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思い出の赤い糸

「わたしね、おおきくなったら◯◯くんのおよめさんになる!!だいすき!!」


「ぼくも??ちゃんのことすきだよ!!おおきくなってもずっといっしょにいようね!!」



もう名前も思い出せないあの子との、幼い頃の思い出。


それが僕の初恋だった。

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あれから十年以上の月日が経ち、僕は高校生になっていた。


ピピピピッ!!


目覚まし時計の音で目を覚ますと、カーテンを開けて朝日を浴びる。良い天気だ。


初夏の陽気が心地よくて、眠気が取れていく感じがするなぁ……なんて思いながら、一つ伸びをする。


そういえば、今日から夏服だ。


「よしっ!」


気合いを入れて制服を手に取ると、袖を通していく。


「うん、夏服は涼しくていいな」



鞄を持って部屋を出ると、階段を降りてリビングへと向かう。


「おはよう」


ドアを開けるとキッチンにはすでに朝食の準備をしている母さんの姿があった。


「あら、今日は早いじゃない」

「まあね」


そう言ってテーブルにつくと、トーストを食べながらテレビを見る。


ニュースでは今日の天気予報をやっていた。


午前中は良い天気だが、どうやら夕方頃から雨が降るらしい。


「雨降るみたいだから、ちゃんと傘持って行きなさいよ」

「うん、分かってるって。それじゃあ行ってくるよ」


食べ終わると食器を流しに置いて玄関へと向かう。

◯◯は玄関に置いてある傘を持ち、家を出発した。



朝はいい天気だったので正直疑って掛かっていたが、やはり近年の気象予測の精度は高いようだ。


午前中は良い天気だったがお昼頃から曇り始め、夕方前には土砂降りだった。


「うわ、凄い雨だな。傘持って来といてよかった〜」


帰ろうとする◯◯だったが、


「えっ…何この雨…。あんなに晴れてたのに…」


絶望的な表情を浮かべている1人の女子生徒を見かけた。

彼女はクラスは違うが、同じ学年の子だ。


名前は確か……遠藤さくらさん。


「(天気予報見てこなかったのか。あんな絶望した表情見たらさすがにほっとけないよなぁ笑)」


◯◯はさくらに話し掛ける。


「あの〜、遠藤さん?よかったら傘使う?」

「あっ、◯◯くん…。でも…◯◯くんは?」

「僕なら大丈夫、傘2本持ってるから」


名前を知られてたことに驚きつつも答える◯◯。


もちろん2本持ってるなど真っ赤な嘘である。


「そっかぁ。ありがとう、それじゃあお言葉に甘えさせてもらうね」


そう言うと彼女は傘を受け取り、嬉しそうな笑顔を見せた。


「◯◯くんも気をつけてね、ばいばい」

「ああ、気をつけて」


彼女の姿が見えなくなるのを確認し、自分もカバンを傘代わりにしながら走って家へと帰った。



次の日

「あぁ……完全に風邪引いた……」


あの大雨の中、傘もささずに帰ったのだから当然である。


帰宅後、母親にもこっぴどく叱られた。


「熱もあるみたいだし学校休もう……」


体温計で測ると38度を超えていた。これは流石に無理そうだ。


友人に休むことを連絡すると、◯◯は再び眠りについた。



「んん……今何時だろう……」


目が覚めるともう夕方だった。


どうやらあの後ずっと眠ってしまっていたらしい。


そんな時、家のチャイムが鳴った。


宅急便か何かだと思っていると、1階から母さんが呼ぶ声が聞こえる。


「○○〜!お友達が来てくれたわよ!」


(友達…?誰か家知ってたっけ?)


