とある若頭の高校生活⑨
◯◯「…悪い。武勇会の連中と揉めた上に、クラスメイトに素性がバレちまった」
帰宅後、◯◯は事務所で統に頭を下げ、事態を説明していた
統「話は聞いてる。武勇会側はゴネててもう一悶着ありそうだが、きっちり話を付けるつもりだ」
◯「…すまねえ」
統「いや、元はと言えば堅気の女子高生に手を出したのは向こうだ。お前も無事で良かったよ」
統はタバコに火を付けながら言った
統「…素性の件は、自分から明かしたんだって?」
◯「ああ、俺のせいで巻き込んでしまった以上、隠し続けるのは無理だった。…それに、あいつらにこれ以上隠し事はしたくねえんだ」
統「…そうか。考えがあってのことなら何も文句はないさ。その友人たちを大事にしろよ」
◯「ああ…」
返事をする◯◯だったが、どこか歯切れが悪そうにしている
統「どうかしたか?」
◯「いや…あいつらのことは大切なダチだと思ってるが、俺はどうなんだろうなって」
統「ん?どういう意味だ?」
◯「…俺はあいつらを裏の世界に巻き込みたくねえ。けど、一緒にいるとすげえ楽しいし、これからも一緒にいたいとも思う」
統「…なるほどな」
多くは語らなかったがやはり親子だけあり、◯◯が考えていることを統は察したようだった
統「無理に俺の後を継がずに、堅気として生きたっていいんだぞ?若頭とはいえ、お前はまだ高校生なんだ」
統はタバコの煙を吐きながら、優しく語り掛ける
◯「…いや、俺の立場でそれをやっちまったら示しが付かねえだろ」
◯◯は自嘲気味に笑う
統「卒業まではまだ時間がある。他にやりたいことが見つかれば、その時はヤクザを辞めても構わないさ」
◯「ああ…わかった」
統「しかしまあ、なんだ…この数ヶ月でずいぶんと大きくなったな」
◯「なんだよ急に」
統「いや…父親として、息子の成長が嬉しくてな」
統は感慨深げに言った
◯「…学校なんてくだらねえって思ってたけど、今は行ってよかったって思ってる。通わせてくれてありがとな、親父」
統の言葉に応えるように、◯◯も素直な気持ちを口にした
統は恥ずかしそうにタバコの火をもみ消すと、改めて◯◯に向き直る
統「しっかり卒業しろよ、◯◯」
◯「…ああ」
この瞬間の二人は組長と若頭の関係ではなく、紛れもなく親子のそれであった
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それからはしばらく平和な高校生活が続いた
あの日お互いに想いを伝えあった二人だったが、特にその後も関係性は変わっていなかった
そんなある日の放課後、下校途中にふとさくらに呼び止められた
遠「◯◯さん…」
◯「…さくらか、久し振りだな」
武勇会との一件の後、さくらにも巻き込んでしまった謝罪と合わせて自らの素性を明かした
祭りの時と合わせ二度巻き込まれていたさくらは、なんとなく事情も察していたようで、すんなりと受け入れてくれた
遠「ちょっとお話ししませんか?」
◯◯とさくらの二人は、学校から少し歩いた場所にある喫茶店に入った
◯「…この前は本当に悪かった。さくらにも怖い思いさせちまったな」
遠「そのことはもう大丈夫ですよ…!みんな無事だったんですし…」
◯「…そうか、ありがとな」
遠「ところで…」
◯「ん?」
遠「絵梨花さんとは上手くいってるんですか?」
◯「…特に何が変わったってわけじゃねえが、まあ仲良くはやってるよ」
遠「え、付き合ったりは…?」
◯「してないな」
遠「えーっ…」
◯「…なんだよその反応は」
遠「だって…絵梨花さん可愛いじゃないですか。それに一途だし。両想いって分かったら、付き合いたいって思うのが普通じゃないですか?」
◯「別に付き合いたくねえわけじゃねえよ」
遠「もしかして、まだ住む世界が違うとか思ってるんですか?」
◯「そうじゃねえ。ただ…」
遠「ただ?」
◯「どうやって先に進めばいいのか分からねえんだよ」
遠「簡単じゃないですか。好きだ!付き合ってくれ!って言うだけですよ」
◯「いや、それはちょっと…」
◯◯はたじろぐようにさくらから目を逸らす
そんな様子を見て、さくらは意地悪そうな表情を浮かべて言った
遠「私のこと振ったくせに」
◯「…いや、それは…悪かった」
実はあの一件の後、さくらに告白されていた◯◯
自分は絵梨花が好きだということを伝えた上で、さくらの想いに応えることができないことを伝えた
遠「ふふっ…冗談ですよ」
さくらは悪戯っぽく笑うと言葉を続ける
遠「絵梨花さんもきっと待ってると思います。…あまり女の子を待たせたらダメですよ?」
◯「…そうだな」
遠「私はお二人のこと応援してますから…頑張ってくださいね」
◯「…ああ」
◯◯は少し笑ってさくらに返事をした
会計を済ませ、喫茶店を後にした二人
遠「すみません、ご馳走になっちゃって…」
◯「ヤクザの若頭舐めんな。そこらへんの社会人より稼いでるから大丈夫だ」
遠「もう!誰かに聞かれたらどうするんですか!」
◯「ははっ…悪い悪い」
頬を膨らませているさくらとは対照的に、◯◯は無邪気に笑った
◯「…さくら」
遠「はい?」
◯「サンキューな」
遠「ふふっ…なんですか急に」
