う。
○○「そういうことだから…明日は楽しもうね」
茉央「うん!」
明日のデートに思いを馳せながら、残りの授業を受ける二人だった。
昼休み
屋上に足を運んだ美空は、一人で弁当を食べようとしていた。
美空「あ…」
しかし、どうやら先約がいるようだ。
△△「…よお。一ノ瀬…だったよな?」
美空「あ…うん」
△△「悪いな…邪魔だったか?」
△△は立ち上がってその場を去ろうとする。
美空「ううん、大丈夫…。隣いい?」
△△は小さく頷くと、美空は隣に座って弁当を広げ始めた。
△△「…一人か?いつもは○○たちと教室で食ってただろ?」
美空「別に…。でもなんか、二人を見てると辛くなっちゃって」
△△「そうか…」
△△は美空のその表情からなんとなく察したが、それ以上は何も詮索しなかった。
美空「…聞かないんだ?」
△△「聞かれても困るだろ…。俺はあいつじゃないからな」
美空「…まあね」
会話が続かずしばらく沈黙が続いた後、再び美空が口を開いた。
美空「…ねえ」
△△「ん?」
美空「最近ずっと一人でいるけど、前一緒にいた友達はどうしたの?」
△△「ああ…」
△△は少しの間考え込んだが、やがて話し始めた。
△△「…あいつらとは縁を切った」
美空「え?」
予想外の言葉に驚く美空。
その反応を見た△△は、淡々と続けた。
△△「俺はさ、無理してたんだよ。イケてるグループに入って自分を大きく見せて、それで自分も変わったって勘違いしてた。でも…違ったんだ」
美空は黙ったまま、じっと彼の話に耳を傾けている。
△△「本当の俺は何も変わってなかった。だからあいつらとつるむのが嫌になって、縁を切った」
美空は黙って彼の話を聞いていたが、やがて口を開いた。
美空「○○くんなら…受け入れてくれて友達になれるんじゃない?」
△△「いや、それは無理だ」
美空の言葉を遮って否定する。
△△「あんなことしといて、今さら友達になってくれなんて虫が良すぎるだろ」
そう言って自嘲気味に笑う△△の表情は、今にも消えてなくなってしまいそうなほど弱々しかった。
そんな△△を放っておけなかった美空は、思いがけない一言を口走る。
美空「だったら…また私とここでお話ししてくれる?」
△△「…は?」
予想外の言葉に驚く△△。
そんな彼に、美空は続ける。
美空「私も…同じなんだ。みんなによく思われるために無理してる。だから…私たちは似た者同士だと思うんだ」
そう言って少し恥ずかしそうに俯く美空。
そんな彼女を見た後、△△は静かに口を開いた。
△△「俺なんかでいいのか?」
美空「うん」
即答する彼女を見て、△△は少しの間考え込む。
そして…
△△「じゃあ…よろしく頼む」
美空「こちらこそ」
悪戯っぽく笑う美空とは対照的に△△はつれない表情をしていたが、どこか救われたような気がしていた。
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27日目
待ち合わせをして合流した二人は、とある場所にやって来ていた。
茉央「おっしゃ!今日は歌いまくるでぇ!」
カラオケBOXの個室で、茉央がガッツポーズをする。
フリータイムで入室したため、時間を気にせずに心置きなく歌うことができそうだ。
○○「はは…五百城さんは本当に歌が好きだね。登校中もよく口ずさんでるし」
茉央「だって楽しいやん?それに歌うのってストレス発散にもなるんやで?」
○○「確かにそうかも。じゃあ今日はとことん付き合おうかな」
茉央「おー!その意気やで!それじゃあ早速…」
そう言うと、茉央はデンモクを手に取る。
画面に表示されているのは、有名な女性アイドルグループの曲だった。
茉央「これ歌おう!」
そう言ってマイクを手に持つと、曲が始まった。
茉央「海岸線を〜バスは進む〜空は高気圧〜♪」
茉央が選んだ曲はアップテンポな曲で、身体全体を使ってリズムを取りながら歌う。
○○もそれに合わせて手拍子を始めた。
しばらくして曲が終了し、茉央が笑顔で言ってくる。
茉央「どうやった?」
○○「うん!すごい上手だったし、楽しそうだった!」
茉央「えへへ、ありがとう♪次は○○くんの番やで!」
○○「んー、どうしよう…。あっ、これにしようかな」
○○が選んだのは、アニメの主題歌にもなっている人気アーティストの曲だった。
サビが近づくにつれてだんだんと高音になっていく曲だが、○○は難なく歌い上げていく。
○○「隠し事だらけ 継ぎ接ぎだらけのHome you know?噛み砕いても無くならない 本音が歯に挟まったまま〜♪」
茉央「うわっ…すごい声量…」
○○の歌声に圧倒される茉央。
歌が終わると、拍手を送った。
