2021年宇宙の旅
遥かな大空に飛んでいって還ってきた小さなタネ。
まるで宇宙のすべてを内部に装填してきたかのように
そこには全てが詰まっている。
天日に晒され干し上がった彼らは
小さなつぶ揃いの小粒だが
乾ききったそいつをそっと土に戻すと
やがて若葉が顔を出すという、
それはたぶん奇跡だろう。
*
彼らがおれたちに宇宙を見せてくれる、
豆を蒔くとそこから作物が育つなんて
そんな大事なことも知らずにおれたちは育ってきた、
思えば、おれが初めて結成したオリジナルロックバンドの名が「ジャックと豆の木」で
二番目に作ってすぐに潰してしまったユニットの名が「芽生え」だった。
たぶんずっとこうなることは分かっていたんだと思う。
幼い頃「漂流教室」でもうすでに学んでいたように
きっとおれたちが
未来に蒔かれた種なのだ。
*
おれたちはまだ小さな双葉だ、
大雨ですぐにさらわれそうなか弱い命だが
幸いまだ血が通い、この大地に立っている。
聞いたところ魂、ソウルの語源とはソイル
つまり土に由来するらしい、
a son of the soil、それが農夫
そうだ、おれたちこそが土、
これこそがそのソイルだ!
お伽話のジャックとは違って
おれたちは自分自身の手で大きな木を育ててみよう。
出来る限りの思いを込めて
葉っぱのように見えない翼を広げ
誰がなんと言おうがもう関係ない、
古い時代の借金をおれたちが返すんだ、
おれたちの上にはもう
空と宇宙しかない。
138億年前、時間や空間とともに全てが生まれ
無数の粒の深霧の目の覚めるような晴れ上がりを経て
やがてひとつの幸運な惑星が誕生した。
雷鳴の轟く海からは生命が育まれ、
背骨を得た者たちが活発に陸上での活動を開始すると
花の咲き始める頃には乳を持つ小さな母たちが
子育てに右往左往していた。
人類学の革命家エレイン・モーガンの論によるならば
海中生活への適応によって劇的な進化を遂げた浜辺の祖先の子孫たちが
《失われた環》を繋いで辿り着いた6万年前、
ついに東アフリカの地を旅立って
世界各地へと散らばっていった。
気候と風土に応じ、
地大豆のように自在に色と形を変えていった
おれたちこそがその生き残り、
未来に蒔かれた種なのだ。
*
天日に晒されすっかり干し上がったわれらは
小さなつぶ揃いの小粒だが
乾ききったそいつを大地に戻すと
やがて若葉が顔を出すという、
それはたぶん奇跡だろう。
(2021年5月25日〜7月5日)
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