僕と五百城さんの46日戦争③
15日目
ガラガラッ…
「はい、みんな席に着け〜」
教室に入ってきた担任が生徒たちに着席を促し、全員が着席したのを確認して口を開く。
「えー、少し前に五百城が入ったばかりだが、またしてもこのクラスに転校生が入ることになった」
一同(ザワザワ…)
「転校生多くない?」
「なんでまたこのクラス?」
「作者の都合でしょ」
教室が一気に騒がしくなる。
「静かに!…それじゃあ入って来てくれ」
ドアを開け一人の少女が入ってくる。
「それじゃ、自己紹介を頼む」
「はい!福岡県から来ました一ノ瀬美空です!お父さんの仕事の都合で転校してきました!よろしくお願いします!」
クラス中から拍手が起こる。
笑顔で自己紹介をする彼女に、男子生徒は既にメロメロだった。
「えっと席は…あそこの空いてる席に座ってくれ」
「分かりました!ありがとうございます!」
空いている席は○○の後ろだった。
美空は元気に返事すると席に向かう。
○○(っていうか、なんでこの前まで隣も後ろも空いてたんだろう…)
その途中で○○と目が合うと、美空はニコッと微笑みそのまま席に着いた。
○○(また可愛い子が来たな…)
○○が美空に一瞬見惚れていたのを、茉央は見逃さなかった。
茉央(むぅ…ライバル登場の予感…)
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16日目
朝、いつもの場所で一緒に登校しようと茉央を待っていると、突然背後から視界を塞がれる。
「だーれだっ?」
○○「…はいはい、こんなことするの五百城さんしかいないでしょ」
○○はそう言って視界を塞ぐ手を優しくどかす。
「他の子と間違えるなんてひどいな〜。ショックかも…」
○○「え!?この声は…!?」
声のする方を振り向くと、悪戯っぽく微笑む美空の姿。
美空「正解!おはよっ」
○○「お、おはよう…」
○○は戸惑いながらも挨拶を返す。
美空「そんなことより、なんで一人で立ってたの?誰か待ってるの?」
○○「ああ、それは…」
説明しようとすると、茉央が小走りでやって来た。
○○「あ、おはよう五百城さん」
茉央「おはよう。あれ、なんで一ノ瀬さんがおるん?」
美空「ごめんなさい。まだ転校してきたばかりで不安で、知ってる人を見かけたからつい声掛けちゃったの…」
申し訳なさそうに答える美空。
茉央「あ、そうやったんか…」
自分も転校生のため、茉央は美空の気持ちが痛いほど分かった。
○○「五百城さん…」
○○が目で訴えかけると、茉央も同じことを考えていたようで小さく頷いた。
茉央「…よかったら一ノ瀬さんも一緒に学校行かへん?」
茉央はそう提案する。
美空「いいの…?」
茉央「うん!○○くんもええよな?」
○○「もちろんだよ」
美空「やった〜!ありがとう!」
こうして新たに美空を加え、三人で学校に向かうこととなった。
美空(なんか、○○くんってかっこいいかも…)
そして、二人が勝負していることなど知らぬまま、美空も○○に密かに惹かれていくのだった。
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17日目
美空が転校してきてから3日が経ったが、未だに休み時間になると人だかりができるほどに人気だった。
「一ノ瀬さん!今日一緒に帰らない?」
「連絡先教えてよ!」
「おいお前ら!あんまり一ノ瀬さんに迷惑かけんなよ!」
美空「あはは…みんなありがと♪」
茉央(やっぱり凄い人気やなぁ…茉央の時とは大違いや)
実際には彼女の時も人だかりができていたのだが、どうやらあまり覚えていないらしい。
ふと○○の方に目を向けてみると、彼は本を読んでいた。
茉央(○○くんはさすがのマイペースやなぁ…。美空のことどう思ってんねやろ?)
