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私に全っ然振り向いてくれない幼馴染をぜっっったい私に夢中にさせてやるんだから!

日が雲にかかり、小鳥がさえずる時間。

私は、○○の家の前に立っている。

理由はもちろん、○○を起こすためである!

私は意気込んでインターホンを押し込む。

「あら、美空ちゃん」
「おばさん、おはようございます!」

玄関から顔を出した○○のお母さんに、キチンとあいさつ。

朝だからね、元気よく!

「○○は……」
「いつも通り寝てるわ」

「早めに来て正解でしたね〜」
「ごめんねぇ。起こしてもらってもいい?」

「まかせてください!もう慣れっこですよ」

いざ、お家にお邪魔して彼の部屋に突撃。

コンコンコンと、ノックをしてみるけど案の定返答無し。

じゃあ、突撃あるのみ!

「入るよ~」

ドアノブを下げて、扉を開く。

カーテンも開いていない真っ暗な部屋。

ベッドの上に盛り上がった掛け布団の丘。

ちょっとだけ。

ちょっとだけ、寝顔を覗いて……

「…………」

気持ちよさそうな寝顔。

普段ムスッとしている分、可愛く見える。

まあ、そうじゃなくても○○の寝顔が可愛いのに変わりはないんだけど。

って、あんまりのんびりしてる時間もないんだった。

気持ちよく寝てるところ申し訳ないんだけど、無理にでも起こさなきゃ遅刻しちゃう。

「起きて、早くしないと遅刻しちゃうよ!」
「…………」

返答無し。

想定内。

一回で起きてくれれば何の苦労もないし、おばさんも手を焼かない。

カーテンを開けて、朝日を寝ている○○にぶつける。

さらに追い打ち。

掛け布団も無理やり剥がす。

「早く起きて~!」

ようやく○○はうっとおしそうに、顔を左手で覆う。

朝日が目に直撃したらしい。

ここまでくればもう少し。

次は上半身を持ち上げて起こす。

「はい、準備するよ!」
「んぁ……」

寝起きで○○の目つきがかなり悪くなってる。

そんな姿もかわいい。

「なんだ、美空か……」

よろよろと立ち上がって、ジャージを脱ぎ始める。

「ちょ、ちょっと、私が出るまで待ってよ!」
「なに、今更」

顔がすっごく熱くなっている私は、○○に鼻で笑われながら部屋を出た。

ビックリした……

私がいるとか気にしないんだ……

それって……!

とは思うんだけどね。


「ねえねえ、今日お昼一緒に食べよ?」

登校中、まだ少し眠そうな○○にお願いしてみる。

出来るだけ可愛く。

名付けて、『王道、上目遣い作戦』

だけど、○○は冷たい。

「え、やだ。俺、友達と食べたいし」

何言ってんの?とでも言いたげな視線を私に送って、すたすたと歩いて行ってしまう。

「ちょっと、待ってよ~」

基本一緒に登下校はしてくれるんだけど、それ以外の誘いは全く聞いてくれない。

お昼食べよ?とか、放課後遊びに行かない?とか。

ほんっとに何も聞いてくれない。

そのくせして、私以外には普通に接する。

「○○~課題見せてくれよ~」

って泣きつく友達には

「ちゃんとやってこいよ」

なんて笑いながら課題を見せてあげてる。

男の子だけならいいんだよ。

だけど、○○はさっきも言った通り私以外には基本普通に接してる。

それは、女の子も例外じゃない。

「○○くん、今日ちょっと違うんだけどわかるかな?」

聞き捨てならない会話が聞こえた。

でも、私が香水を変えても何も言わない○○が。

私が髪を切っても、髪型を変えても何も言わない○○が気がつくはずないでしょ。

「ん~…………」

すごい考えてる。

ほら、わからないじゃん。

「髪、二センチくらい切った?」
「すごい!正解!」

「よかった」

不愛想な○○ととても嬉しそうな彼女のコントラストが私に突き刺さる。

「美空?」
「え、あ、どうかした?」

「なんか、ぼーっとしてない?」
「あ、ううん、大丈夫」

友達にはそう言ったけど、正直ショック。

私が何しても○○は気が付いてくれないのに。

私もちょっとだけ、髪切ったのに。

じっと○○を見つめていると、どうやら私に気が付いたみたい。

でも、すぐに目線を逸らされてしまう。

もう……

…………

絶対、振り向かせてやる!


そうと決まったら行動あるのみ。

まずは王道から攻めていこう。

「○○、一緒に帰ろ?」

できるだけきゅるきゅると、瞳を揺らすように。

「……え、無理だけど。今日はカラオケ誘われてるから」
「そっか……」

作戦失敗。

「おーい、早く行こうぜ!」
「今行く!……じゃあ、気を付けて帰れよ」

「うん、また明日……」

ちょっと、寂しいかも。

私は○○と帰るのをあきらめてとぼとぼと一人で帰路に着く。

いつもは○○と一緒だから特に何も思わなかったけど、閑静な住宅街の独特なこの雰囲気と私の背後に沈みゆく夕日がさみしさを一層掻き立てる。

しょうがないよね、友達と遊ぶんだもんね。

別に、○○には私しかいない訳じゃないよね。

明日。

明日こそ、私に振り向くような作戦を立てなきゃ。

どうすれば、○○は私の方を向いてくれるのか。

「ただいま~。今日のご飯なに~」
「今日はハンバーグにしようと思ってたところよ」

ハンバーグ……

ハンバーグ……!

