廿世紀梨
窓辺に立ち手を伸ばして
二十世紀梨嚙りながら
ここで確かに生きてた証に
部屋の空気を吸い込んでみる。
僕によって吸われた煙草が
黙ったまま灰皿のうえで
折り重なって戦死したみたいだ、
だけどそれもまた僕の人生だ。
ああ、多くの言葉がまだ僕の胸に突き刺さったままだ、
そっと僕はそいつを眺めて引き抜こうともせず出てゆく。
*
無言の机が所在なさげに
彼の主人を待ちあぐねている、
僕は冷たく一暼して旅立つための荷物を背負う。
ああ、音楽も古びた馴染みのレコードも
全部思い出の彼方に封印したまま出てゆく。
ああ、若年の闇の眼は濁りきっているとしても
まだぎらりと輝いている、
捨てられた煙草が最後の発火を見せるように!
*
ああ、二十世紀は音もせず急速に暮れかかるが
まだ多くの言葉が僕のこの胸に突き刺さったままだ。
涙を拭い窓辺に立ち二十世紀梨嚙りながら
僕を育てた町を脱け出して
振り返りもせず出てゆく。
忘れられない陽溜りのなか
忘れられない日になりそうだ。
(1996年9月23日)