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僕と五百城さんの46日戦争②

8日目

3連休最終日である月曜日の朝、茉央は清々しい風を感じながら近所を散歩していた。

茉央(たまには早起きして散歩もええもんやなぁ)

ふと立ち止まってスマホを取り出し、空の写真を撮る。

茉央「ふふ、ええ感じに撮れたわ」

撮ったばかりの写真を満足そうに眺めながら歩いていると、前方から犬を連れた女の子が歩いてくるのが見えた。


茉央(うわ、めっちゃ可愛い子やなぁ…)

女の子は犬に向かって話しかけながら、笑顔で歩いている。

微笑ましい光景に思わず口元が緩んでしまう。

距離が近くなりすれ違おうとした時、犬が茉央の足元に向かってじゃれついてきた。

茉央も体勢を低くして頭を撫でてあげると、犬は尻尾を振りながら喜んでいた。

「ごめんなさい!こら…急にじゃれついちゃダメでしょ」

飼い主の女の子は犬のリードをグイッと引っ張った。

「すみません…大丈夫ですか?」

茉央「全然大丈夫です!人懐っこい子ですね」

「そうなんです!可愛いんですけど、誰にでもじゃれついちゃうから困ってて…」

飼い主の女の子は犬のことをとても愛しそうに見つめながら話す。

「この辺りに住んでらっしゃるんですか?」

茉央「はい、最近引っ越してきました!」

それを聞いた女の子は何かを考える素振りを見せた後、再び口を開いた。


「もしかして…五百城さんですか?」

茉央「え、そうですけど…」

茉央が戸惑いながらも答えると、女の子は嬉しそうに目を輝かせた。

「やっぱり!いつもお兄ちゃんがお世話になってます!」

茉央「え?お兄ちゃん…?」

突然の話に茉央は首を傾げる。


「私、小川彩って言います。小川○○は私の兄です」



茉央「そっかぁ、○○くんの妹さんなんや」

近くの公園のベンチに座りながら、茉央は彩と話していた。

彩「はい!最近お兄ちゃん、家で五百城さんの話ばかりしてるんですよ。面白い転校生が来たって」

茉央(○○くん…そんなこと言うてたんや)

