あまりにモテなさ過ぎた俺に、神様が天井を与えてくれました
「ごめんなさい……!」
何度目の撃沈か、またしても俺の告白は失敗した。
乃木〇〇、高校3年生、18歳。
彼女いない歴=年齢であり、生まれてこの方一度も彼女ができたことない。
正直、顔はイケメンではないが、そこまでずば抜けて不細工でもないとは思う。
しかし、流行りの髪型にしたり、香水を振りかけてみたりしても一向に上手くいく気配がないのだ。
「あーあ、俺の青春はこのまま終わっちまうのかなぁ……」
帰宅後、自分の部屋でそう独り言を呟いていると、どこからともなく声が聞こえてきた。
「可哀想な人の子よ、そなたの願いを叶えてしんぜよう」
ん? なんだ? 俺は辺りを見回してみる。
だが、部屋の中はいつも通りだ。おかしいところは何も無い。
……気のせいか? いやでも確かに今なんか聞こえたような気がしたんだが。
「おい! 無視するでないぞ人間!」
今度はさっきよりもはっきりと声が聞こえた。
しかもどうやら俺に話しかけているらしい。
空耳じゃなかったのか!? っていうか誰だよ一体!
突然の出来事に混乱しつつも、とりあえず返事をしてみることにした。
「えっと……どちら様でしょうか?」
するとまたもやどこからともなく答えが返ってきた。
「妾は神である。そなたの望みを一つだけ叶えてやる為にやって来たのだ」
はぁ? 神だとぉ?
何を馬鹿なこと言ってるんだよ。
そんな非現実的な話があるわけないだろう。
「信じていないようだな。ならば……」
次の瞬間、自称神のその言葉を裏付けるかのように信じられないことが起こった。
なんと目の前に突然女が現れたのだ。
それもかなりレベルの高い美女が。
「ふむ、これで少しは信用してもらえたかのう?」
彼女はそう言いながら妖艶な笑みを浮かべる。
……マジかよ。本当に神様だったのかよ……。
ってことはまさかさっきの声はこの人なのか?
「いかにも。先程までそなたと話していたのは他でもないこの妾だ」
心読まれてるし……。いやそれよりも……
「どうして突然僕の前に現れたんですか?」
「……その前に、この話し方やめていい?神様っぽい話し方をと思ってやってみたけど、なんだか話しにくくて……」
「は、はぁ……どうぞ……」
神様の話し方ってキャラ付けだったんだ……。
そんなことを思いながらも俺は返答した。
「実はね、人間は生まれてくる時にこちら側である程度のステータスを設定しているんだけど、ごく稀に明らかに不遇なステータスで誕生してしまう人がいるの。君でいうと、恋愛におけるステータスが極端に低いという状態よ」
そうだったのか……。
俺がこんなにもモテなかったのにはちゃんとした理由があったんだな。
「そこでそういった人たちを対象に、救済措置をとろうということになったのよ。分かりやすく言うと、"バランス調整"というやつね」
なるほど。要するに、俺みたいに何をしても報われない弱キャラへの救済措置という訳か。
「とはいえ、ステータスを大幅にいじったりすることはできない。また別のバランス崩壊の原因にもなるからね……」
だったら一体どうやって救済措置をとるつもりなんだ?
「ふっふっふ、よく聞いてくれました。今回君に提供する救済措置とは、"告白の天井"の設定よ」
……は? 告白の天井?
天井ってソシャゲとかでよくあるやつ?
ってことはもしかして……
「察したかな? つまり、一定回数告白をすれば、必ず成功するようになるということ。これはたとえ告白相手が誰であっても例外はないわ」
おお!!なんて素晴らしい救済処置なんだ!!
これなら俺でも確実に彼女ができるじゃないか!!
それに、相手だって選び放題だ……!!
