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I'm going to like me④

アラームの音で目を覚ました◯◯は、ベッドから起き上がるとカーテンを開けて朝の光を浴びる。


◯◯「いい天気だな…よし、支度するか」


シャワーを浴び、髪を乾かし、歯磨き等を済ませてから着替えを始める。


あまり服に興味がない◯◯はそれほど種類を持っておらず、似たような系統の服数着を着回していた。


◯◯「うーん、服も買わなきゃなぁ…」


そんなことを考えながらも、身支度を済ませて家を出る。


◯◯(あ、健康診断あるから朝ご飯食べられないんだっけ。くそぅ、昼までの辛抱だ…)


空腹と戦いながら、電車に揺られ大学へと向かった。


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健康診断の時間や場所は男女で分かれていたため、和とは昼から合流することになっていた。


男子の方が早めに終わったので、場所取りをしつつ学食で和を待った。

和「◯◯くん、お待たせ!場所取りありがとう!」


◯◯「いえいえ、大丈夫ですよ」


和「お昼が待ち遠しかったよ〜。何食べよっかなぁ」


◯◯「朝抜きはキツいですよね…」


和「あはは、だよね…」


◯◯と和はそれぞれ食券を買い昼食を調達して席に着くと、他愛ない話をしながら昼食を進めていく。



◯◯「そういえば、なんで僕が絵好きって分かったんですか?」


和「◯◯くんのLINEのトプ画が絵と写ってる写真だったから、てっきりそうなのかなって」


◯◯「ああ、なるほど…」


高校生の時、美術館で姉に半ば強引に撮られた写真だった。


元々自分の写真をあまり撮らないタイプということもあり、やむなくプロフィール画像に設定していた。




昼食を食べ終えた二人は、学内設備の利用方法などのガイダンスを終え、芸術サークルが活動しているという教室へ向かった。


和「ここだよね?」


◯◯「はい、多分…」


他の新入生たちの姿が見えず不安になるが、勇気を出して二人で室内へ入っていく。


◯◯「失礼します…」


和「失礼しまーす!」


そこにはキャンバスに向かって黙々と筆を走らせる一人の女子学生がいた。


集中しているのだろうか、◯◯たちが入ってきたことにも気付いていない様子だった。


◯◯「あ、あの〜…」


和「すみませーん!ちょっと見学させてもらってもいいですか?」


和が声を掛けると、その女子学生はハッと我に返ったようにこちらを向いた。



「あれ?もしかして新入生?」


二人の顔を交互に見ながらそう尋ねる彼女に、◯◯は返事を返した。


◯◯「はい、芸術サークルの見学に来ました」


和「わっ、私もです…」


「えー!いきなり二人も!?嬉しい!」


◯◯(急にテンション上がったな…)