「私作る!」
「あら、それは嬉しいわ」

夜ご飯用の大きいハンバーグの他に小さめのやつも何個か作っておく。

何とか完成までこぎつけた。

何個か失敗もしちゃったけど。

このハンバーグが、明日の作戦のカギ。


夜が明けた。

どうせ今日も○○は眠ってる。

今日の私の作戦のためには寝ててもらわないと困る。

「おはようございます!」
「いつもごめんねぇ」

「いえ、私がしたくてやってるので!」

さて、○○は……

恐る恐る○○の部屋に入る。

すぅすぅと気持ちよさそうな寝息。

よしよし、寝てるな。

私は○○がかけている布団を半分だけ捲る。

そして、隣に潜り込む。

名付けて、『起きたら隣に私!?作戦』

寝ないけど、目を瞑っておこう。

なんて言ったって、女の子の寝顔は武器になる!

○○だって男の子だからね、ドキドキするはずだよね。

あとは、○○が起きるのを待つ……だけ……

あんまり……寝れてない……し、朝も早……かった……から。

眠……

「……い」
「ん……」

「起……ろ……」
「あと五分……」

「何言ってんだ、早く起きろよ」
「……あれ、寝てた!?」

ハッとして、跳び起きる。

寝たふりのつもりがいつのまにか寝ちゃってた!?

「私、どのくらい寝てた……?」
「知らん。でも、俺が起きてから十分くらいは寝てたぞ」

「遅刻しちゃう!」
「だから走るぞ」

もう!結局こうなっちゃうんだから……

目覚めた○○にかわいく「おはよ」って言うつもりだったのに。

作戦は失敗。

○○は涼しい顔して着替えてたし、今も少し前を走ってるし。

でも、私はまだまだ諦めない。

今日はもう一つ作戦があるんだから。


チャイムが鳴るなり、みんな席を立ち始める。

お昼の購買戦争の始まり。

○○はいつも購買でご飯を買っているから、財布を取り出して人の流れに乗ろうとしている。

「ねえ、○○」
「何、これから購買行くんだけど」

「今日さ、○○にお弁当作ってきたの」

名付けて、『掴むのは胃袋から作戦』

「……まあ、いいけど」
「やったぁ!どこで食べよっか!」

「別に教室でいいじゃん」
「だーめ!そうだなぁ……屋上とかどう?今日天気いいし!」

「…………」

すっごい不服そうな目で私のことを睨む○○。

首をひねって悩んでる。

「まあ……いいよ……」
「行こ行こ!」

私は強引に○○の腕を引っ張って階段を駆け上がる。

屋上の扉を開くと、そよ風が私たちの吹き抜けて、髪をなびかせる。

「きもちー!」
「腹減った」

屋上の端っこに座り込んだ○○。

そんなに楽しみなのかぁ。

「今日はね、ハンバーグ入れてきたんだ。○○、ハンバーグ好きでしょ?」
「うん」

○○に片方のお弁当箱を渡す。

包みを解いて、○○は蓋を開くと目を輝かせる。

「食っていい?」
「どうぞ」

丁寧に手を合わせてから、○○が小さめの、お弁当サイズのハンバーグに箸を入れる。

普段、あんまり料理しないから上手くできたか心配だけど。

「うん、美味い」
「ほんとに!」

「マジで美味いよ。美空、そんなに料理しないのに」

よかった……

失敗した甲斐もあったかな……

目頭がジーンとする。

なんか、泣きそう。

さらに何か言われたら本当に泣いちゃうかも。

「作ってきてくれて、ありがとな」

とか、思っていた矢先に○○はそんなことを言い出す。

私の気持ちをわかってるんだか、わかってないんだか。

「グス……」
「ちょ、何で泣いてんの!?」

「な、泣いてないもん!」

急にお礼なんて言われたら泣くに決まってるじゃん……

「ゆ、ゆっくり食べてね!」

私は本当に涙が零れそうになって、慌てて屋上から逃げ出す。

ぽかんと口を開けた○○を一人残して。

作戦は……成功って言ってもいいのかな?


「○○、一緒にか~えろ!」
「......ん。昼飯の借りもあるし」

「またまた~。何にもない日はいつも一緒に帰ってくれるくせに~」

時間が経って冷静になった私は、以上にテンションが高くなっていた。

○○の前で泣きそうになった恥ずかしさなんて関係なし。

○○が美味しいって言ってくれた嬉しさの方が全然上!

