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とある若頭の高校生活⑥


◯「あー 良い眺めですなぁ…」


強敵だった追試を乗り越え、無事に夏休みを迎えることができた◯◯は海に来ていた


やはり夏真っ盛りということで、ビーチは水着の女の子たちで溢れかえっていた


◯「それにしても暑いな。こんな暑い日にはしゃいじゃってみんな元気だねえ…」


発端は夏休み前最後の登校日のことだった


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白「明日から夏休みか〜…っていっても夏期講習もあるし、結局勉強漬けになっちゃうのかなぁ」


生「受験は夏が勝負っていうしね。でも、少しくらい遊びたいよね」


日「それなんだけどさ、夏休みにみんなで海行かない?」


生「海かぁ…」


日「うん。確かに受験生の僕らにとっては重要な時期だけど、高校生活最後の夏だし、みんなとの思い出作りも大事かなって思ってさ」


白「良いこと言うじゃん勇紀!まあ1日くらい遊んだってバチは当たらないよね。行こ!」



生田も乗り気なようだが、◯◯の顔は冴えないでいた


日「もちろん◯◯も行くよね?」


◯「あー、俺はパス。暑いの苦手だし」


暑いのが苦手なのは本当だが、◯◯が断った理由はそれだけではなかった


◯(海なんか行けるか!間違って"アレ"見られたら終わりだ)



しかし、日村は悪い顔をしていた


◯「な、なんだよその顔は?」


日「ふーん、そんなこと言っていいんだ?無事に追試をクリアできたのは誰のおかげだっけ?」


◯「うっ、お前それ出すのは卑怯だろ」


日「あーあ、◯◯はそうやって恩を仇で返すような真似しない男だと思ってたのになぁ…」


◯「あー分かったよ!行くよ!行けばいいんだろ!」


日「さすが!◯◯ならそう言うと思ったよ」


結局上手く言いくるめられてしまう◯◯だった


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そして場面は海へと戻り…


日「よくこんな暑いのに長袖着れるね。暑いの苦手って言ってたのに」


◯◯はハイネックで長袖のアンダーシャツの上にTシャツを着ていた


◯「ああ、肌弱いから日焼けしたくないんだよ」


例の"アレ"とやらを見られないためだろうか、対策は万全の◯◯であった


◯「それにしても、勇紀あれみたいだな。まるで鏡のような水面に…ってやつ」


日「いや誰がゆんぼだんぷだよ!」


◯「おぉ、ナイスツッコミ」


日「それにしてもあの二人遅くない?」


◯「まあ女子だしな、準備に時間掛かるんだろ」


「「おまたせ〜!」」


着替えを済ませ、駆け寄ってくる生田と白石


透き通るような白い肌に、細いだけではない絶妙なスタイルの良さで、ビーチの男たちの視線を釘付けにしていた


そしてここにも目を奪われている男が一人


白「ちょっと勇紀、ジロジロ見過ぎ!」


日「み、見てないよ!」


◯「ははーん、この前からやけにテンションが高いと思ったら、結局勇紀、絵梨花と白石さんの水着が見たかっただけなんじゃねえの?」


日村に半ば強引に連れて来られた◯◯は、ここぞとばかりに反撃した


日「なっ、そんなわけないだろ!」


どうやら図星だったようで、明らかに動揺している


否定する日村だが、女性陣の冷たい視線が突き刺さる


生「日村くん最低……。まいやん行こ!」


日「いや待って!本当にいやらしい目で見てないから!」


勇紀も二人を追い掛けて泳ぎにいった


◯(…まあ勇紀の気持ちも分かるけどな。絵梨花のやつ、あれだけ食ってんのになんであんな細いんだと思ったらそういうことかよ)


なんだかんだ言ってちゃっかり見ていたようで、◯◯もまた健全な男子高校生だった





それから1時間ほど経った頃だろうか、


生田と白石の二人が男何人かに声を掛けられていた


この1時間で何度も見た光景であり、その度に笑って軽くあしらっていた二人


しかし、今回の相手は連れの前で見栄を張りたいようで、かなりしつこく粘ってくる


初めはまたかとボーッと見ていた◯◯だが、男は白石の腕を掴み、無理やり引っ張っていこうとする


白「ちょっと!離して!」


◯「チッ、これはちょっとやべえな」


さすがに見過ごせなくなった◯◯は助けに行こうとする


しかし…



「あの〜、その辺にしておきませんか?」


◯(…勇紀!?)


