I'm going to like me③
学内の食堂は新入生たちで混雑していることが想像できたので、◯◯と和は大学の外のカフェにやって来ていた。
◯◯「ここのお店、来たことあるんですか?」
和「うん。オープンキャンパスの時に友達とね」
◯◯「なるほど…」
◯◯はオムライス、和はチョコレートパフェをそれぞれ注文した。
◯◯「え、お昼それだけですか?」
和「うん、ここのパフェ大きいんだよ!」
◯◯(いや、そういう意味じゃなかったんだけど…本人がいいならいいか)
他愛もない話をしながら待っていると、二人が注文した料理が運ばれてきた。
◯◯「あ、美味しそう。いただきます」
和「いただきまーす!」
◯◯はスプーンでオムライスを掬い口に運ぶ。
◯◯「うん、美味しい」
最近流行りの半熟タイプではなく、昔ながらのよく焼きタイプで、◯◯の好みにぴったりだった。
◯◯(お店の雰囲気もいいし、今後も通おうかな…)
そんなことを考えながらオムライスの味を堪能していると、和がこちらをじーっと見ていることに気付いた。
◯◯「どうかしました?」
和「ふふ、美味しそうに食べるなぁと思って」
◯◯「え?いや、あんまり見ないでくださいよ」
和「えー?いいじゃん!」
和はそんな◯◯を見ながら、満足そうにパフェを食べ進めていく。
和「◯◯くんが美味しそうに見えるから、私もオムライス食べたくなってきちゃった…一口ちょうだい!」
◯◯「えぇ!?」
和「お願い!私のパフェもあげるから!」
◯◯「いや、そういう問題じゃ…」
和「あーん!」
口を開けて待っている和。
◯◯は周りを見渡したが、幸いにも皆それぞれの会話に夢中でこちらに気付いている人はいなかった。
観念してオムライスをスプーンで掬い和の方に差し出すと、彼女は嬉しそうに口を開ける。
パクッ……モグモグ……
和「うーん!美味しい!幸せ!」
まるで恋人のようなシチュエーションだが、◯◯は努めて冷静に振る舞うよう心掛けた。
◯◯「それはよかったです」
和「ありがとう!お返し!」
和はスプーンでパフェを掬い、今度は彼女が◯◯の方に差し出した。
和「はい!あーん!」
◯◯「いや、僕は大丈夫ですよ」
和「なにー?私のパフェが食べられないってのか!」
パワハラ上司のような絡み方をしてくる和に、◯◯は苦笑いしながら口を開いた。
◯◯「もう、分かりましたよ…」
パクッ……モグモグ……
和「どう?美味しい?」
◯◯「はい、美味しいですね。甘過ぎなくて食べやすいです」
和「でしょー!」
和は得意気にそう言って、その後もパフェを食べ進めていく。
◯◯(ていうかこれって間接キスってやつだよな?和さんにとってはこれくらい普通なんだろうか…)
◯◯は彼女との距離感を測りかねていた。
和(うーん…ちょっと大胆すぎたかな?でも、これくらいしないと意識してくれないだろうし…)
対する和も、正解が分からず自問自答を繰り返していた。
◯◯「そういえば、前に一緒に来たお友達は早桜大じゃないんですか?」
和「ううん、早桜大だよ。高校が一緒なんだけど、今日は同じ学部のお友達と一緒みたい」
◯◯「そうだったんですね。皆さんどうやって入学前に仲良くなってるんですか?」
和「LINEグループから繋がったりとかじゃないかな?◯◯くんも入ってるでしょ?」
◯◯「まあ一応…(しまった!やっぱりみんな入学前から動いてたのか。完全に出遅れた…)」
◯◯の表情が一瞬曇ったのを、和は見逃さなかった。
和「もしかしてまだお友達できてなかったりする?」
◯◯「うっ…いや、はい…」
和は気まずそうにしている◯◯をじーっと見つめて口を開く。
和「ねえ、LINE交換しようよ!」
◯◯「え?」
和「私が◯◯くんの初めてのお友達!学部も同じだし、仲良くしてほしいな?」
◯◯「…いいんですか?」