「ただし注意点もある。天井が設定されているとはいえ、君の恋愛ステータスは最低ランク。
天井に到達するまで、告白に成功する確率はほぼ0%。当たりが出ないと分かっていながらガチャを引き続けるようなものだから、相当苦しい思いをすることになると思うわ。
……それでも君はこの救済措置を受ける?」
「もちろん受けます!」
選択の余地なんてないだろう。
どうせこのままじゃ一生彼女なんてできないんだから。
「良い返事ね。それでは君に救済措置を授けるわ。
天井までに必要な試行回数は"460回"。期限は2週間。2週間以内にその回数に辿り着いた場合、460回目に必ず告白が成功するようになっているの。
ただし、その間に天井へ到達できなかった場合、残念ながら救済措置は無かったものにさせてもらう」
2週間で460回、1日30回以上のペースか……。
かなり厳しい挑戦にはなるだろう。
だが俺は絶対にこのチャンスを活かしてみせる。
460回目の相手だってもう決めている。
学校のマドンナである"山下美月"さんだ!!
こうして俺は人生初の恋人を手に入れるため、神からの救済措置を受けることを決意した。
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翌日から俺は早速行動を開始した。
通学途中に女子を見かけたら片っ端から告白していく作戦だ。
正直、あまり良い方法ではないが、この際なりふり構ってはいられない。
まずは通学中の電車の中で出会った女子高生にターゲットを定めた。
「あ、あの、好きです!付き合ってください!!」
よし言った! 後は返事を待つだけだ!だが……
「えー、キモいんですけど……」
という辛辣なお言葉をいただいてしまった。
くぅ……ダメか……。
分かっていたこととはいえ、やはりメンタルには来る。
まあいい、まだ始まったばかりだ。
気を取り直して次行こう、次!
その後も、俺はひたすら女の子に声を掛け続けた。
登校中にも下校中にも、そして休日には街中に出てナンパを試みたりもしたのだが……
結果は散々なもので、誰一人として相手にされなかった。
初日だけでも過去の振られた回数を悠々と超え、改めて自分の恋愛ステータスが最低クラスであることを自覚した。
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そして1週間ほど経ったある日のことだった
「ねぇ……最近変な噂を聞くけど大丈夫なの……?」
話し掛けて来たのは幼馴染の久保史緒里だった。
史緒里とは縁あって幼稚園から高校までずっと一緒で、昔からよく振られては落ち込んでた俺を慰めてくれていた。
ちなみに、俺が唯一まともに会話ができる女子でもある。
「変な噂?」
「うん……なんか、◯◯が何人もの女の人に声掛けてるって、学校でも噂になってるよ」
うーん……そりゃそうか……。
校内外問わず手当たり次第告白し続けてたんだ、噂にならないはずがない。
「それで……その……◯◯は一体何がしたいの? 私心配だよ……」
史緒里が不安そうな顔で言う。
「ごめん、心配かけてるのは分かるんだけどさ、今だけは放っといてくれないかな。悪いけど」
「そっか……分かった。でも何か困ったことがあったらいつでも相談してね?」
「ああ、ありがとな」
そう言って、俺はその場を離れた。
「おい聞いたかよ、あいつ女漁ってるらしいぜ……」
「マジかよ……流石に引くわ……」
校内を歩いていると、確かにそんな陰口も聞こえてきた。
思うところはあるが、ここまで来たらもう後戻りはできない。
やるしかない、俺にはこの救済措置しか頼るものはないんだ。
そう思い直し、俺は次の相手を探し始めた。
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それからさらに数日が経過した。
いよいよ明日が約束の期限である。
分かってはいたが、今日まで約2週間で俺は一度も告白に成功していない。
「大丈夫、あと少しだ……」
思わず独り言が出る。
現在の告白失敗数は455回。
つまり、明日までに5人の女の子に告白できれば、晴れて俺にも春が訪れるという訳だ。
本来であれば余裕をもって今日のうちに天井まで辿り着き、山下さんに告白する予定だった。
しかし、あまりにも手当たり次第に告白し続けた弊害か、校内では俺と目を合わせてくれる女子がいなくなりつつあり、校内での告白が難しい状況だったのだ。
これ以上やり過ぎると、彼女ができたとしても今後の高校生活に多大なる支障が出る。