恥ずかしさと同時に嬉しさが込み上げてくる。


彩「お兄ちゃん昔から口下手で友達少ないから、私も心配だったんですけど…優しくて綺麗な人で安心しました!」

そう言って笑う彩はとても明るくて可愛らしかった。

茉央「ふふ、○○くんのこと大好きなんやね」

彩「えへへ…はい!あ、お兄ちゃんには内緒にしてくださいね。恥ずかしいので…」

茉央「分かった、内緒にしとくわ」

彩は嬉しそうに笑うと、立ち上がって言った。


彩「それじゃ私そろそろ行きますね!お兄ちゃんに五百城さんと会ったって自慢しよ!」

茉央「うん、またね」

彩は軽く会釈した後、手を振って去っていった。

茉央「ふふ、ええ子やなぁ」

茉央は晴れやかな笑みを浮かべながら、再び散歩を再開するのだった。


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9日目

連休明け、3日振りの登校日。

いつもの場所で合流した2人。

茉央「おはよ、○○くん!」

○○「おはよう。だいぶ寒くなってきたね」

茉央「ほんまやなぁ…」

9月のうちはまだ残暑で暖かい気温だったが、10月に入って一気に気温は下がった。

特に朝晩の冷え込みは厳しくなり、半袖で過ごすにはかなり厳しい気候だ。

○○たちも冬服へと衣替えを済ませており、ワイシャツの上にカーディガンを着ている生徒も散見された。


茉央「そういえば、昨日彩ちゃんに会ったで。あんなに可愛い妹がおったんやなぁ」

○○「らしいね、彩が自慢げに言ってきたよ。迷惑とか掛けなかった?あいつ昔からちょっと抜けてるところがあって…」

茉央「ふふ、全然。とってもいい子やったよ」

○○「そっか…ならよかった」

ほっとしたような表情を浮かべる○○。

彩が○○のことを話していた時と同じような、優しい顔をしていた。


その後も2人で通学路を歩いていると、後ろから誰かが走ってくる足音が聞こえてきた。

振り返ると、そこには息を切らしながら近づいてくる彩の姿があった。

彩「はぁ…はぁ…やっと追いついたぁ…!」

茉央「あ!彩ちゃんやん、おはよう」

彩「茉央さん!おはようございます!」

○○「彩?どうした?」

息も絶え絶えの状態で走ってきた彩を見て、○○は少し戸惑っている様子だ。


彩「もう!どうしたじゃないよ!お弁当忘れてたよ!はい、これ!」

彩はカバンから弁当箱を取り出して○○に手渡す。

○○「あ…忘れてた。わざわざ届けてくれたのか?ありがとう」

彩「もう…しっかりしてよね!」

茉央「ふふ、ちょっと抜けてるのがなんやっけ?お兄ちゃん?」

○○「うるさい…」

茉央はニヤニヤしながらからかうように言う。


彩「本当に仲良さそうでよかったです!お兄ちゃん、あんまり友達いないから」

○○「余計なこと言うなって!」

茉央「あ〜、○○くん照れてる?」

彩「あははっ、お兄ちゃん顔赤くなってる!」

○○「もう勘弁してくれ…」

茉央と彩のタッグ口撃に、珍しくタジタジになる〇〇であった。


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10日目

昼休み、○○は菓子パンを一つ手に購買から戻ってきた。

茉央「あれ?○○くんいつもお弁当やんな?」

○○「母さんが風邪引いちゃってさ…。しかもそんな日に限って購買も売り切れでこれしかなくて…」

おまけに朝もバタバタで食べていない○○。

育ち盛りの高校生にとってはかなりキツイものがある。


茉央「そうやったんや…。あの、もし良かったらこれ食べる?」

そう言いながら弁当箱を差し出す茉央。

○○「え…?でも…」

茉央「茉央もいつもお弁当やから、購買のパンとか興味あったんよ。よかったら交換せえへん?」

○○「本当にいいの…?」

茉央は小さく頷くと、嬉しそうに弁当箱を差し出した。

○○「いただきます…」

弁当箱を開くと、卵焼きやウインナー、アスパラのベーコン巻きなど、色鮮やかなおかずが敷き詰められていた。

卵焼きを一口食べてみると、甘めの味付けでとても美味しかった。

茉央「どう…かな?」

不安げに尋ねる茉央。

○○「うん、めちゃくちゃ美味しい」

そう答えると、茉央はホッとした表情を見せた。

○○「もしかして五百城さんが作ったの?」

茉央「うん、高校生になってからお弁当は茉央が作ってるんよ」

○○「そうなんだ、すごいね」

茉央「そ、そうかな…。えへへ…」

照れながらも嬉しそうに笑う茉央。


○○「…ご馳走様でした。正直結構きつかったから助かったよ」

茉央「うん、どういたしまして!…よかったらお母さん良くなるまで茉央がお弁当作ってこようか?もちろん嫌じゃなければやけど」

○○「嫌なわけないけど…いいの?」

茉央「うん!作り過ぎちゃうことがほとんどやし、困った時はお互い様やん!」

○○「じゃあ、お願いしようかな」

茉央「うん!任しといてや!」

こうして、ひょんなことから茉央にお弁当をお願いすることになったのだった。


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11日目

朝、いつもより早く起きた茉央は、キッチンでお弁当のおかずを考えていた。

茉央(○○くん、何が好きなんやろ…。お肉?それともお魚?)

頭を悩ませながらも、その表情はどこか楽しげだった。

作り終えたおかずを弁当箱に綺麗に詰めていく。

茉央(よし、完成や!喜んでくれたらいいな…)

弁当箱をカバンに入れ、忘れ物がないか確認し玄関を出た。

茉央(まだちょっと早いけど…早く会えるかな?)

茉央は期待に胸を膨らませながら、いつもの待ち合わせ場所へ向かった。


○○「うん!めっちゃ美味しいよ!」

茉央「ふふ、よかった」

その日の昼、美味しそうにお弁当を頬張る○○と、それを見て嬉しそうに微笑む茉央の姿があった。


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12日目

放課後、いつものように一緒に帰路に就く2人。

○○「2日間お弁当ありがとね。おかげで母さんもすっかり良くなったよ」

茉央「ほんまに?良かったわぁ…」

安心したように微笑む茉央。

昨日の夜、もう母親の体調は大丈夫そうということで、○○は茉央に明日の弁当は不要だと連絡を入れていた。


茉央「また何かあったらいつでも作るから言ってな?茉央も家族以外からの感想聞きたいし…」

○○「うん、わかった。あと…明日って空いてるかな?」

茉央「明日?うん、特に予定はないで」

○○「よかったら映画でも行かない?母さんがしっかりとお礼しなさいってうるさくて…。もちろん五百城さんが良ければなんだけど…」

突然の誘いに少し驚いた様子を見せる茉央だったが、すぐに表情を綻ばせた。

茉央「うん!もちろん行く!」

○○「よかった。詳しいことは夜にでもまた連絡するね」

茉央「分かった!楽しみやわぁ!」

弾むような声で返事をする茉央。

その表情は満面の笑顔だった。


○○(母さんに感謝しないと…)

茉央(明日も○○くんと会えるんや…)