なんと、割って入ったのは元々いじめられっ子だった日村だった


「は?なんだお前?」


日「その二人の友達です」


「だったらちょうどいい、お友達借りてくわ。そこの二人も俺たちと遊んだ方が楽しいみたいだし」


日「僕には嫌がってるように見えるんですけど…。どうしたら諦めてもらえますか?」


「あー、そうだな… お前が土下座でもしたら考えてやらなくもないな」



日「…分かりました」


日村は直射日光で熱くなった砂浜に手を付き、迷わず頭を下げた


夏の砂浜は温度が上がりやすく、70℃近くになることもあるらしい


「…なんだよこいつ、何のためらいもなく土下座しやがった。プライド無えのかよ」


日「これで勘弁してもらえますか?」


「…しらけちまった。せっかく声掛けてやってんのにお高く止まりやがって、調子乗ってんなよ!」


男たちは捨て台詞を吐いて去って行った



日「ふぅ〜、諦めてくれてよかった。ひどいこと言うなぁ。麻衣怪我してない?」


白「なんで…」


日「え?」


白「なんで言われっぱなしでやり返さないのよ!」


生「まいやん、無事終わったんだからよかったじゃん、ね?」


白「よくない!あんな奴らに土下座なんかして…かっこ悪いよ!」


幼馴染のそんな姿など見たくなかったのだろう、白石はかなり取り乱していた



◯「ばーか、勇紀が何のためにあんな奴らに頭下げたと思ってんだよ」


白「え?」


◯「もし勇紀が手を出して、この時期に問題にでもなったら間違いなく進路に悪影響が出る。そこまで考えてたんだろ?勇紀」


日「うん、できるだけ穏便に済ますならそれが一番だと思って。それに万が一喧嘩になっても◯◯が助けてくれるだろうし。そもそも僕に喧嘩なんかできないしね」


◯「へっ、成長したなぁ!いじめられっ子」


日「元だよ!」


日村の考えまでお見通しだった◯◯、さすが親友同士だった



白「…勇紀、そんなこと何も考えずに酷いこと言ってごめん。私何も分かってなかった」


日「…いいんだよ。麻衣に怪我が無くてよかった」


そう言うと日村は白石の頭をポンポンした


突然の不意打ちに顔を赤くする白石


日「さぁ、またみんなで泳ごっか!…あれ◯◯?どこ行くの?」


◯「…喉乾いたからジュース買ってくるわ。みんなのも適当に買ってくるから待っててくれ」


日「分かった!じゃあ僕コーラで」


◯「はいよ、任せろ」



◯(いい男だぜ、勇紀。あの時俺のために身体を張ってくれたのを思い出したよ。…けど生憎俺はまだガキだからさ、勇紀みたいに大人にはなれないんだよ)


そう、◯◯が向かった先は…


「な、なんだよお前!」


◯「さっきは俺のダチが世話になったな、覚悟はいいか?」


「…ぎゃあぁぁぁ!」





「あの◯◯が人のために喧嘩するなんて、設楽組長が言ってたことはほんまみたいやなぁ…」


喧嘩の現場を見ていた人物が一人


◯◯や統を知っているようだが、いったい何者なのだろうか?


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絵「はぁ〜、楽しかった!いっぱい遊んだね!」


白「ほんと、泳ぎ過ぎてクタクタだよ」


結局昼頃から夕方まで遊びっぱなしだった


最後の方は◯◯も海に入っていて、楽しんでいたようであった


日「どう?来てよかったでしょ?」


◯「…まあな。色々あったけど、なんだかんだで楽しかったよ」


絵「日村くんかっこよかったよね!なんか見直しちゃった。ね?まいやん」


白「う、うん。かっこよかった…」


日「あれ?なんか麻衣顔赤いけど大丈夫?」


白「うるさい!」


赤くなっていた理由も怒られた理由も分かっていない日村だった


◯「あーあ、勇紀も分かってないねぇ…」


白、絵((お前が言うな!))


