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アフォーダンス理論とは?—デザインにおける「気づき」の力

アフォーダンス(Affordance)という言葉は、心理学者ジェームズ・J・ギブソンによって提唱されました。アフォーダンスとは、「環境が人に与える行動の手がかり」を指し、物体や空間のデザインがどのように人の行動や認知を導くかを説明する理論です。

例えば、取っ手のついたカップを見たとき、人は自然と「そこを持つ」という行為を想起します。
あるいは、ベンチが置かれている風景を見ると、「座る」という行為が自然と浮かび上がります。
これがアフォーダンスの本質です。

このアフォーダンス理論を用いた思考方法は、近年デザイン業界で広まってきています。


アフォーダンスとシグニファイアの違い

しかし、デザインの文脈では「アフォーダンス」と「シグニファイア(Signifier)」がしばしば混同されがちです。
アフォーダンス理論をデザイン文脈で紹介したことで有名な、『誰のためのデザイン?』という書籍において、著作者であるドナルド・ノーマン氏も『誤用』であったと出版後に説明しています。その説明の際に新たに使われたのが『シグニファイヤ』という概念でした。

  • アフォーダンス: 環境や物体が持つ「使われ方の潜在的な手がかり」そのもの。

  • シグニファイア: その手がかりを「明確に示すサインや指示」のこと。

例えば、ドアの「押す」部分に取っ手がなく、フラットなプレートがある場合、そのプレート自体が「押す」ことをアフォード(誘発)しています。
一方で、そこに「PUSH」という文字が書かれている場合、それはシグニファイアになります。
デザインを考える際には、「アフォーダンス」と「シグニファイア」を適切に使い分けることが重要です。


アフォーダンス × シグニファイア のデザイン事例

① Apple製品の直感的操作

Appleの製品は、アフォーダンスを活かしたデザインの代表例とされることが多いです。

  • iPhoneのホームボタン:触れると自然に押したくなるデザイン。

  • スワイプ操作:画面の端からスワイプするとページが移動するという「自然な動き」。

こうした設計は、ユーザーが直感的に「どう使うべきか」を理解できるようになっています。

② 公共空間におけるアフォーダンス

公園のベンチ、駅のエスカレーター、非常口の標識など、公共空間には多くのアフォーダンが潜んでいます。

  • 駅のエスカレーター:立つべき位置には黄色い線が引かれており、自然と片側が開く。

  • 非常口のサイン:人が走るアイコンと矢印によって、方向性が直感的に理解できる。

これらのデザインは「使い方を言葉で説明しなくても伝わる」ことが重要視されています。

③ Web・UI/UXデザイン

デジタル領域では、ボタンやアイコンのデザインにアフォーダンスが活用されます。

  • リンクテキストの青色と下線:自然と「クリックできる」と思わせる。

  • スライダーのデザイン:つまみを動かせば調整できることを直感的に伝える。

アフォーダンス理論とデザイン思考のトレーニング

アフォーダンス理論を実践し、デザイン思考を磨くためには、日常生活の中での「気づき」が重要だと思います。その気づきを促すトレーニングのための事例を考えてみました。


① 日常の中でデザインを観察する

まずは、身の回りにあるモノやサービスを観察してみます。

  • 例: 自動販売機やトイレの蛇口、スマホアプリのボタン。

  • フィードバック: 「なぜこれが使いやすいんだろう?」「どうしてこれは使いにくいんだろう?」と考えてみる。

→ 目標: 使いやすさの元となる「直感的にわかる工夫(シグニファイア)」を見つけれるようになる。


② 人間の動きや心理を理解する

「人間の行動」を理解することが、アフォーダンス理論の入り口でもあります。

  • 例: スマホを操作するとき、どんなボタンが押しやすい?立ったまま操作するのと座って操作するのではどう違う?

  • フィードバック: 自分や周りの人が、何気なくやっている動きやクセを観察してみる。

→ 目標: 「なぜその行動を取るのか?」という問いを習慣にして、アフォーダンスの視点・思考を身につける。


③ 小さなプロトタイプを作ってみる

  • 例: 「カバンをかけるフック」が使いづらいと感じる。

  • フィードバック: 自分なりに紙や段ボールで改善案を作ってみる。作ったものを家族や友人に使ってもらい、「どう感じたか?」を聞いて改善してみる。

→ 目標: 自分で考え、何度も小さく作り直すことで、アフォーダンス的な発想でモノを考えたり作れるようになる。


デザインは「観察・考察・改善」の繰り返し

  1. 観察する: 身の回りのデザインに気づく。

  2. 考察する: そのデザインがなぜ良い・悪いのかを考える。

  3. 改善する: 自分で小さくプロトタイプを作り、試して直す。

デザインは特別な才能や技術がなくても、「気づく力」と「工夫する力」があれば誰でも磨くことができると思っています。
イラストやグラフィックを作ったり、ファッションや建築の斬新なアイデアを世に出すことだけがデザインではありません。

毎日の生活の中で、少しずつ「アフォーダンス的な視点」を増やしていけば、みなそれぞれに、何かしらのデザインの達人にもなれるはずです。

美しさだけではない、"良いデザイン力"

今回、アフォーダンス理論から改めてデザインを考えたことで、私はデザインとは「美しさ」だけではなく、「自然に行動を促す力」と「意図を明確に示すサイン」の組み合わせであることだと、捉え直すことができました。

アフォーダンスの視点を意識しながらデザイン力を磨くためにも、日々の暮らしの中で自分自身が感じる「これは素晴らしいデザインだ」と思う瞬間を大切にし、そこに込められた『促す力とサイン』に気づく視点を養う。
そんな習慣を身につけたいものです。

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