女子学生は二人の返事に嬉しそうにしながら、いそいそとキャンバスを仕舞い始めた。


「ごめんね、何もない部屋だけどよかったら座って」


そう言いながら彼女は画材道具を片付けていく。


◯◯「すみません、お邪魔しちゃいましたか?」


彼女は片付けをしつつ二人の方を向いて口を開いた。


「いいのいいの!新入生が来てくれたのなんて初めてだから嬉しくてさ…」


片付けを終えた彼女は二人と向かい合うように座ると、改めて口を開いた。


「改めまして、3年の遠藤さくらです。一応このサークルの部長をしてます」


◯◯「遠藤さんですね、よろしくお願いします」


さくら「こちらこそよろしくね。あ、せっかくだし学部と名前も聞いていいかな?」


◯◯「文学部1年の池田◯◯です」


和「お、同じく文学部1年の井上和です…」


さくら「◯◯くんに和ちゃんね、二人ともよろしく!」


◯◯「あの、他の部員の方って…?」


さくら「実は、絵画サークルが別にできたこともあって去年は一人も入らなくてね。4年の先輩が一人いるんだけど、就活中だから今は実質私一人なんだ…」


◯◯「そうだったんですね…」


さくら「来てくれたのは嬉しいけど、そういうことだから全然ここじゃなくても大丈夫だからね」


さくらは少し寂しそうな笑顔を見せてそう言った。


◯◯「(確かに、友達を作るって目的なら他のサークルの方がいいかも…)和さんはどうしますか?」


◯◯は先程からやけに大人しい和にそう尋ねた。



和「………無理」


◯◯「え?」


和「可愛過ぎて無理…!」


さくら「えぇ!?」


すっかり◯◯の後ろに隠れてしまった和を、どうにかして宥める。


和「ごめん、つい…でも無理だよ!こんな綺麗なお姉さんが一人で絵描いてるんだよ?キュンとしないわけないじゃん!」


先程までとは一転して、急に饒舌になる和。


さくら「大袈裟だよ〜」


さくらはそう言いながら照れ笑いを浮かべる。


和「私、このサークルに入ります!」


和は身を乗り出す勢いでそう返答した。


さくら「ええ!?いいの?」


和「はい!もう決めました!」


さくら「◯◯くんはどうする…?」


◯◯「僕は…」


正直、サークルで友人を作ろうとしていた◯◯にとって、それが期待できなくなってしまうのは痛かった。


しかし、◯◯の心は既に決まっていた。



◯◯「入ります。よろしくお願いします」


和「やったー!」


さくら「ありがとう!本当に嬉しい…!」


初めて出来た後輩に、さくらは満面の笑みで喜んだ。


和「あの!さくらさんって呼んでもいいですか?」


さくら「全然いいよ〜!好きに呼んで!」


和「わーい!ありがとうございます!」




その後、サークルの活動内容や入会の手続きについて説明を受け、この日の活動はお開きとなった。


和はすっかりさくらに懐いたようで、終始楽しそうにおしゃべりをしていた。



◯◯「和さん、なんだか凄く楽しそうでしたね」


和「うん!可愛すぎるし、面倒見も良くて本当完璧だよね!◯◯くんもそう思うでしょ?」


◯◯「そ、そうですね…」


和は興奮冷めやらぬ様子で、さくらのことをべた褒めしていた。

和「でも、◯◯くんは本当に良かったの?私に合わせてくれたんじゃない?」


実際、そういう面がゼロだと言えば嘘になるだろう。


◯◯が入会を決めたのは、和がいたからという理由が大きいのも事実だった。


◯◯「正直それもあります。でもそれ以上に、ここなら楽しそうだなって、そう思ったんです」


和「そっか…うん、ありがとね」


◯◯「いえ…」


和「これから楽しみだね!」


◯◯「そうですね」


和が楽しそうにしている姿だけで、◯◯はサークルに入ったことを良かったと思えるのだった。




さくらL『聞いてください!なんと新入生が二人も入ってくれたんですよ〜』


さくらは家に帰った後、もう一人のサークルメンバーである4年の先輩にLINEで報告していた。


??L『おぉ、よかったね!さくちゃんにも後輩ができて安心したよ』


さくらL『二人とも凄い良い子でしたし、これから楽しみです!』


??L『ちなみにその新入生はどんな子なの?』


さくらL『一人は女の子です!凄く可愛くて、私のことを褒めてくれるんですよ〜』


??L『ほう、私とどっちが可愛い?』


さくらL『タイプが違うので選べません!』


??L『前までなら私の方が可愛いって即答してくれてたのに…強敵現るだね』



さくらL『もう一人は落ち着いた感じの男の子です!◯◯くんっていうんですよ〜』


??L『◯◯?それって…』


さくらL『はい、あの人と同じ名前なんです!雰囲気的には似ても似つかない感じでしたけど、凄い偶然ですよね!』


??L『そうだね。うーん、これはサークルに顔出すのが楽しみになってきたなぁ』


さくらL『就活が落ち着いたら、ぜひ顔出してください!』


??L『うん。楽しみにしておくね』


スタンプで返信したさくらは、スマホを置いて今後のサークル活動に想いを馳せる。


さくら(無事後輩が入ってくれて本当に嬉しい。◯◯くんと和ちゃんか、これから楽しくなりそうだな…)



こうして同じ芸術サークルに入会した二人は、活動を通して更に仲を深めていくことになるのだった。




第4話 -完-

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