少し疑問に思いつつも、


「部屋上がってもらっていいよ!」


と返事をする。



「…ありがとね、わざわざ来てもらっちゃって。あの子、あれだけ雨が降るから傘を持って行きなさいって言ったのに、持って行かずにびしょびしょで帰って来たのよ」

「……ごめんなさい!それ私のせいなんです!」


なんと、尋ねて来ていたのはさくらだった。


さくらは◯◯の母に昨日の経緯を説明すると、借りていた傘を返した。


「そうだったの、あの子ったら何も言わないんだから……。久しぶりなんだし、せっかくだからゆっくりしていってね」


さくらは階段を上がると、◯◯の部屋のドアを開けた。

「え、遠藤さん?」

「こんにちは、◯◯くん。体調はどう?」

「あ、うん。ずっと寝てたからだいぶ良くなってきたけど……」

「なんで傘2本持ってるなんて嘘ついたの!?休んだって聞いて私心配したんだよ!!」

「ご、ごめん……」


怒っているさくらを見て思わず謝ってしまう。


「それでね、これ。良かったら」

さくらが差し出した袋の中には、コンビニで買ってきたであろうゼリーや飲み物が入っていた。


「え、こんなに悪いよ」

「いいから!」

「は、はい…」


あまりの剣幕に圧倒されてしまう◯◯。



「(あれ?おかしいな。なんで今、"懐かしい"って思ったんだろう?)」


普段は大人しい印象のあるさくらのそんな強引な部分に、◯◯はなぜか既視感を感じる。



「そんなことより遠藤さん、なんで家知ってんの?先生に聞いたの?」

「え……?あ……うん、まあね」


やや曇ったような表情になり、急に歯切れが悪くなるさくら。


「ごめんね、それじゃあ私帰るから……明日は学校来れそう?」

「うん、多分行けると思うよ」

「それじゃあまた学校でね」

「うん、今日は本当にありがとう」


さくらは足早に部屋を後にし、帰って行った。


さくらが帰ったあと、母さんが部屋に入ってきた。


「良かったわね、さくちゃんがお見舞い来てくれて。学校でも仲良くやってるの?」

「んーまあクラス違うし…ってさくちゃん?母さん、遠藤さんのこと知ってんの?」

「何言ってんのよ、昔あんなに仲良かったじゃない。さくちゃんが突然引っ越しちゃって会えなくなっちゃったけど」


「え……!?あ……!」


その時、記憶のピースがうまくハマった気がした。

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「わたしね、おおきくなったら○○くんのおよめさんになる!!だいすき!!」

「ぼくもさくちゃんのことすきだよ!!おおきくなってもずっといっしょにいようね!!」

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「そうだ、あの時の子はさくちゃんだったんだ……」


なぜか抜け落ちてしまっていた記憶を取り戻した◯◯。


「母さんごめん!ちょっと出てくる!」

◯◯は家を出ると、さくらの後を追いかけて行った。

「さくちゃん……さくちゃん……いた!」

後ろ姿を見つけた◯◯は声をかけた。

「さくちゃん!」

さくらは立ち止まると、ゆっくりと振り返る。

「……◯◯くん、思い出してくれたんだ」



振り返った彼女は涙を流していた。


「ごめん……さくちゃんのこと……今まで忘れてて……」

「ううん、いいの。こうしてまたお話しできたから」

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「わたしね…おひっこしすることになったの…」

「やだやだ!そんなのやだよ!ずっといっしょだっていったじゃん!さくちゃんのうそつき!」

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さくらの引っ越しがあってから、しばらく◯◯は塞ぎ込んでしまっていたが、突然何事もなかったかのように元気になった。


おそらく、◯◯がさくらを忘れてしまっていたのは、大好きな友達が突然居なくなってしまったという悲しみから自分を守るための防衛本能だったのだろう。



「でも、なんで突然思い出してくれたの?」

「傘のことでさくちゃんに怒られた時、なぜか懐かしいって思ったんだ。昔は今と違っておてんばな印象だったから…」

「ふふっ、確かにそうだったかもね」


涙を拭いながら笑うさくら。


「…でも、今の落ち着いた感じも素敵だと思うよ」

「ありがとう……///」



お互い恥ずかしくなり、しばらく沈黙が続く。そしてその空気を破ったのはさくらだった。


「ねえ、せっかくだから少し歩かない?」

「ああ、もちろん」


2人は肩を並べて歩き出す。


「こうしていると、小さい頃を思い出すね」

「そうだな……」

それから2人は何も喋らずに歩いていたが、不思議と気まずさは無かった。

「……あ」

「ここは……」

そこは、幼い頃よく遊んだ公園だった。

「なんか懐かしいな……」

「そうだね……」


再び訪れる静寂。


「あのさ……さくらは、あの時の約束って覚えてる?」

「約束?うーん…」

「……覚えてるわけないか!あんなに小さい時のことだもんな!」


◯◯は強がるように大きな声を出した。


「……帰ろうか」


クルリと踵を返して帰ろうとする◯◯にさくらは言った。



「……簡単に諦めないでよ!私をお嫁さんにしてくれるんでしょ……?」



振り返る◯◯に、さくらは続けて言った。


「私は……!今でも◯◯くんのことが大好きです!」

「さくら……!」



「私じゃダメかな……?」

「いや……俺もさくらが好きだ!結婚とかはまだ早いけど……俺と付き合ってください!」

「はい!もちろん!」


◯◯の言葉に笑顔で応えたさくら。


夕陽が沈む中、2人の影が重なった。



「(もう絶対に君を忘れたりしない。たとえどんなことがあっても)」


辛く記憶から消えてしまっていた初恋の思い出は、長い時を経て再び2人を結び付ける赤い糸となった。

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