疑問に思った茉央は、美空の方に視線を送る。
すると彼女は○○を横目でチラチラと見つめていた。
ふと顔を上げた○○と目が合うと、美空はパチンとウインクをする。
○○は少し照れながらも、再び本に視線を戻した。
茉央(これはまずいかもしれへん…。明日からまた攻めるしかないなぁ…)
茉央は小さくため息をつきながら、スマホの画面に視線を落とす。
茉央(!?これや……)
何かを思いついた様子の茉央だった。
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18日目
茉央「なあなあ○○くん、愛してるゲームせえへん?」
休み時間、茉央は唐突にそんなことを言い出した。
○○「愛してるゲームって何?」
茉央「知らんの?お互いに愛してるって言い合って、先に照れた方が負けっていう簡単なゲームやで」
○○「ふぅん…。それで、何で急にそんなことを?」
○○からすれば当然の疑問である。
茉央「えーと…それはやな…」
珍しく言い淀む茉央。
茉央(○○くんが美空に取られそうやからなんて言えへん…)
○○「?」
不思議そうな表情を浮かべる○○。
茉央「ま、まあええやんか!やろうや!ほら!」
半ば強引に話を進める茉央。
○○「相変わらず強引だなぁ…。まあいいけど…」
特に異論もなかったので、了承する○○。
茉央「じゃあ○○くんからで!」
○○「えぇ…僕から?」
茉央「うん!」
○○「…愛してる」
茉央「え?聞こえへんよ?」
○○「愛してる」
茉央「もっと大きい声で!」
○○「…愛してる!」
茉央(あかん、なんかドキドキしてきた…)
必死で耐える茉央とは対照的に、○○は涼しい顔をしている。
○○「…これでいい?」
茉央「う、うん!次茉央の番な!」
○○「どうぞ」
ここで茉央は勝負に出る。
○○の肩に手を置き顔を近付けると、上目遣いでこう言った。
茉央「○○くんのこと、めっちゃ好きやで…」
○○「…!?」
突然の告白に動揺する○○。
その瞬間、○○は机に顔を伏せたまま動かなくなってしまった。
茉央「あれ?おーい○○くん?」
肩を揺すりながら呼びかけると、○○は消え入りそうな声で言った。
○○「そんなの照れるなって方が無理でしょ、可愛すぎ…好き…」
茉央「えぇ!?」
予想外の反応に驚く茉央。
○○「…五百城さん」
急に顔を上げて名前を呼ぶ○○。
茉央「ど、どうしたん…?」
○○「顔真っ赤だけど…照れてるよね?」
茉央「え…?」
慌ててスマホを取り出して見てみると、確かに顔が赤くなっていた。
茉央「ち、ちゃうわ!これは驚いただけや!」
○○「ふふっ、そういうことにしといてあげるよ」
茉央「ほんまやって!○○くんの意地悪!」
美空(いや、どっちも顔真っ赤なんだけど…)
そんな二人を見て心の中でツッコむ美空であった。
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19日目
「あのさ、○○って五百城と付き合ってんの?」
○○はクラスメイトの△△に突然話し掛けられた。
仲が悪いわけではないが、飛び抜けて仲が良いわけでもなかったので少し驚きながらも答える。
○○「え?いや、付き合ってないけど…」
△△「本当かよ?最近のお前らを見てると、どう考えてもカップルにしか見えないんだけど」
当人たちはあくまで勝負の一環としてやっているが、周囲から見ればそう見えてもおかしくはないだろう。
○○「なんでそんなこと聞くの?」
△△「いや、実は五百城のこと気になっててさ…。付き合ってるならさすがに諦めようと思ったんだけど…」
○○(なるほど…そういうことか)
○○は合点がいったという顔になる。
○○「本当に付き合ってないよ、嘘じゃない」
△△「…そっか!悪いな、急に変なこと聞いて」
△△は安堵の表情を浮かべながら自分の席へと戻っていった。
下校中
茉央「なあなあ○○くん、明日空いてる?」
唐突にそんなことを聞いてくる茉央。
○○「急にどうしたの?」
茉央「いや、明日美空とお出掛けする予定やってんけど、急用が入ったらしくて…」
どうやら引っ越して来たばかりでまだバタバタしているらしい。
○○「明日は確か何も…」
○○はそう言いかけながら、△△の言葉を思い出す。
△△(五百城のこと気になっててさ…)
真剣に彼女を想う人間がいるのに、自分がその立場にいるのはずるい気がしてしまった。
