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僕と五百城さんの46日戦争⑤

29日目


○○「五百城さん、おはよう」

茉央「おはよう○○くん」

休み明けの月曜日は決まって憂鬱な気分になりがちだが、この二人にとっては例外である。

なぜなら、一週間の中で一番最初に会える日だから。


茉央「なあなあ…なんかクイズ出してや」

○○「クイズか…そうだなぁ」

少し考え込むと、○○はこう提案した。

○○「それじゃあ、みりんって10回言ってもらっていい?」

茉央「みりん?…分かった」

茉央は首を傾げつつも、言われた通りに繰り返す。

茉央「みりん、みりん、みりん……みりん、みりん、みりん!」

○○「鼻が長い動物は?」

茉央「きりん!って、あ…」

茉央は自分が誘導されたことに気付くと、少し恥ずかしそうに頬を赤らめた。

○○「ふふ、素直に引っかかってくれて助かるよ」

茉央「むかつく〜!」

○○「ごめんごめん」

頬を膨らませている茉央だが、何かを思い付いたようで悪い表情を浮かべている。


茉央「じゃあ次は茉央の番な!好きって10回言ってや!」

○○「え〜っと、好き、好き、好き……好き、好き、好き!」

茉央「えぇ?そんなに茉央のことが好きやったん?」

茉央は言わせておきながら、ニヤニヤしたような笑みを浮かべている。

○○「え、うん。好きだよ?」

茉央「えっ…///」

予想外の返答に戸惑う茉央。


○○「…なんてね、仕返しだよ。びっくりした?」

どうやら、○○の方が一枚上手だったようだ。

茉央「あほ!そういう冗談は言ったらアカンねん!」

茉央は○○のことをポカポカと叩く。

○○「あはは、ごめんごめん(笑)」

茉央「もうっ!」

側から見たら完全にバカップルだ。

こうして今日も平和な二人であった。


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30日目


美空「やっほー」

昼休みの屋上、美空は△△が腰掛けているベンチの隣に座り、弁当を広げる。

△△「よく飽きねえな…今日で3日目だぞ」

美空「だって、一人で食べるより誰かと一緒に食べた方が楽しいもん。それに、君といるの楽だし」

△△「…そうか」

美空の言葉に、△△はそっけない反応ではあるが満更でもなさそうな様子だ。

美空「そういえばさ、その後大丈夫?前一緒にいた人たちからは何もされてない?」

△△「ああ…特には。あいつらから話しかけて来ることは無くなったな」

美空「そうなんだ。何もなくてよかった」

そう言って美空は卵焼きを箸でつまむと、△△に向かって差し出した。


美空「ね、食べてみて?私の自信作なんだけど」

△△「いや…いいよ」

△△は一旦は拒否するが、美空がそれを許さない。

美空「購買ばっかりじゃ栄養バランス偏っちゃうよ?ほら、口開けて」

そう言って美空は卵焼きを△△の口元に運ぶ。

観念したのか、△△は口を開けて卵焼きを頬張った。

美空「どう?美味しいでしょ?」

△△「…まあ、悪くはない」

美空「ふふ、素直に美味しいって言えばいいのに」

△△「チッ…うるせえな…」

自分を飾ることをやめた美空と、どうにも素直じゃない△△の不思議な組み合わせだが、互いに気を遣わないこの関係は心地よく思えた。


美空「明日も来るからね」

△△「…勝手にしろ」

相変わらずの素っ気ない態度だが、それが照れ隠しだと分かっている美空は、満足そうに笑った。


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31日目


11月に入り、○○たちのクラスでも文化祭の準備が始まっていた。

生徒たちは放課後や休日に、教室や多目的室を借りて準備をしている。

○○のクラスではメイドカフェをやることになっており、今は内装やメニュー作りの段階だ。


茉央「ふーん、じゃあ○○くんはキッチン担当になったんや」

○○「そうだね。料理なら多少はできるし、接客なんてガラじゃないから…」

茉央「○○くんらしいなぁ」

二人で話していると、美空が割り込んできた。

美空「ねえねえ、どうかなこれ?似合ってる?」

そう言って、美空はメイド服を着こなしている自分の姿を二人に見せる。

茉央「似合ってるで!めっちゃ可愛いやん!」

○○「うん…似合ってると思う」

