『あおはるっ!』 第14話
〇・えっと……別に同じ班だから、薺と和も含めた四人で回れば良くない?
咲・そんなこと、わかってるよ。わかった上で、○○と二人で回りたいって言ってるの
〇・そっか。あー……うん、いいよ。薺にはこの後伝えておく
咲・ありがと。じゃあ、また明日
手を振って、咲月は階段を駆け上がる。
笑顔で、髪を靡かせながら。
・・・
薺・遅かったね
ホテルの部屋、薺は窓の外に広がる海を見ていた。
〇・うん。まあ、ちょっとね
薺・咲月に、何か言われた?
〇・……うん。明日の国際通りの班別行動、二人で回ろうって
薺・で、なんて返事したの?
〇・特に断る理由もないし、いいよって返事した
薺・本当は和と二人で回りたかったんじゃないの?
そんな気持ちが全く無いわけじゃない。
無い訳じゃないんだけど。
〇・誘ってくれたのは咲月だし、そんなこと思うのは不誠実だ
薺・うん、○○らしいね。和は任せといてよ。変な虫が寄り付かないようにしておくから
〇・お前が変な虫になりそうだな
薺・失礼な
・・・
〇・で、どうする?
咲・何にも考えてないけど
薺と和は快く別行動を承諾してくれた。
そのおかげで俺達は二人で行動できることになったのだが。
〇・何にもか……まあ、俺達らしくていいのかもな
咲・あ、私沖縄そば食べたい!
〇・調べるから待ってて
咲・流石○○、優しいね~
〇・うるせ
沖縄そばにタコス、アイスクリームにサーターアンダギー。
お腹がパンパンになるまで食べまわって。
お土産も、鞄がパンパンになるくらい買って。
いつもとは違う場所。
いつもとは違う状況。
いつもと変わらない話をして。
いつもと同じように笑い合って。
咲・もう少しで集合時間じゃない?
〇・でも、まだ時間あるんだよなぁ……
残り時間は四十分くらい。
戻るには時間が早い。
〇・二人と合流する?
咲・あ、あのさ……海……行きたいんだけど……
〇・海……?
咲・ちょっと遠いんだけどね……
〇・じゃあ、行くか。タクシーとか捕まえれば何とかなるだろ
咲・あ、え?
俺は、咲月の手を取って通りを出る。
幸い、タクシーはすぐに見つかった。
〇・えっと、行先は……
咲・波の上ビーチまでお願いします
心地いいタクシーの揺れ。
車内は特に会話は無い。
さっきまではちゃんと話してたのに。
咲・…………
咲月は、じっと手を膝の上に乗せたまま下を向いている。
沈黙。
だけど、不思議と気まずさはない。
付き合ってきた年月がそう思わせるんだろうけど。
タクシーの運転手さんと何気ない会話をしていたら、ものの五分くらいで到着した。
・・・
咲・ごめんね、タクシー代だして貰って……
〇・いいよ、これくらい。出したうちに入んないから。それより……
眼前に広がる透明な海。
五分かそこらで行ける場所でこの透明度は流石沖縄と言ったところか。
咲・ん~……!きもち~!
磯の匂いが鼻をくすぐり、優しい風が肌を撫でる。
〇・海なんて全員での行動の時も行ったじゃんって思ったけど、こういう二人でのんびりって言うのもいいな
波止に腰を下ろす。
潮騒を聞きながら。
のんびりと。
咲・もう少し近く行ってみない?
〇・だな
波打ち際。
並んで歩く。
咲・…………
〇・…………
咲・…………ねえ
〇・ん?
咲・私、○○の……
この、のんびりとした時間を壊すように。
咲月の言葉を遮るように。
俺の携帯の着信音がけたたましくビーチに鳴り響く。
かけて来てるのは……薺?
〇・もしもし
薺・《もしもし、じゃないよ。集合時間、過ぎてるんですけど?》
〇・え……あ、ほんとだ……すぐ戻る!
薺からの着信を切って、咲月の手を取る。
〇・時間やばいから、走るぞ!
咲・あ、ちょっと……!
夏の暑さを切り裂いて。
潮騒も、磯の匂いも置き去りにして。
俺達は走った。
結局、班別行動なのに別々に行動していて、なおかつ集合時間に遅刻したことがばれてこっぴどく叱られたけど。
それでも。
咲・楽しかった。ありがとう
そう言った咲月の笑顔を見れただけでも、最終日は大満足かな。
・・・
薺・あぁ……まだ沖縄にいたい……
咲・もうちょっとで夏休みなんだから、だらしないこと言わないの
和・そうだよ。○○くんだって……
〇・学校行きたくない……
振替休日も明けて、少しだけ久しぶりの登校日。
修学旅行の楽しさからの反動は中々に大きく、学校行きたくない症候群発祥中。
和・でも、がんばろ!久々に部活も出来るんだし!
にかっと笑う和。
単純。
本当に単純。
〇・うん、がんばる
そんなたった一つの事柄でこんなにもやる気に満ち溢れてくる。
・・・
〇・あ、先輩。早いですね
怠い授業を何とか乗り越えた放課後。
空き教室に行くと、もうすでにアルノ先輩が来ていた。
ア・あ、うん……
先輩は一瞬、読んでいた本から顔を上げたが、すぐに視線を落としてしまう。
和・なんか、元気ない……?
〇・確かに。何かあったんですか?
ア・う、ううん。何も……無いけど……
先輩は、一向に本から視線を外さない。
薺・失礼しまーす
教室の扉が開き、薺と咲月が入ってくる。
一人、少ない。
薺・小川、来てないかなって思ったけど……いないっぽいな
咲・今日、休んでるんじゃない?
薺・だったら、何かしら連絡あってもとは思うんだけどなぁ……
ア・…………
確かに、何の連絡もなしにというのは少し心配だ。
和・お見舞いとか行く?
咲・確かに、いいね
ア・………….っ!
アルノ先輩は、唇を噛みしめて窓の外を見る。
何か、知ってる?
〇・先輩、何か知ってたりしますか?
ア・……彩は、今……入院してるよ
・・・
〇・はぁ……はぁ……小川、大丈夫か?
さほど遠くない大学病院。
小川がそこに入院してると先輩から聞いて、俺達は急いで学校を飛び出した。
彩・え、先輩たち……なんで……
〇・倒れたって本当?
彩・はい……アルノ先輩、話しちゃったんだ……
〇・うん……聞いた
ぎゅっと、布団を握りしめる小川。
無駄な心配を掛けたりしたくなかったんだと思う。
ましてや、自分たちが修学旅行に行ってる間に倒れましたなんて。
彩・私は、大丈夫なので……皆さん、遅くならないうちに帰った方が……
薺・ああ、そうする。そのうえで、今度またお見舞いに来るよ
彩・はい、そうしてください!
笑顔。
どこか、痛く、苦しい笑顔。
咲月、和、薺と病室を出る。
俺もそれに続こうと思った時。
彩・あ、あの、○○先輩……!
〇・どうした?
彩・先輩だけ、少し残って貰えませんか?
薺に目配せ。
グッと親指を立てたから、多分何かしら通じたんだと思う。
〇・何か、用事でもあった?
俺は、病室に置かれていた椅子をベッドの傍らに寄せて腰を下ろす。
彩・先輩は、覚えていませんか?
〇・…………何を?
彩・懐かしく思いませんか?
〇・懐かしく……?
彩・この病院で、昔会ったことあるって言ったら……そう言ったら、思い出してくれますか?
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