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『あおはるっ!』 第13話

咲・お、終わった……
薺・長い闘いだった……


学期末までもう少し。

今日はテスト最終日。


和・○○くんはどうだった?
○・多分、あんまりだと思う……


ここ最近、部活に遊びにと勉強なんかそっちのけの生活をしていたせいで、手ごたえはあまりよくない。

しかし、そんなことどうでもいいと思える理由が一つ。


咲・でも、来週からはあれじゃん?
薺・あれだな

和・修学旅行!


高校生活の花形行事、修学旅行。

行くのは夏の沖縄。


和・班も決まってるから安心だよ~

班決めももうバッチリ決めてある。

四人班で、メンバーはもちろんこの四人。


薺・確かに!○○が一緒なら安心だわ~
〇・介護はしないぞ

薺・してよ
〇・しないって

和・息ぴったり
咲・だね~


修学旅行まであと一週間もない。

準備、早くしないと。




・・・




ア・○○くん、テスト……
〇・うっ……

ア・そんなに良くなかったんだね……和は……
和・あ〜......聞かない方がいいかも?


アルノ先輩は、僕らの反応を見て頭を抱える。


ア・このままじゃ安心して卒業できないなぁ
〇・勉強、ガンバリマス……


アルノ先輩はめちゃめちゃ笑ってる。

実はそんなに心配してないんじゃんか。


ア・でも、来週からは修学旅行でしょ?
和・うん!すっごい楽しみ!

〇・でも、その間部活はどうするんですか?
ア・それなら大丈夫。もう鈴谷くんとは話してあるから


話してあるって、何を?

薺だって修学旅行でいなくなるんだから話しても意味ないんじゃ。

とかなんとか考えていると、勢いよく教室のドアが開く。


薺・どんな話をって思ったかい?
〇・もうちょっと静かに入ってこれないの?

薺・愚問だな

くだらないことを言っている薺の背後から、小川がおずおずと姿を見せる。


〇・あれ、小川?なんでここに?
彩・先輩に急に言われて……

〇・なんか嫌な予感するな
彩・はい……

ア・やだなぁ。そんな変なこと考えてないって

薺・そうだぞ、俺だってちゃんと考えてるんだから。小川は写真部だから、もっと写真の腕を磨かなければならない。そこで、先輩に被写体になっていただこうという提案をしたのだ!


くだらないと一蹴する気でいたが、意外にもきちんとした提案だった。


ア・まあ、後輩の力になるのも先輩の役目だしね


胸を張ってそう言いきったアルノ先輩。

こっちはなんとなく下心ありそう。

初めて会ったときから、アルノ先輩は小川にぞっこんみたいだったから。


ア・だから、安心して修学旅行に行ってきて
彩・少しだけ、私の心配もしておいて貰えると助かります

〇・あはは……そうしとく




・・・




澄んだ青を反射しながら、旅客機は空を進む。


和・すごい......!海綺麗だね~!
薺・あ……もう海見えた……?


窓の外に映る海にテンションが普段の三割増しになっている和。

その声に、薺が目を覚ました。


薺・着いたら……何すんの?
〇・点呼だった気がする

薺・自由行動は?
〇・三日目。今日はちゃんと勉強の日だからな

薺・ん……
咲・あ、また寝た


しかし……


和・ねえ、見てよ○○くん!海凄いよ!


興奮する和に肩を叩かれて、腕を引っ張られ、物理的な距離を縮められる。

ふわっと髪が揺れ、シャンプーのいい匂いが香る。


〇・ほんとだ……

でも、そんなことも忘れてしまうくらいに海は青く、吸い込まれるほど深かった。


和・楽しみだね、修学旅行!
〇・そうだね


高校生活で一番の行事。

絶対、いい思い出にしないと。




・・・




一日目は全体行動。

修学旅行の『修学』部分。

高校生にはちょっとだけ難しい話もして、僕らの頭はパンク寸前。


薺・○○、明日の予定は~?


現在は、夕食も終えてホテルのベッドに寝転がってる真っ最中。


〇・明日も似たようなもんだよ。平和祈念公園で班別ってだけで
薺・早く水族館行きて~

〇・明後日まで待ってなさい
薺・はーい


二日目もしっかり『修学』旅行を楽しんで、明日からは修学『旅行』。




・・・




咲・わぁ……ここが美ら海水族館!
〇・楽しみだな。来るの初めてだし


三日目。

ようやく待ちに待った班別の自由行動。

とはいっても水族館の敷地からは出ちゃいけないんだけど。


和・はやく行こう!
〇・うん


ジンベイザメのモニュメントと、サンゴの海を模した水槽が俺達を迎える。

いざ、大海へ!