美空「でしょ?何着ても似合っちゃうのは困りものだけど」


○○「五百城さんは着ないの?」

茉央「恥ずかしいから当日までは着いひんよ」

○○「そうなのか…」

少し残念そうに呟くと、美空はからかうように言った。

美空「もしかして茉央のメイド姿見たかった?」

○○「え!?い、いや別に…そういうわけじゃないけど…」

突然の問いかけに珍しく動揺してしまう。

美空「冗談だよ(笑)当日写真撮ったら送ってあげるね♪」

○○「…うん」

そういうわけじゃないといいつつも、写真について否定はせず、素直に頷く○○であった。


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32日目


○○「買い出し?」

いつものように2人で下校している最中、唐突に茉央が切り出した。

茉央「そう!文化祭で使う材料を買いに行きたいんやけど、よかったら明日一緒に行かへん?」

○○「ああ、そういうことならもちろん付き合うよ。ただ明日は彩の買い物に付き合うことになってたから、彩も一緒でもいいかな?」

茉央「もちろんやで!三人で行こ!」

○○「ありがとう」


彩「お兄ちゃ〜ん!茉央さ〜ん!」

噂をすればなんとやらで、彩が小走りでこちらに向かって来るのが見える。

茉央「あ、噂をすればや」

○○「帰り途中?」

彩「うん!二人も今帰るとこ?」

茉央「せやで」

三人で他愛もない話をしながら帰路につく。

文化祭の買い出しがあるから三人でもいいかと打診したところ、彩は二つ返事で了承した。

彩「茉央さんとお出掛けできるの楽しみです!」

茉央「ほんま彩ちゃんは可愛ええなぁ」

彩「そんなことないですよ〜!」

茉央に褒められて照れる彩。

茉央「それじゃ、明日は楽しみにしてるな!」

○○「うん。詳細はまた連絡するよ」

彩「茉央さん!また明日!」

茉央は手を振りながら、自宅に向かって歩いて行った。

その背中を見送った後、○○と彩も家路につく。


彩「ごめんね、茉央さんと二人がよかったよね…?」

茉央と別れてすぐ、彩がそんなことを言ってきた。

○○「そんなことないよ。彩といる時間も僕にとって大事な時間だから」

そういって○○は彩の頭を撫でた。

彩「えへへ…」

彩は嬉しそうに目を細める。

彩「…明日が楽しみだね!」

○○「うん、そうだね」

それから家に着くまで、他愛もない話をして歩いたのだった。


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33日目


茉央「○○くん、彩ちゃん、お待たせ〜!」

三人は文化祭の買い出しのため、ショッピングモールに来ていた。

彩「茉央さん!こっちです!」

彩が小走りで駆け寄ってくる。

茉央「ふふ、元気やね」

彩「はい!今日はすごく楽しみだったので!」

茉央「そんなに素直に言われたら嬉しいなぁ」

彩「あの…よかったら私の服を選んでくれませんか?」

茉央「え?茉央でいいん?」

彩「はい!茉央さんに選んでほしいです!」

茉央「ふふ、嬉しいこと言ってくれるやん」

そう言って彩の頭を撫でる。

彩「えへへ…」

茉央「ほな、早速行こか!」

茉央は彩の手を引いて歩きだす。

彩「わわっ、待ってくださいよ〜!」

○○もそれを追うように歩き出した。


茉央「…どうやった?彩ちゃんの趣味に合いそう?」

茉央は何着か服を見繕った後、試着室の前で彩に問いかけた。

彩「どう…かな?似合ってる?」

そう言って、試着室のカーテンを開ける。

そこには、可愛らしさは残しつつもどこか大人っぽい服装の彩がいた。

○○「すごく似合ってるよ」

茉央「そうやね、いい感じ!」

彩「えへへ…嬉しいな」

照れくさそうにしながらも、どこか嬉しそうだ。


茉央「なるべくリーズナブルな物を選んだから、予算内で収まってると思うで」

彩「茉央さん、ありがとう!」

茉央「どういたしまして〜」

会計を終えた彩は、袋を手にとても満足そうにしている。

○○「五百城さん、彩のことお願いしててもいいかな?ちょっとお手洗い行ってくる」

茉央「うん、大丈夫やで」

○○は茉央に彩のことを任せると、二人とは反対方向のトイレに向かった。



○○「結構混んでて遅くなっちゃったな…」

お手洗いを終えた○○は元いた場所に戻るが、二人の姿が見当たらない。

○○「あれ?どこ行ったんだろ…」

「やめてください!」