「うっせ。早く帰るよ」

そそくさと下駄箱に向かって歩いていってしまう○○の隣に慌てて並ぶ。

今が押し時だもん。

チャンスを逃すわけには行かない。

下駄箱に着いて、靴を履き替えようとすると、一枚の手紙が落ちてきた。

「なんか落ちたぞ」
「手紙……かな?」

差出人は不明。

中身は……

「伝えたいことがあるので、放課後体育館裏に来てください……だって。なんだろ」
「……行くの?」

「うん。大事な話っぽいし」
「…………そ。じゃあ、先……帰ってるわ」

小さなため息を一つついて、○○は帰ってしまった。

待っててくれてもいいのに。

私は少しだけ不服に思いながら指定の場所に行ってみた。

「あ、来てくれたんだ」

そこにいたのは別のクラスの男の子。

奉仕活動とかで一緒だったっけ?

確か部活はバレー部で、結構人気だったはず。

「うん。伝えたいことって、なに?」

その男の子は、うんうんと自分に何かを言い聞かせるようにうなずいてから、口を開く。

「あの、一ノ瀬さんのことが好きです。俺と、付き合ってください」

告白された。

頭が一瞬真っ白になった。

彼、すごい緊張した顔してる。

きっといっぱい考えてくれたんだと思う。

だけど、私は。

「……ごめんね。私、好きな人がいるんだ」
「…………そっか。急に呼び出して、ごめん」

彼が去って、私は少しだけ悪いことをしちゃったかなとか思った。

でも、すぐにそれはお門違いだって考え直した。

断ったなら私の方もちゃんと勇気ださないと。

勇気をくれて、ありがとう。


目が覚めて、一番に私は気合を入れるために自分で頬を叩いた。

決めたんだ。

今日こそ、○○に告白するって。

回りくどい作戦とかはもうどうでもいいから、素直に気持ちを伝えるって。

私はいつものように○○を起こす。

でも、いつもよりドキドキしてる。

多分、意識しすぎてる。

「……はよ」
「あ、おはよう。すぐ出てくから早く着替えて来てね!」

私は○○の部屋から飛び出す。

バクバク心臓が鳴ってる。

まともに○○の方見れない……


終業のチャイムが学校中に鳴り響く。

私はと言うと……

「ね、ねえ。一緒に帰ろ?」
「え、ああ……まあ、いいけど」

まだ伝えられてない。

このびびり!って自分を叱りたいくらい。

実際はそれすらもできてない。

隣を歩く○○の顔すらまともに見れないくらいびびってるのは事実なのに。

「……なあ」
「な、なに!?」

無言の帰り道。

急に立ち止まって、話しかけてきた○○。

私は声が上ずる。

「俺と帰ってていいの?」
「なんで?」

「だって、昨日告られたんだろ?……その、彼氏……できたんじゃないのかなって」
「え……?ああ、あれは断ったよ」

「……!ふ~ん……そっかそっか」

○○はまた歩き出す。

「待って!」

その○○の背中に言葉を投げる。

「なに?」
「なんで、私が告白断ったと思う?」

「……さあ、わからん」

一回、大きく息を吸って。

もうどうせ、ここまで言ったら引き返せないんだから。

「私、○○のことが好きだから!」
「…………」

「好きだから、断ったの」

目を見開いて、真っすぐこちらを見ている○○。

心臓が飛び出そう。

今にもここから逃げ出したい。

でも、だめ。

答えは、どっち?

「まじか……ごめん」

やっぱ、ダメか……

「だよ、ね。ダメ……」
「ちょっと、嬉しすぎて言葉出ないわ」

「え、それって」
「……俺でよければ、その……付き合って、欲しい」

「もちろん!」

私は、思わず○○に抱き着いていた。

で、泣いた。

涙が一旦止まるまで、私は○○の胸に顔をうずめた。

ひとしきり泣き終わって、私たちは手を繋ぎながらまた帰り道を歩き出す。

「でも、今までずっと私に冷たくしてたじゃん」
「いや、それは……照れ隠しっていうか、なんというか。髪を少しだけ切ってたのも気が付いてたし、あん時だってカラオケより美空と帰りたかった。朝、隣で寝てた時も……待って、これくっそ恥ずい」

耳まで真っ赤にした○○は顔を背けてしまう。

もう、最後まで聞かせてくれればいいのに。

照れ屋なんだから。

「まあ、その……これからも毎朝起こしてくれると助かる」
「それってプロポーズ?」

「ち、ちげーし!」

雲一つなく、果てまで染まったオレンジの空。

私の顔がすっごい熱いのは、きっと夕日のせい。


「はい、起きて!」

私は、いつもと変わらず○○を起こす。

だけど、いつもと違うのは私たちが付き合ってるってこと!

「やだ。今日は一限休む」

そう言って布団をかぶりなおす○○。

しょうがないなぁ。

私は布団を引きはがして、○○の頬にそっと唇を当てる。

「うわっ!?」

飛び起きて頬に手を当てる○○。

「はい、準備!遅刻しちゃうよ!」

○○の着替えのために部屋を出て、大胆なことをしてしまった代償として心臓が大きな音をたてる。

「準備おっけ。早く行こう」

家を出るなり、私たちは手を固くつなぐ。

幸せだ~。

もうこの手、離さないからね!

私がそう思って握る手に力を籠めると、心なしか○○も握り返してくれたような気がした。


……fin


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