と、思わせるようだ。

最初はサンゴ礁。

そして、一つ階を下りれば目玉の……


和・おっきい……
〇・すっげぇ……


思わず言葉が詰まってしまうほどに雄大に泳ぐジンベイザメ。

沢山の魚たちが泳ぐ中、一際目を引く大きさだった。




・・・




なんか、二人の距離近いなぁ……

ジンベイザメなんかより、そっちの方が気になる。


薺・なんか、物憂げだねぇ
咲・別に、そんなんじゃないけど……

薺・修学旅行なのに、○○と全然一緒に居られてないなぁ~……とか思ってたりするでしょ
咲・なんで当たるかなぁ……


薺の言ってることはドンピシャ大正解。

メトロノームみたいに、あっちこっち気持ちが触れて、本当に嫌になっちゃう。


薺・まあ、今日は和に軍配が上がってるけどさ、明日はわからないよ。思い切って二人きりで国際通り回らない?って誘ってみなよ

咲・うぅ……できるかなぁ……


ほんと、変なところで弱気になっちゃうんだから……





・・・




〇・アクアルームってところ行ってみない?
和・いいね、行こう行こう!


移動した先。

ドームみたいな場所。

そこは、水槽の前とは一風変わって本当に海の中にいるみたいな感覚だった。


和・こっち来て。ジンベイザメ、すごい良く見えるから


言われるがまま、招かれるまま俺は和の隣に座る。

和が上を指さす。

見上げてみると、僕らの頭の上を気持ちよさそうに魚たちが飛び回っていた。


〇・海底王国に来たみたいだね
和・確かに!海の中で生活してたらこんな景色を見てるのかな

〇・泳いでる魚たちに聞いてみないとね


和は、興味津々に魚たちを見つめている。

このままでは、本当に魚に聞きかねないと思うほど。


咲・ねえ、そろそろ移動しない?
薺・二人の世界に入りすぎな

〇・あ、ごめん……
咲・ほんとだよ……


つかつかとこっちに歩み寄り、咲月はシャツの裾をきゅっと握る。

深い、飲み込むような青で顔はよく見えなかった。

だけど、きっと怒ってるんだろうなって思うほどに強く裾は引っ張られていた。




・・・




あの四人のいない文芸部の部室。

彩と二人の文芸部の部室。

彩・先輩たち、修学旅行楽しんでますかね?
ア・きっとすっごい楽しんでると思うよ。今は……水族館とかかな

彩・わー、楽しそー
ア・でも、私たちも楽しんでるじゃん

彩・それって、アルノ先輩だけじゃないですかね?


抱き着く私を彩は引きはがそうとしてくる。


ア・だって、こんなにかわいいのに離せないよ~
彩・でも、これじゃ鈴谷先輩に出された課題ができないです

ア・あぁ……そっか……じゃあ、課題を終わらせたらまた
彩・嫌です!

私が話した途端に一気に距離を取る彩。

反抗期かな……


彩・じゃあ、撮るので本読む感じでお願いします
ア・はーい。こんな感じでいい?

彩・はい……

響くシャッター音……は、ない。

その代わりに、鈍い音が教室を支配する。


ア・あ、え……?


彩……?


ア・彩……彩……?


教室の床。

うつ伏せに倒れた彩の姿。


ア・むやみに動かすのは……でも、どうしたら……とりあえず救急車……!


頭が働かない。

視界が狭い。

冷や汗が止まらない。

私は一体、どうしたらいい?




・・・




〇・今日は楽しかったな~
和・うん。明日も楽しみ


ホテルの前。

修学旅行は明日で終わり。

言わなきゃ。

○○に言わなきゃ。


〇・じゃあ、俺は飲み物買ってから行くから。薺も、先に部屋戻ってていいよ
薺・…………


薺、すごい見てるし。


和・じゃあね~
薺・じゃあ先、戻るわ

二人が居なくなって、ホテルのエントランスには私と○○の二人だけ。

スマホが震える。

薺からのメッセージ。

『どう?いけた?』

いけてない。

だけど、私のスマホの通知音に○○は気が付いたみたい。


〇・あれ、咲月いたんだ。帰ったと思って……あ、水でも奢ってほしいんだろ?

いつもみたいな軽口。


咲・そうじゃ……ないんだ

勢いに任せて、言っちゃえ。


咲・明日の国際通りの班別行動、私と一緒に……二人で回ってくれない?
〇・えっ……

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