辺りを見渡していると、どこからか声が聞こえてきた。

○○「この声は五百城さん…?あっちか」

声を頼りに、茉央のいる場所へ向かう。

するとそこには、男性二人組に囲まれている茉央と彩がいた。

彩は怯えて茉央にしがみついており、茉央はなんとかしっかりしなければと、怖がりながらも毅然とした態度で対応している。


「いいじゃん!暇なんでしょ?」

茉央「いえ、友達と来てるので…」

「そんなこと言わずにさぁ〜」

男たちはしつこく絡んでくる。

○○「ごめんごめん!二人ともお待たせ!」

茉央「あ、○○くん…!」

彩「お兄ちゃん!」

○○は小走りで駆け寄ると、二人の間に入った。


「なんだよ…男いんのかよ」

男の片方は悪態をつきながら去ろうとするが、もう一人の男は気が収まらずヒートアップしているのか、○○を睨み付ける。

「ちっ…カッコつけてくれるじゃねえか。少々痛い目見てもらうぜ」

男は○○に殴りかかってきた。

○○は咄嗟に目を瞑ってしまう。

しかし、いつまで経っても殴られた感触がない。

目を開けると、そこには振りかぶった男の腕を掴み制止する、一人の男の姿があった。


○○「君は…」

そこにいたのは、なんとあの△△だった。

「なんだお前…!離しやがれ!」

男は乱暴に振り払おうとするが、△△が握る手に力を入れると苦痛に顔を歪める。

「くっ…痛え!」

△△は手を離すと、男を睨みつけた。

その威圧感に怯んだのか、男は後ずさりすると仲間を連れて逃げ出した。


△△「…怪我はないか?」

○○「どうしてここに…?」

△△「…たまたま絡まれてる姿を見かけてな。余計なことをしたか?」

○○「いや…助かったよ。僕だけだったらどうなってたことか…」

茉央「ありがとう」

彩「ありがとうございます」

茉央と彩も△△に感謝の意を示す。


「△△くん…もういいんじゃないかな?」

声の方を見ると、△△の背後に一人の女子が立っている。

茉央「え?美空も一緒だったの?」

美空「うん。たまたま買い物に来てたんだ」

どうやら美空と△△も文化祭の買い出しでここに来たらしい。


美空「それより…△△くん、他に言うことがあるんじゃないの?」

△△「…ああ、そうだな」

△△は改めて○○の方に向き直ると、ゆっくりと口を開いた。

△△「すまなかった…」

○○「え?」

突然の謝罪に○○だけでなく、事情を知らない二人も困惑する。

△△「この前のことだ…。本当に申し訳ないことをしたと思ってる」

○○「もう過ぎたことだし、僕は全然気にしてないよ」

○○はそう優しく声を掛ける。

そして△△は大きく深呼吸をすると、さらに言葉を続ける。


△△「…今日のことでチャラになるなんて思ってない。ただ、よければ…俺と友達になってくれないか?」

△△はまっすぐ○○の目を見据えながらも、どこか不安そうな眼差しでそう言った。

○○「△△…」

○○はニコリと微笑むと、返事の代わりに右手を差し出した。

それを見た△△もどこか安心したように微笑むと、ゆっくりと右手を握り返したのだった。


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34日目


ベッドに顔を埋めながら、茉央は昨日のことを思い出していた。

茉央「つい勢いで言ってもうた…」

話は昨日、○○と△△がガッシリと握手を交わした後にまで遡る。




彩「あの…皆さんお兄ちゃんのクラスメイトなんですか?」

彩が首を傾げながら尋ねた。

美空「か…」

○○「か?」

美空「かわいいぃぃぃぃぃ!」

彩「ひゃあ!?」

いきなり大声を出した美空に、ビックリする彩。

美空「こんな可愛い妹ちゃんがいるなんて聞いてないよ!」

○○「いや、聞かれてないし…」

美空は彩に抱きついているが、彩はどこか嫌そうな顔を浮かべている。

茉央「ちょっと美空、そろそろ離してあげや」

美空「むう…」

しぶしぶといった感じで離れるが、それでも彩の手を握ったままだ。

○○「はは…」

△△「なんか…すまん」

△△は苦笑いを浮かべる。

○○「いや、全然大丈夫だよ」

○○は苦笑いを返した。


○○「それより、一ノ瀬さんとは付き合ってるの?」

△△「そんなんじゃねえよ。ただ…あいつとは一緒にいて楽だ」

そう言って美空の方に目を向ける。

美空は彩の手を握ったままニコニコしている。

○○「なるほど…」


△△「お前の方こそどうなんだ?」

