百日紅の昼下がり
百日紅の花がいつかの庭に咲いている。
騒ぎ疲れた子がいつのまにか寝息を立てているよ。
絵日記の白い雲、彼方の海でかくれんぼする鳥、
叶わなかった夢が
いまでも深くに眠りこんでいるよ。
遠い記憶の影を辿り歩くながい坂道、
いつかの君にばったり出会えそうで
汗をぬぐう腕が思わず止まる。
*
陽炎が揺れる朝、
彼方の町で立ち止まった時間、
黙りこんだ鳩が
ずっといつまでも羽根を閉じているよ。
もうこれで最後じゃないのかと何度も振り返り
町や木々や山並みの輪郭を映しとるように
目蓋を閉じる。
いつのまにかいつかの庭で
百日紅が手招きしているようで
いつのまにかいつもの居間に
みんな集まってきているみたいで
今夜だけは終わることない宴を開くように
盃を傾ける。
*
やり残したことを片付けるために
もう帰らなきゃ、
終わらない《宿題》を
いまもたくさん抱え生きているよ。
百日紅の花がいつかの庭に咲いている。
騒ぎ疲れた子がいつのまにか寝息を立てているよ。
(2019年8月3日〜15日)