和「当たり前じゃん!入学前にあんな出会い方してる人なんていないよ?」
◯◯「それは確かに…」
お互いが想像している出会いはそれぞれ違うのだが、上手いこと話が噛み合っていた。
和「ね?交換しよ?」
◯◯「はい、僕でよければ…」
◯◯は少し悩んだ後、スマホを取り出した。
和「やったぁ!ふふ、よろしくね♪」
◯◯「こちらこそ、よろしくお願いします」
こうして二人は無事(?)LINEを交換することができた。
その後もカフェで過ごしていた二人だが、オリエンテーションの時間が近付いてきたので店を出ることにした。
和は伝票をサッと手に取ると、会計を済ませ店を後にした。
◯◯「和さん、これ僕の分です」
和「いいの!ここは私に払わせて?助けてくれたお礼ってことで」
◯◯「でも…」
和「じゃあ、この後ジュース買ってよ!それでチャラね?」
◯◯「…分かりました。ありがとうございます」
和「うん、それでよし!」
女性への苦手意識や先入観から壁を作ってしまっていた◯◯だが、美人なのに気取らずに人懐っこい和に少しずつ心を許し始めていた。
約束通り道中のコンビニでジュースを買った二人は、オリエンテーションの会場へと向かうのだった。
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履修登録の説明や学科ガイダンスなど、オリエンテーションは滞りなく終わった。
◯◯(やっと終わった…あとは帰るだけだな)
和「お疲れ!◯◯くんも東西線だよね?途中まで一緒に帰ろ!」
◯◯「いいですよ」
二人は駅へ向かうと、昨日と同じ下り方面の電車に乗り込んだ。
和「初日から盛り沢山で、大学生って感じするね!」
◯◯「そうですね」
和「ふふ…◯◯くんとお友達にもなれたし、良い一日だったなぁ」
その後も他愛ない話をしながら電車に揺られていると、一足先に和の最寄りの駅に到着した。
和「あ、私ここだから。今日はありがとう!また明日ね!」
和は電車を降りると、ドアが閉まるまでブンブンと手を振っていた。
◯◯も控えめに手を振り返すと、満足そうに微笑む和を置いて電車は再び動き出した。
和(ふふ、恥ずかしそうに小さく手振ってるの可愛かったなぁ)
◯◯が乗った電車を見送った和は、軽い足取りで改札を抜け家路に就くのだった。
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その日の夜、◯◯はベッドに寝転びながらスマホをいじっていた。
◯◯(あ、和さんからLINEだ…)
和L『和だよ〜今日はありがとう!◯◯くんって絵とか好きなの?』
突然の質問に驚きつつも、◯◯は返信した。
◯◯L『書くのは上手くないですけど、見るのは好きですね』
和L『そうなんだ!私も高校まで美術部だったから、見るのも描くのも好きだよ』
◯◯L『そうなんですね。なんかそういうサークルとか入るんですか?』
和L『それなんだけど…もしよかったら、明日一緒に芸術サークル見に行ってみない?』
少し考える◯◯だったが、特に入りたいサークルもなかったので、せっかくの誘いを断る理由はなかった。
◯◯L『いいですよ。一緒に行きましょう』
和L『やったぁ!明日もガイダンスとか健康診断とか色々あるから、終わったら行こ!』
◯◯L『分かりました。では、また明日』
和L『うん!おやすみ!』
◯◯「そっか、明日も会えるのか…」
今日限りで会わなくなる可能性を危惧していた◯◯は、和との接点が残ったことに安堵する。
◯◯(やっぱり不思議な人だな…)
この日の充実感と明日以降への僅かな期待を抱きながら、◯◯は夢の中へと意識を手放していった。
第3話 -完-
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