○○「…もちろん好きだよ。でも、焦る必要はないかなって思ってる」

△△「そうか…。ま、本気なのは分かってるから、したいようにすればいいさ」

○○「ありがとう…」

その後は5人で買い出しの続きをすることにし、ショッピングモール内を歩いた。

美空からの過剰なスキンシップに彩は困惑しつつも、どうやら打ち解けたようで楽しそうに話していた。


無事に買い出しも終わり、○○は茉央と二人で帰路に着いた。

彩は中学の友達の家に用事があり、美空と△△はもう少し遊んでから帰るらしい。

あちらもまだまだ二人でいたかったのと、○○たちに気を使ったのと両方だろう。

茉央「今日は楽しかったなぁ」

○○「うん、そうだね」

茉央「茉央たちが絡まれてた時、止めに入ってくれてありがとう」

○○「いや…結局僕は何もできなかったし…」

茉央「そんなことあらへん。凄くかっこよかったで…」

○○「そうかな?そう言ってもらえると嬉しいよ」


茉央はふと立ち止まると、少し顔を赤らめながら口を開いた。

茉央「…惚れ直してもうたわ」

○○「え?」

○○も立ち止まって茉央の方を見る。

茉央「やっぱり…茉央は○○くんのことが好きや…」

茉央はまっすぐ○○の目を見つめながら告げる。

茉央の瞳に吸い込まれそうになりながらも、○○はなんとか言葉を返そうとする。

○○「僕は…」

その時、タイミング悪く○○たちの横を猛スピードでバイクが通り過ぎ、言葉を遮った。

○○「あ、危ないな…」

茉央「そ、そうやな…」

○○「……」

茉央「……」


二人はしばしの静寂に包まれると、やがて茉央が口を開いた。

茉央「…ごめんな、やっぱ聞かなかったことにしてや。変なこと言ってごめんな」

茉央はどこか寂しげな笑顔を浮かべると、再び歩き始めた。

○○は言葉を返すことができず、その後に続くように歩きだすが、その表情はどこか浮かないものだった。


茉央(言うだけ言って逃げてもうた。茉央の…)

○○(せっかく伝えてくれたのに、はっきりと答えてあげられなかった。僕の…)

茉央・○○(臆病者…!)


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35日目


茉央「あぁ…明日からどんな顔して会えばええんやろ…」

茉央は昨日と同じくベッドに顔を埋めながら、足をバタバタとさせる。

すると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。

茉央「はーい」

返事をすると、母が部屋に入ってくる。

茉央「お母さん、どないしたん…?」

茉央母「お父さんからね、大事な話があるの…。ちょっとリビングに来てもらえる?」

茉央「…うん」


リビングへ行くと、既にテーブルの前には父が座っていた。

茉央父「悪いな、急に呼び出したりして…」

茉央「ううん…」

父は一息つくと、重々しく口を開いた。


茉央父「実はな…父さんまた大阪支社に異動になるかもしれない」

茉央「え…」

茉央母「元々向こうでお父さんの上司だった方が一身上の都合で退職されてね、その後任として、お父さんが候補になっているらしいの」

もしそうなれば異例の二階級特進であり、父もできればこのチャンスは逃したくないと考えているとのことだった。

茉央父「母さんの言う通りあくまで候補だから、まだどうなるかは分からない。だが、心の準備はしておいてほしい」

茉央「そう…なんや…」

茉央は何とか言葉を絞り出したが、頭の中は真っ白で何も考えられない。

茉央父「正式な辞令は再来週あたりに出る予定だが、学校の先生には念のため伝えておいてくれるか?直前だとバタバタするかもしれないからな」

茉央「うん…」


依然曇ったままの茉央の表情を見て、父が問いかける。

茉央父「…学校は楽しいか?」

茉央「…うん。凄く楽しい」

茉央父「そうか、素敵な友達ができたんだな…。本当にすまない…」

茉央「ううん…お父さんは何も悪くないよ」


しばらく誰も口を開くことができず重い空気が流れるが、それを破るように母が口を開いた。

茉央母「二人とも、今日は遅いからもう寝ましょう?続きはまた話しましょう」

茉央父「そうだな。おやすみ…茉央」

茉央「おやすみなさい…」

茉央は力ない声で返事をすると、そのまま自分の部屋へと戻っていった。

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