○○「あ…ごめん。明日予定あるんだ…」
茉央「え…そうなん?」
○○「うん、本当にごめん。他のクラスメイトとか誘ってみたら?△△とか…」
茉央「…なんでそこで△△くんの名前が出るん?」
○○「え、いやほら、他のクラスメイトとも仲良くした方がいいのかなって!」
明らかに動揺している様子の○○。
茉央「…なんやそれ、意味分からん。そんな言い訳しなくても嫌なら嫌って言えばええやん」
冷たい口調でそう言う茉央。
○○「別に嫌とかじゃ…」
茉央「もうええわ」
そう言うと、一人でスタスタと歩き始める茉央。
その後いつもの分かれ道に着くまで、二人は一言も話すことはなかった。
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20日目
彩「ただいま〜」
土曜日ではあるが、部活を終えた彩が帰ってくる。
彩「あれ、お兄ちゃん家にいたんだ」
○○「まあ特に何も予定ないからね。なんで?」
彩「いや、さっき帰り道に茉央さんと会ったの。これから映画観に行くって言ってたから、てっきりお兄ちゃんとかと思ってた」
○○「あぁ…そっか」
○○(結局誰と行ったんだろ…)
断っておきながら、そんなことを気にしてしまう自分に自己嫌悪する○○。
彩「何かあったの?」
○○「…何もないよ」
彩(…嘘つき。お兄ちゃんの嘘はすぐ分かるんだから)
さすがは妹だけあり、兄の異変をすぐに見抜いていた。
彩「そっか…あんまり考え過ぎないようにね」
○○「…ありがとう」
しかし何かあったことには気付きながらも、深くは追求しないでくれる彩だった。
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21日目
「あれ?○○くん?」
昼下がり、○○が気分転換に散歩をしていると、ふと声を掛けられる。
○○「あ、一ノ瀬さん…」
美空「やっほー♪」
笑顔で挨拶する美空。
○○「何してたの?」
美空「スーパーの帰り!お母さんに買い物頼まれちゃって」
○○「そっか…」
美空「それより、昨日はどうだった?茉央とお出掛けしたんでしょ?」
○○「え、あぁ…僕は行ってないよ」
○○は金曜のことを思い出しながら答える。
美空「え…なんで?」
○○「いや、ちょっと用事があって…」
美空は無言で○○の目を見つめてくる。
美空「やっぱり嘘だ。…ねぇ、茉央と何かあったんでしょ?」
○○「いや、別に何も…」
美空「まだ知り合ったばっかりだけど、○○くんが嘘ついてることくらい分かるよ」
○○「……」
美空「それに…きっと茉央も分かってる」
○○「え…?」
○○は驚いた様子で美空の顔を見る。
美空「女の子ってね、意外とそういうのに敏感だから」
○○(僕が嘘をついてることに気付いたから、あんなに冷たい態度だったのか…?)
○○は昨日のことを思い出す。
美空「早く仲直りしないとどんどん距離が開いていっちゃうかもよ?私でよかったら話聞くし」
○○「…うん、ありがとう」
それから2人は公園のベンチに腰掛けて話をした。
美空「そっか、そんなことが…」
○○は、名前は伏せたが茉央のことを気になっているクラスメイトに相談を受けたこと、そしてそれを気にして茉央の誘いを嘘付いて断ったことを話した。
美空「…優しすぎるなぁ、○○くんは」
○○「え?」
美空「友達思いなところは素敵だけど、じゃあ茉央が本当にその子と付き合ったらどうかな?」
○○は少し考えてから答えた。
○○「それは嫌…かも」
美空「でしょ?」
美空は優しく微笑むと、立ち上がって○○の前に立つ。
美空「それって、茉央が○○くんの中で特別な存在になってる証拠だと思うよ?」
○○「え…?」
美空「それに、あの子もきっと同じ気持ちだよ」
そう言って手を離すと、くるりと回って公園の入口へと歩いていく。
美空「じゃ、私は帰るね!また明日!」
そう言って手を振ると、そのまま去っていってしまった。
○○「僕にとって特別…か」
美空の言葉が、○○の頭からしばらく離れなかった。
美空「あ〜あ、ライバルに塩を贈るようなことしちゃったかなぁ」
帰り道を歩きながら、そんな独り言を漏らす。
美空「まぁ、あの2人は仲良しの方が似合うもんね。一つ貸しだよ、お2人さん♪」
美空は満足げな表情を浮かべ、軽い足取りで帰路に着いた。
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