他の人のことには気づいても、自分に対する好意には鈍感な男子二人だった





帰り道、駅前の広場で数人の男に声を掛けられている一人の女の子がいた


◯「おいおい、今日はどんだけナンパに遭遇するんだよ…」


絵「そんなこと言ってる場合じゃないよ!助けないと!」


◯「はいはい、行ってきまーす…」


仕方なく◯◯が助けに行こうとするが、


「…ワレ、その辺にしとけよ」


「「す、すいませんでした〜!」」


彼女のあまりの剣幕に、男たちは瞬く間に逃げ出してしまった



白「見た目はあんなに可愛いのに、凄い子だね…」


日「◯◯?どうしたの?」


◯◯はなぜか固まっていた


◯「聞き覚えのある声。それにこの関西弁… まさか…!」


振り返った彼女は、◯◯に気付くと笑顔になって駆け寄って来た



◯「な、七瀬…!」


「◯◯、久し振りやな!」


七瀬と呼ばれた人物は、そう言って◯◯に抱き着いた


日、白「「ええ〜!?」」


七瀬の突然の大胆過ぎる行動に驚く二人


生田に至っては口を開けたままポカンとしている


◯「おい七瀬!バカ!離れろ!」


七「なな、ずっと会いたかったんやで?」


◯「それは嬉しいけど!こいつらがめちゃくちゃ戸惑ってるから!」


七瀬は仕方なく◯◯から離れた



◯「とりあえず、自己紹介して」


七「西野七瀬です。◯◯の彼女です」


生「えっ… 彼女…?」


◯「…嘘に決まってんだろ。親同士の仕事の関係で、昔からの知り合いなんだ。幼馴染ってやつ」


生「なんだ、そうだったんだ…」


あからさまにホッとしたような表情をした生田を、七瀬は見逃さなかった


七(ふーん、この子はおそらく◯◯のこと…)


白「ねえねえ!私たちこの後夜ご飯食べに行くんだけど、よかったら七瀬ちゃんも一緒に行かない?」


七「え?ななも行ってええの?」


白「もちろん!設楽くんの昔の話とか聞きたいし!」


日村と生田も頷いている



白「設楽くんもいいよね?」


◯「どうせダメって言っても連れてくんだろ?」


白「よく分かってるじゃん!」


そもそも今日連れて来られたこと自体強引だったので、今さら何か抵抗しようとも思わなかった


白「それじゃ、行こっか」


◯「悪い、ちょっと俺七瀬と話があるから、先駅で待っててくれ」


白「分かった。あんまり遅くならないでよ?」


生田は少し不安げな表情をしていたが、白石がそれをなだめるようにして駅へと向かった





七「話って?あ、もしかしてさっきみんなの前で彼女って言ったこと怒っとるん?」


◯「…そうじゃねえ。お前がこっちに来たってことは、また抗争が始まっちまったのか?」


そう、先程親同士が知り合いと言っていたが、七瀬の父親もヤクザであった


それも関西最大規模の組織「土井谷会」の8代目会長を務めているのが七瀬の父親である


七瀬の父親と統は今野会長の縁で知り合って意気投合し、五分の兄弟盃を交わしていた


設楽組がここまでのし上がった要因には、土井谷会との関係があったことも大きい


七瀬の父親は、抗争が激しくなると七瀬を東京に避難させ、兄弟分の統に面倒を見てもらっていた


そのため◯◯とも遊ぶ機会が多かった


◯◯が乃木高に入って日村たちと出会うまで、過去に友達と呼べる存在だったのは七瀬だけだったといっても過言ではない



七「いや、今回はちゃうねん。なな東京の大学に行くつもりでな、昨日はその大学のオープンキャンパスに行って来たんや。せっかく夏休みなんやし、一週間くらい遊んでから帰ろうと思ってな」