茉央「すごいなぁ!めっちゃ上手かったで!」
○○「ありがとう。カラオケなんて久し振りだから緊張したよ」
茉央「そうなん?」
○○「歌うのは昔から好きでお風呂や部屋で歌ってたけど、こうして家族以外の前で歌うのは初めてかも」
茉央「へえ…でもほんま上手かったで。自信持ってや!」
○○「ふふ、ありがとう」
その後も二人はカラオケを満喫し、あっという間に時間が過ぎていった。
先程10分前の連絡があったため、歌えてもあと1曲程度だろう。
茉央「なあ…最後やし一緒に歌わへん?」
○○「いいよ!何歌おうか」
二人は悩んだ結果、ドラ◯もんの映画の主題歌にもなっている曲にした。
茉央「耳を澄ますと微かに聞こえる雨の音 思いを綴ろうとここに座って言葉探してる〜」
○○「考えて書いてつまづいて消したら元通り 12時間経って並べたもんは紙クズだった〜」
そしていよいよサビに差し掛かる。
「「今僕の中にある言葉のカケラ 喉の奥鋭く尖って突き刺さる〜♪」」
茉央に合わせ即興でハモってみせる○○。
茉央もそれに負けじと綺麗な声を響かせていく。
曲が終了すると、二人は笑顔でハイタッチを交わした。
茉央「いやあ楽しかったわぁ!やっぱり歌はええなぁ!」
○○「ふふ、そうだね」
会計を済ませ外に出た後も余韻に浸る二人。
すっかり夜になり辺りも暗くなったので、○○は茉央を送っていくことにした。
茉央「ありがとうな、送ってもらって」
○○「気にしないで。今日は本当に楽しかったから」
茉央「…ほんま?そう言ってもらえて嬉しいわぁ」
○○のストレートな言葉に感情が昂ったのか、いつもより積極的になる茉央。
茉央「茉央たちの関係って何なんやろなぁ…」
○○「うーん…。友達、かな?」
茉央「そやなぁ…。でも茉央は友達とは違う関係になりたいって思ってるんやで?」
○○「え…?」
思わず茉央の方を見て立ち止まる。
そんな彼を追い越して、茉央は振り返った。
茉央「…なんてな!冗談に決まってるやん!」
○○「そ、そうだよね!」
そう言っていたずらっぽく笑う彼女を見て、○○は鼓動が早くなるのを感じた。
茉央(勢いで思わず口走ってもうた…。バレへんかったかな…?)
二人はしばらく黙り込んだ後、再び歩き始める。
茉央「それにしても意外やったなぁ…。まさか○○くんがこんなに歌上手いなんて」
○○「はは、そうかな?」
茉央「うん!文化祭とかで歌ってみたらええんちゃう?モテモテ間違いなしやで!」
○○「うーん、人前で歌うのは得意じゃないからなぁ…」
茉央「上手いのにもったいないなぁ…。ま、気が向いたらでええと思うで」
○○「うん、そうだね」
茉央「あ、ここで大丈夫やで。送ってくれてありがとう。ほな、また月曜日な」
○○「うん、また月曜日」
そう言って別れる二人。
二人の距離は少しずつ縮まっているが、まだ友達の域を出ないでいる。
しかし、お互いの心は高揚していた。
茉央(また月曜日…か。一緒にいられる限りは、この時間を大事にしたいなぁ…)
○○(今はまだ…。でもいつかきっと、言える時が来るといいな)
そして、それぞれが心の中でそんな願いを込めるのだった。
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28日目
○○「今僕の中にある言葉のカケラ 喉の奥鋭く尖って突き刺さる〜♪」
両親不在のため、リビングで歌いながら昼食を作っている○○。
彩「お兄ちゃん、なんか上機嫌だね」
匂いと歌声に釣られたのか、彩が部屋から出てリビングにやってきた。
○○「そうかな?まあ確かに、昨日久し振りにカラオケ行ったから、少し浮かれてるかも」
彩「お兄ちゃん歌上手いもんね!茉央さんと行ったの?」
○○「そうそう」
彩「よかった!仲直りできたんだ!」
彩が嬉しそうに言う。
○○「やっぱ気付いてたんだ…」
○○は苦笑する。
彩は得意げに笑いながら言う。
彩「当たり前でしょ?何年お兄ちゃんの妹やってると思ってるの?」
○○「はは、そうだったね」
彩「今はどう思ってるの?茉央さんのこと」
○○「ん?好きだよ。…でも、今はこの関係が心地良いんだ」
彩「…そっかぁ」
○○の言葉に、彩は納得するように頷く。
○○「よし!ちょうど準備もできたし、昼ご飯にしようか」
彩「うん!今日は何作ったの?」
○○「トマトクリームパスタだよ」
彩「やった!彩の好きなやつだ!」
久し振りの兄妹二人きりの昼食。
大好物のパスタを幸せそうに頬張る彩を、兄として優しい目で見つめる○○だった。
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