お互いにそんなことを考える二人の足取りは、どこかいつもより軽やかだった。


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13日目

○○「おはよう。待たせちゃった?」

茉央「ううん、今来たとこやで」

駅前の広場に立っていた茉央は、○○に声をかけられると嬉しそうに微笑んだ。

今日は週末ということもあり人の往来が激しい。

二人は映画館に向かって歩き始めた。


茉央「今日は何の映画見るん?」

○○「僕もあんまり映画詳しくなくて、彩におすすめされたやつなんだけど…」

そう言うと、スマホの画面を茉央に見せる。

そこにはホラー映画のポスターが映し出されていた。

茉央「え…ホラーなん?」

○○「うん、僕もあんまり得意ではないんだけど、彩が絶対これ!って言うからさ…」

茉央は少し黙り込んだ末に口を開いた。


茉央「…なあなあ、途中怖くなったら手握っててもええ?」

○○「え…?」

茉央「だって怖いやん…あかん?」

上目遣いで尋ねる茉央。

その仕草にドキッとしながらも、平静を装って答える。

○○「…わ、分かったよ」

茉央「やったぁ!それなら頑張れそうや」


映画館に到着した二人は、チケットやポップコーンなどを購入し、指定されたシアタールームへ向かう。

席は後方の中央だった。

座席に座りしばらくすると、照明が落ちると同時に上映開始のブザーが鳴った。



およそ2時間後

上映が終わり、二人はロビーへと戻ってきた。

茉央「うぅ…めっちゃ怖かったぁ…」

○○「大丈夫?やっぱり違う映画の方が良かったんじゃ…」

茉央「ううん!大丈夫やで…。でも、やっぱりホラーは苦手かも…」

○○(無理しちゃって…)

強がる茉央の手をそっと握ると、そのまま歩き出した。


茉央「ふぇっ!?ちょ、ちょっと!」

動揺する茉央を無視して歩き続ける○○。

○○「落ち着くまで、落ち着くまでだから…」

茉央「…ありがと」

頰を赤らめながら小さな声で答える茉央。

そんな初々しい二人を物陰から眺めている人影があった。


彩(あのお兄ちゃんがあんな大胆な行動を…!?これはホラー映画を勧めた甲斐があったかも…)

そう、茉央と映画に行くことを知った彩がこっそり後をつけていたのだった。

彩(うん、お兄ちゃんも楽しそうでよかった。…この後も楽しんでね)

そんなことを思いながら、彩は映画館を後にするのだった。



茉央「今日もほんまに楽しかった!何か毎日○○くんと一緒にいるような気がするなぁ…」

○○「毎日は言い過ぎだけど、確かに最近ずっと一緒にいるよね」

茉央「ふふ、そうやな!ほんまに毎日感謝してるで!」

○○(…可愛いなぁ)

屈託のない笑顔を見せる茉央を見て思う。


茉央「出会って、勝負してから2週間くらい経ったけど、少しくらい茉央のこと意識してくれたん?」

○○「さあ…どうだろうね?」

○○はとぼけるように答えた。

茉央「むぅ…」

茉央は不満げな表情を浮かべている。


○○「…でも、僕も感謝してるよ。いつもありがとう」

茉央「え?ど、どういたしまして…」

当然の言葉に少し動揺してしまう茉央。

茉央(○○くんはいつも突然なんよ…。ほんまにずるいわ…)

○○「これからもよろしくね、五百城さん」

茉央「うん、こちらこそ」

お互いに照れたように笑い合う。

二人の距離は確実に縮まっていた。


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14日目

彩「お兄ちゃん、映画どうだった?」

実際には後を尾けていたので何があったか知っている彩だったが、あえて尋ねる。

○○「まあ…面白かったよ」

何かを思い出し、少し恥ずかしそうに答える○○。

彩「そっかぁ!それならよかった!」

その答えに満足したように頷く彩。


彩「茉央さんと凄く仲良いみたいだけど、二人は付き合ったりしないの?お兄ちゃん、茉央さんのこと好きなんでしょ?」

突然の質問を投げかける。

○○「な…なんでそう思った?」

彩「だって、普通に見てれば分かるし」

気まずそうな顔をする○○。

肯定こそしなかったが、その表情は図星をつかれたことを物語っていた。


○○「五百城さんと勝負してるんだ。先に好きになったら負けってルールで」

言い訳をするようにそう話す○○。

彩(もう決着付いてるんじゃないかなぁ…)

昨日の二人を見ている限り、どちらも惹かれ合っているように見える。

彩「まあ…勝負もいいけど、自分に素直にね?お兄ちゃん不器用なんだから」

○○「余計なお世話だよ…」

○○は照れたようにそっぽを向く。


彩(茉央さん…どうかお兄ちゃんをお願いします!)

姉のような目で兄を見守る彩であった。

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