◯「…そうだったのか。親父さんは元気にしてるか?」


七「元気過ぎるくらいやわ。この前なんか銃弾三発もぶち込まれたのにピンピンしとったし」


◯「相変わらずだな、あの人は」


◯◯も何度か会ったことがあり、非常に可愛がってもらっていた


しかし◯◯でさえ本能的に「この人には勝てない」と思う程のオーラがあった



七「それにしても、設楽組長に◯◯がまた学校に通ってるって聞いて驚いたわ」


◯「まあ、最初は嫌々だったけどな。あいつらのおかげで、少しずつ学校も悪くないって思えてきたよ」


七「◯◯が心を許すってことは、そうなんやろな。なぁ、本当になながお邪魔してええの?」


◯「組のことさえ話さなきゃ別にいいよ。俺だって久し振りに七瀬に会えて嬉しかったしな」


七「っ!?相変わらず、そういうことサラッと言えるんやな?」


◯「ん?何が?」


七「何でもないわアホ!みんな待ってるんやからはよ行くで!」


どうやら◯◯の鈍感さは昔からのようである





5人は電車に乗って高校の最寄り駅で降り、近くのファミレスに入ることにした


生「お腹すいた〜!何頼もうかな〜」


◯「なぁ、俺と七瀬が遅れて行った時、絵梨花なんか食ってたよな?」


白「我慢できない!って言ってサンドウィッチとおにぎり食べてた」


◯「相変わらず食欲がバケモンだな…。なんでこれで太らないんだよ… って、あ」


何かを思い出したような顔をする◯◯だった


白「こら!今絵梨花の水着思い出してたでしょ?本当に男って変態なんだから」


日村がこっちを見てニヤニヤしながら親指を立てていたのがやけにムカついた



メニューを見て選んでいる5人


白「みんな決まった?」


日「待って、西野さんがまだ」


七「ごめん、なな優柔不断やから、パスタにするかハンバーグにするかが決まらなくて…」


生「そんなの簡単だよ、両方食べればいいんだよ!」


◯「いや、その方法で解決するの絵梨花だけだろ…」


そういう絵梨花はうどんとオムライスと、しっかり二つ頼んでいた


◯「じゃあ俺がハンバーグ頼むから、パスタにすれば?半分ずつ分けようぜ」


七「◯◯はそれでええの?」


◯「もちろん。二つも味わえるなんてラッキーじゃん」


七「…ありがとう」





食事も食べ終わり、気付けば七瀬による◯◯の過去のトークが始まった


女子三人はあっという間に仲良くなり、あだ名で呼び合うまでになっていた


七「それでな、◯◯が『ななせとけっこんする!』って言ってくれたんよ」


白「ええ〜、設楽くん積極的!」


◯「…俺ちょっと外の風当たってくるわ」


そう言って◯◯は外に出ていった


日「あ、じゃあ僕も行ってくるね!」


その後を付いていくようにして日村も外に出た



生「◯◯怒っちゃったのかな?」


七「大丈夫、多分照れ隠しや。ななが◯◯のこと好きなの知ってるしな」


白「ええ!?あの鈍感な設楽くんが?」


七「というより、昔から何回も告白してるんよ。その度に流されてしまってるんやけどな」


生「そうだったんだ…」


七「それより、いくちゃんはどうなん?好きなんやろ?◯◯のこと」


生「ええ!?なんで分かるの!?」


七「なんでって、駅前で最初に会った時にはもう分かったで」


生「いやそれ最初じゃん!恥ずかしい…」


七「告白しないん?」


生「◯◯はきっと私のことなんて見てないよ。それならいっそこのままの方が…」


七「ふーん、いくちゃんも結構鈍感なんやな」


生「え?」


七「いくちゃんにその気がないならええねんけど、ななは大阪に帰る前にもう一回◯◯に告白する。それだけ言っておこうと思ってな」




生「私は…」


「ただいま〜」


ここで◯◯と日村の二人が帰ってきた


◯「…もしかしてタイミング悪かったか?」


白「いやそんなことないよ!(むしろナイスタイミング!)」


◯「そうか?」


やはりこういうところでは鋭い◯◯であった



その後も話は尽きず(主に◯◯の話だが)、気が付けばかなり長居していた


日「そろそろお開きにしよっか」


白「そうだね。結構遅くなっちゃったし」


5人は会計を済ませ、店を後にした


◯「俺は七瀬のこと送ってくから、二人のこと頼むな勇紀」


日「おっけー。それじゃ」


◯◯は日村たちと別れ、知り合いの家に泊まっているという七瀬を送っていくことにした



七「こんなに笑ったの久しぶりや!楽しかった!」


◯「そっか、そりゃよかった。七瀬はいつまでこっちにいるんだ?」


七「うーん、ななも一応受験生やし、もう2、3日観光したら帰ろうと思ってる」


七「そうや!◯◯案内してくれへん?東京詳しいやろ?」


◯「まあ人並みだけどな。断っても聞かないだろ?」


七「よく分かってるやん!明日とか忙しい?」


◯「いや、特に予定はないけど」


七「それじゃ決まりやな!約束やで?」


◯「相変わらず強引なやつ。分かったよ」


七「さすが◯◯!また明日な?」


ひょんなことから七瀬を東京案内することになった◯◯だった





その頃生田たちはというと、


白「絵梨花?大丈夫?」


生「…なぁちゃんみたいに、昔から◯◯のこと知ってる子の方がいいのかなぁ… 私たちには見せないような表情いっぱいしてたし」


白「そんなこと…」


◯◯をよく知る七瀬が本気だということを知って、生田は明らかに元気をなくしていた


生「私、やっぱり諦めた方がいいのかも」



すると、これまで黙って話を聞いているだけだった日村が口を開いた


日「生田さんはそれでいいの?」


生「え?」


日「そりゃ僕だって◯◯の昔のことは分かんないよ。西野さんの方が詳しいに決まってる」


生「うん。だから…」


日「でも、西野さんが知らない◯◯のことを僕たちは知ってると思うよ。まだたった数ヶ月だけど、色々な姿を見てきた」


日「諦めるのは、◯◯の気持ちを聞いてからでも遅くはないんじゃない?」


白「そうだよ!大丈夫、私たちだってついてるから、ね?」



生「…うん。ありがとう二人とも。私、頑張ってみるね」


友人たちの支えがあって、再び◯◯と向き合う覚悟を決めた生田だった

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