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『あおはるっ!』 第4話

瑛・あ、今撮った?

清閑な校舎裏に響いたシャッター音は、先輩の耳にすぐに届いてしまう。

ごまかす間もなく、こちらに近づいてくる。

瑛・見せて

池田先輩は、俺の持つカメラを見ながらそう言った。

薺・あ、いえ。そんな、見せるほどのものでも……
瑛・隙あり!

俺が手を緩めた瞬間、カメラのネックストラップが首から抜かれる。

瑛・すごい!綺麗に撮れてるね
薺・そう、っすかね……

瑛・うん、私が私じゃないみたいに綺麗

そんなことないですよ。

薺・ありがとう、ございます

それは、照れくさくて言えなかった。

瑛・薺くん、才能あるよ!

被写体がいいからです。

薺・被写体が素晴らしいからですよ……あ
瑛・嬉しいこと言ってくれるね~

池田先輩が、俺の脇腹をこずく。

先輩は、不思議な人だ。

言うつもりなんて無かったのに、引き出されたというか、何というか。

言ってしまったというか、思わず口を突いて出たというか。

まあ、間違ったことを言っているわけではないからいいのだけど。


〇・あ、先輩。お疲れ様です

空き教室を開けると、いつものように本を開いているアルノ先輩の姿。

ア・お疲れ、○○くん。これ、貸してくれた本
〇・ありがとうございます。これ、先輩の方のです

お互い、本を返し合う。

〇・先輩が貸してくれた本、めっちゃ面白かったです。すっごい泣きました

俺は、捲くし立てるように感想を並べる。

〇・でも、先輩もあんな感じの本読むんだなって、新鮮でした
ア・○○くんにもハマってくれたんだったらよかった

満足げに微笑むアルノ先輩。

クールに見えるけど、こういう表情をしていた方がらしいと言うか、可愛いと言うか。

ア・○○くんの貸してくれたSF小説も面白かったよ。○○くんらしいなって思った

次は、アルノ先輩の番。

この一年弱、何度も繰り返しているが、自分の勧めた小説を褒め貰えるのはなぜか嬉しい。
鼻が高くなる。

携帯に一通のメッセージ。

咲・『一緒に帰らない?』

続けてメッセージ。

咲・『部活中なら別にいいんだけど』

『すぐ行く』

一言返信して。

〇・俺、今日は帰りますね

鞄を持つ。


目の前の彼は、震えたスマホを取り出して、映し出された画面に微笑んだ。

そして、ポケットにしまい鞄を肩にかける。

〇・俺、今日は帰りますね

ああ、きっと。

ア・咲月ちゃんから?

彼の幼馴染。私も何度か話したことがある。

〇・正解です。あいつ、ああ見えて少し寂しがりなとこあるんですよ

困っちゃいますよと笑う彼。

ア・じゃあ、早くいってあげな

引き留められない私。

〇・また、すぐに本持ってきますね

彼は、颯爽と教室を飛び出した。

さっきまで二人しかいないのに賑やかだった教室は閑散としてしまう。

そして、彼の足音が聞こえなくなってから、

ア・私はどう見えていて、寂しがり屋じゃないと思ってるのかなぁ

もう少し、一緒にいたいな。

意気地のない私を、殻で覆い隠すように本に目を落とした。


〇・お待たせ

校門の外。咲月は片足を前後にぶらぶらとさせながら立っていた。

咲・あ、来た。遅い
〇・五分も経ってませんけど

咲・それでも!
〇・そうですか

スクールバッグで背中のあたりを小突かれる。

〇・そういや、薺は?連絡しなかったん?
咲・例の先輩と一緒に帰るって

〇・ふーん

あいつ、やるじゃん。
なんか、先越された気分。

〇・で、一人でしたと
咲・〇〇がいるから一人じゃないし……

そう言って、咲月は少し視線を落とす。

なんだ、急にしおらしくなって。
普段、俺や薺に対して当たり強めなことも多いからか、こういう何気ない瞬間があると少しだけ胸がざわつく。

〇・か、感謝しろよ

俺もなんだか恥ずかしくなってしまい、いつもよりもぶっきらぼうな言い方になってしまう。

少しの沈黙。

からかうような、カラスの鳴き声。

ほら、咲月が変なこと言うから気まずくなんじゃん!

どうしたものかと頭を悩ませる。


あーもう、私のバカ!

変なこと言ったせいで気まずい…

何か話さないと!

何か話さないと!

何か!

何かない?

周りを見渡してみても、いつもと変わらない日常の風景。

咲・ね、ねえ!

あ、声少し大きくなっちゃった。

〇・おお、どうした

ほら、びっくりさせちゃった。

咲・あー……

ノープラン。

咲・ちょっとだけ、回り道して帰らない?

だけど、この時間を少しでも長く!


〇・うわぁ、この河川敷懐かし!

ちょっとだけ遠回りをした私たちは、川沿いの道を歩いていた。

咲・中学時代、○○と薺の息が合わなくて大げんかしたり
〇・おい

咲・五歳くらいの時は深いところまで行って溺れかけたっけ?
〇・変なことばっか思い出すなよ!

大切な思い出の詰まった河川敷。

〇・お前だって、足滑らせて落っこちて教科書びちょびちょにしてたじゃんかよ
咲・あー!言わないで!

くだらない思い出を引き合いに、お互いを煽り合う。

なんか、○○と二人きりって久しぶりかも。

そんなこんなで橋の直前に差し掛かったあたり。

〇・ねえ、なんか泣き声みたいなの聞こえない?

○○に言われて、私は耳を澄ます。

橋の下から微かに聞こえる声。

咲・お、おばけ……?
〇・誰かが困ってるのかも

多分、この後○○は、

〇・行ってみよう!

ほら、言うと思った。

坂を駆け降りる○○の後に続いて、私も転ばないように慎重に下った。


橋の下から、女の子のすすり泣く様な声。

誰かが困ってるなら。

もし、自分にできることがあるなら。

〇・あの、大丈夫……

しかし、その声の主は思いがけない人物。

彩・つ、椿木先輩……?
〇・小川!?

橋の下で、膝を抱えて座り込んだ小川の姿。

咲・ちょっと、○○はやいって……
彩・咲月さんまで……

咲・彩?

〇・二人って面識あるんだな
咲・うん、試合の応援とか行ってたから……って、それどころじゃないでしょ

咲・彩、何でこんなところで泣いてたの?
彩・私、何も知らなくて……

咲・うん

咲月が、小川の目線に合わせて屈む。

彩・先輩たちのこと、何も知らなかったのに……昨日……
咲・うん

彩・何で野球部に入ってないのか聞いちゃって……
〇・ああ、そんなことか……

俺も、片膝を着いて目線を合わせる。

〇・別に薺も怒ってないよ。多分、気にしてすらないと思うよ
咲・そうだよ、こんな二人のために彩が泣くことないよ

〇・おい、それは語弊があるだろ

咲・だからさ、こんなところで泣いてないで

咲月が小川の手を引いて、立ち上がらせる。

咲・一緒に帰ろ。二人への文句、いっぱい言いながら

咲月の笑顔に引っ張られるように、

彩・はい、そうですね

小川の顔にも、笑顔が戻った。


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