そのため校外でのみの告白に切り替えた結果、回数が想定より伸びずにいたのだ。
「頑張っているようね」
「……神様」
「いよいよ明日がリミットね。どう?今日までを振り返ってみて」
「……辛いです。校内では自分を見る視線が痛いし、幼馴染にも心配を掛けてしまった。正直、何度も辞めようかと思いました……」
「そうよね。普通なら人生でこんなに告白することも、振られることもない。ましてや、振られると分かっていてのことだものね。……それでも君が止まらなかったのはなぜ?」
「それはやっぱり、俺も彼女を作ってみんなみたいに青春を謳歌したかったから。ただそれだけですよ」
「ふっ、君は本当にブレないわね。……それじゃ、健闘を祈っているわ」
神様はそう言うと、どこかへ消えていった。
いよいよ明日が勝負の日だ……
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翌朝
放課後になってすれ違いで会えないリスクを考えると、昼休みまでにはあと4回の告白を済ませておきたい。
しかし、登校では3回しか告白できず、天井まで2回を残して学校に着いてしまった。
校内でこれ以上の告白は危険だ……。
でも、460回目は山下さんであることを考えると後はたった1回。
噂が届いていない下級生とかならなんとかいけるだろうか……
昼休みが勝負だ。
そう思案しているうちに昼休みになり、俺は教室を出た。
廊下に出ると、誰かに腕を引っ張られる。
「ちょっとこっち来て!」
……史緒里だった。
史緒里に連れられ、屋上へとやって来た。
まずいな……ここで時間を使うと、昼休みの間に告白できない可能性がある。
放課後になって帰ってしまったらアウトだ……。
なんとかして早めに切り上げないと……
「ねぇ!どうしてあんなことしてるの!?」
「……史緒里、お前には関係ない」
「関係なくない!◯◯が色々悪く言われてるの、私耐えられないよ……」
その目には涙が浮かんでいた。
史緒里……ごめん。
こんなに心から俺のことを心配してくれたのはきっと史緒里だけだと思う。
でも俺は……
「だったら……史緒里が俺と付き合ってくれよ」
天井の一歩手前、459回目の告白の相手に、唯一無二の幼馴染である史緒里を選んだ。
「え……?」
「史緒里が俺と付き合ってくれるんなら、もう二度と女の子に声を掛けたりしない」
「……彼女になってくれる人だったら誰でもいいの……?」
「……違うよ」
「振られて落ち込んでいる時も(あれ……?)
叶わぬ恋に悩んでいる時も(なんで俺……)
ずっと近くにいてくれた史緒里がいいんだ(こんなにスラスラ言葉がでてくるんだろ……)」
演技ではなく、心からの◯◯の想いだった。
史緒里は俯いたまま黙っている。
あーあ……言っちゃったよ……
「……だったらどうして色々な子に告白したりしたのよ……。私、◯◯が分からないよ……」
史緒里が絞り出すように言った。
「ごめん……」
いよいよか……決心してたこととはいえ、大切な幼馴染にこれから振られるのは正直きついな……
「でも……いいよ」
「え?」
「◯◯と付き合ってあげる」
「ま、まじ……?」
「うん……◯◯には私が付いてないとダメでしょ……?」
史緒里はこちらを見つめてそう答える。
なんで成功したんだ……?
まさか回数を数え間違えたのか?
でもまあ……いいか。
めちゃくちゃ回り道しちゃったけど、自分でも分かってなかった史緒里への想いに気付けたし……。
「なんでそんなにポカンとしてるの?」
「いや……なんか意外すぎてさ……」
「なにそれ。変なの」
そう言って笑う史緒里の顔には、さっきまでの悲しげな表情はなく、いつも通りの笑顔に戻っていた。
「間違いなく天井にはまだ到達してなかったし、彼の恋愛ステータスで告白に成功する可能性は限りなく0に近かったはずなのだけれど……。これが愛の力なのかしらね」
神様は一人呟く。
「……まあ、ここはゴールじゃなくてあくまでスタートに過ぎないわ。頑張りなさい、少年」
そう言って神様は◯◯の前から姿を消し、別の救済が必要な人間のところは向かったのだった。
「これから同じようなことしたら本気で怒るからね?」
「本当ごめんって!分かってる、もうしないよ」
こうして、俺にはもったいないほど、超絶激レア級の彼女ができた。
俺の恋愛ステータスは最低なのかもしれないけど、史緒里に釣り合う彼氏になれるよう努力していこうと思う。
あまりにモテなさ過ぎた俺に、神様が天井を与えてくれました-完-
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