◯「いや、なんとなく言いたくなっただけだ」
◯◯はさくらに向かって優しく微笑むと、軽く手を振って去っていったのだった
遠(あの笑顔…反則だよ)
さくらは頬を赤らめながら、◯◯の後ろ姿を見届ける
遠(さよなら…私の初恋)
さくらは心の中でそう呟くと、帰路に就くのだった
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さらにそれから少し経ち、乃木高は文化祭の日を迎えていた
受験を控えた三年生は自由参加だが、束の間の息抜きとして参加する者も多かった
◯「…絵梨花、ちょっといいか?」
絵「どうしたの?」
◯「あのよ、今日の文化祭…よかったら一緒に回らないか?」
絵「うん、元々そのつもりだったけど…」
◯「そうじゃなくてよ…」
絵「?」
◯「その…絵梨花と二人で回りたいんだよ。文化祭」
絵「え…?」
◯◯は少し照れ臭そうに頬を掻きながら言った
◯「嫌か…?」
絵「ううん、行く!絶対行く!」
絵梨花は嬉しさのあまり、手をブンブンと上下させている
◯「おいおい…はしゃぎ過ぎだろ」
絵「だって嬉しいんだもん」
無邪気に喜ぶ絵梨花を見て、◯◯も自然と笑みがこぼれた
勇紀と麻衣に二人で回ることを報告すると、ニヤニヤしながらも快諾してくれた
麻「そういえば絵梨花、ミスコンどうする?」
絵「ああ、今年はどうしようかな…」
◯「ミスコン?」
日「うん。文字通り乃木高で一番可愛い女子を決める、文化祭のメインイベントだよ」
麻「ちなみに一年生の時の優勝が私で、二年生の時が絵梨花ね」
◯「なるほど、そりゃあファンクラブもできるわけだな…」
日「せっかくだし、最後に決着付けたらいいんじゃない?僕は麻衣が勝つと思うけど」
◯「は?絵梨花が勝つに決まってんだろ。ダントツぶっちぎりの優勝だよ」
日「いやいや、麻衣だって!」
なぜか人のことで熱くなる男子二人
絵「もう、二人ともやめてよ…」
麻「まったく…なんで勇紀までムキになってんのよ…」
女子二人は呆れ顔で呟くのだった
そんなやり取りがありつつ、ついに文化祭がスタートした
絵梨花と◯◯は二人で校内を回り始めた
◯「この前のこともあるし、今日はご馳走するよ。何でも好きなもん食ってくれ」
絵「え!いいの!?」
◯「おう」
パッと目を輝かせる絵梨花を横目に、◯◯は何かを忘れているような感覚に陥った
絵「んー!幸せ!」
◯◯のお金で次々と屋台の食べ物を平らげていく絵梨花
◯(また忘れてた…絵梨花の大食い)
夏祭りの時と全く同じことを繰り返していた
◯「あ、あのさ絵梨花…」
絵「ん?」
◯「…そんな食ってミスコン大丈夫なのか?」
絵「大丈夫だよ!腹八分目で抑えてるから!」
◯(これで腹八分目なのか…)
◯◯が唖然としていると、校内に放送が流れ始める
「ただいまより、体育館にてミス乃木高コンテストを開催致します。参加する生徒はステージ前に集合して下さい」
絵「あ!そろそろ行かないと!」
◯「頑張れよ。後で勇紀と見に行くわ」
絵「うん!頑張るね!」
絵梨花は◯◯に手を振ると、体育館に走っていった
ミスコンは物凄い盛り上がりだった
絵梨花や麻衣だけでなくクラスメイトの山下美月や梅澤美波、二年生からは麻衣の妹の遥香も出場しており、例年になくレベルの高い大会となった
しかしその中でも、絵梨花や麻衣の出番になると歓声が凄まじかった
◯「こりゃあ優勝はどっちかかな…」
日「だろうね…」
「さあ!それでは結果を発表致します!今年のミス乃木坂高校に選ばれたのは…!」
ステージが暗転し、スポットライトが受賞者を照らした
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◯「お疲れさん。惜しかったな」
絵「むぅ…後一歩だったのに悔しい…!」
結局、ミスコンには麻衣が選ばれ、絵梨花は準ミスという結果だった
票数の差がほとんどない大接戦だったそうだ
◯「準ミスでも凄えだろ。あの大歓声、アイドルか何かかと思うレベルだったぞ」
絵「でも悔しいの!」
頬を膨らませる絵梨花に、◯◯は真剣な表情で言った
◯「…俺にとっては、絵梨花が一番だったよ」
絵「…本当?」
◯「ああ。今まで出会った誰よりも可愛くて魅力的だと思ってる」
絵「それは言い過ぎだよ」
◯◯の言葉に、絵梨花は照れたように笑う
◯「…そして、そんな絵梨花が好きだ。だから…」
「俺と付き合ってくれないか?」
絵「え…?」
突然の告白に、絵梨花は驚いた表情を浮かべている
◯「返事は急がないから…っ!?」
しかし、◯◯の言葉を遮って、絵梨花は◯◯に抱きついた
絵「嬉しい…!」
◯「…本当にいいのか?」
絵「うん…私も◯◯のことが好き。大好き」
二人の影が夕陽に照らされ、ゆっくりと重なった
こうして、晴れて付き合うことになった◯◯と絵梨花
季節は冬を迎え、三年生にとってはいよいよ受験シーズンとなる
そして、受験をしない◯◯にも、卒業に向けて最後の大勝負が待ち構えていた
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