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THE BEST MOMENT の記憶

 2024年8月4日。フジファブリックの20周年記念ライブに行ってきた。
 元々、今回のライブは行く予定じゃなかった。前月も色々予定を入れてしまい、かなり有休を使ってしまっていたから今回は見送るつもりでいた。それが突然の活動休止の報告を受け、もうライブを見られるのは最後になるかもしれない、と思い、慌ててチケットを取った。
 前回の大阪城ホールから、コロナがあり、結婚したこともあり、実に4年半ぶりのライブとなった。開場を待つ間、大阪城ホールで撮った写真を見て、そのまま写真フォルダをスクロールしていくと、5年前は実家の愛犬2匹もまだ生きていたし、今はJ3でもがいている地元のサッカーチームはJ1で奮闘していた。夫とはまだ出会っていなかった。
 5年前の自分は、まさか20周年の時にはこんなことになっているとは思っていなかっただろう。自分が一生独身ということはあっても、フジが活動を止めることはないと思っていたから。そう思うにつけ、この5年の間にダイちゃんにも色々あって、こういう結果になることは全然ありうることだよな、と納得せざるを得ない。

 オープニングでは歴代のCDジャケットに合わせた映像が流れた。フジを追いかけ始めたVoyger以降は、思い出がよみがえってきてすでに泣きそうになってしまった。年を取って涙もろくなったのか。グッズのタオルを買わなかったことを後悔した。
 1曲目、聴き慣れたSTARのイントロが入ってきた。総くんが気に入っているというイントロのリフは私も本当に大好きだった。10周年の武道館ライブの最後に、アンコールで聴いたSTARの想い出が蘇ってくる。
 この日、1曲1曲のイントロが流れるたびに、いい曲だなぁ、やっぱり大好きだなぁ、という気持ちが溢れてきた。比較的聴きなれたライブの定番曲が多く、懐かしい気持ちになり、その分やっぱり寂しくなってしまった。最後かもしれないから目一杯楽しもうと思いつつ、やっぱり5年前の大阪城ホールのように、楽しい!幸せ!だけにはなれず、どこかがずっと寂しくて複雑な気持ちだった。MCもいつもおちゃらけたことをしゃべるダイちゃんが終始真面目なことしか言わなくて、やっぱりいつもと少し違うと思わざるを得ない。その分、ゆるっと力の抜けたカトークを披露してくれた加藤さんに救われた。周年ごとに披露されているカトークだが、今回が一番面白くてスムーズだった。トークライブを重ねている成果だろうか。

 志村君と一緒に、と言って、志村のボーカルトラックと一緒に演奏されたのは、モノノケハカランダ、陽炎、バウムクーヘン、若者のすべて、の4曲。モノノケハカランダは予想していなかった。赤い照明とジャキジャキしたギターの音がめちゃくちゃかっこいい。志村のボーカルが聴けるのも嬉しいけど、リードギターに徹する総くんの演奏が聴けたのもすごく嬉しい。真夏の真っただ中で聴く陽炎はやっぱり特別で、アウトロのキーボードソロはいつも以上に気持ちを叩き付けるような演奏に聞こえた。このキーボードソロを聴いて、フジの曲をもっと聞いてみたいと思ったんだった。バウムクーヘンは志村のひねくれた寂しがりの心をそのまま写したような歌詞で、でも共感できてしまうところもいっぱいあって大好きだし、なぜか最近急に評価されている若者のすべても、やっぱり良い曲である。

 ずっと生で聴きたいと思っていたWater Lily Flowerが聴けたのは嬉しかった。総くんの声が会場に満ちて、バスドラムのリズムが心臓の鼓動の様で、浮遊感と力強さがぐっとせまってきた。フジの他のどの曲にも似ていない不思議な曲。活動休止する前に一度は聴きたいと思っていたから、これをセトリに入れてくれたことには感謝。

 「月見草」を歌う前に、総くんが「寂しさを抱えて生きていくことも肯定したい」というようなことを言っていた。いつも無邪気で楽しそうに、ほんわかした空気感で人前に立っている彼の、こういう言葉にいつもハッとさせられる。傍目に見ているよりも内省的で、寂しさや悲しさを抱えたまま生きている人なんだな、と思う。ライブが始まる前にも思ったけど、この5年間、その前にも、たくさんの別れがあった。生きているとそれは避けられないことで、寂しさ悲しさは消えないでずっと残っているけど、それを肯定したいと言ってくれるのはありがたいな、と思う。

 終盤に向けて、東京、LIFE、ミラクルレボリューションNo.9、Feverman、星降る夜になったら、と盛り上がり系の楽曲が続く。ミラクルレボリューション~は初めてライブで聴いたが、不思議な盛り上がり系である。こんなへんてこな曲で何で盛り上がるのか?という、銀河に近い不思議さがある。キメの音型でポーズを決めるMVの振りはおそらくライブでやるだろう、と思って直前におさらいしてきたが、やっぱりやっていた。

 終盤「今日のライブが終わっても、明日も明後日もショウタイム、みんながショウタイム、何言ってるのかわからないと思うけど」と迷走気味のMCをかましていたが、何となく言いたいことはわかるような気がした。今日はフジのライブという舞台を見に来たけど、私たちの人生は私たち自身が主役であって、明日からは自分の人生という舞台を生きていくんだ、というメッセージに聞こえた。総くんのMCは端々から、見に来た我々一人一人の人生という背景を思いやってくれるような気遣いが感じられて、そういうところも見に来てよかったなぁと思える、ところの一つである。

 アンコールでは志村くんの富士吉田でのライブのMC(この歌を歌うために頑張ってきた気がします~というあれ)からの茜色の夕日。アンコールでも志村の歌が聴けると思っていなかったから完全に不意打ちである。と同時に、やっぱり茜色の夕日は、総くんが歌うことはないし、その必要もないんだな、と思った。20周年の記念にホールでこの歌を聞けたことはすごく幸せなことだった。
 2曲目の破顔は、どうしても5年前の大阪城ホールを思い出す。あの時の、心の底から暖かく、純粋に幸せな気持ちを思い出して、今の状況を比較してどうしても少し悲しくなってしまうけど、どこまでも力強く背中を押してくれるようなこの曲を、今日も歌ってくれて良かったと思う。
 最後の曲は「SUPER!!」。あまりアンコールのイメージがなかった曲だけど、振り返ってみるとコロナ前最後に行った「I FAB U」ツアーのアンコールもSUPER!!だった。いつも間奏でダイちゃんもギターをもって3人前に出てくるのに、今日はダイちゃんはキーボード要塞の真ん中に入ったままで、それが今の状況を反映しているようで少しだけ寂しかった。「まだまだ行けるさ 明日をもっと信じたいんだ」の歌詞が、フジファブリックのこの先にもつながってくるみたいだと思った。

 振り返ると、なんだか全体を通して、今まで感じたことのない複雑な気持ちが終始とげのように残っていたライブだったなぁ、と思う。曲は大好きだし、すごく楽しいし、志村の声が聴けたのも嬉しかったけど、ずっとどこか寂しい。でも演奏は相変わらず最高で、みんな楽しそうに笑って演奏していたことに少し安心した。やっぱりフジに出会えて良かったし、出会えたことで音楽やライブの楽しさをたくさん知ることができた。来年でフジファブリックとしては活動を休止するけど、みんな元気で生きているんだから、この先また彼らの作品に出会うこともあるかもしれない。活動休止の事情的に、再開することが考えにくくはあるけど、もっとずっと先でひょっこり活動を再開することもあるかもしれない。
 その時まで、せいぜい自分も自分の舞台で精いっぱい生きていこうと思います。

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