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音楽の贈り物【ピアノ編】
私は、その美しい曲が流れるほうに行ってみた。そこには一台の大きなグランドピアノがあって、小学生くらいの女の子が弾いていた。こんな小さな子が弾けるのかというような難しい曲を、感情を込めて体を縦に横に動かせながら弾いていた。『すごいね、ピアノ習っているの?』遠くから聞いてみても反応がない。今度は近くに寄って同じように聞いてみた。それでも反応がない。今度は耳元で大声でさけんでみた。それでもかまわず弾き続けるものだから、私は、ついに頭にきて、女の子の弾いているピアノの鍵盤を思いっきり両手でたたいた。すると、やっとその女の子も気づいたらしく、なんで、というような目で睨んできた。なので、こっちも、そっちが無視したからじゃんという目で睨み返すと、今度は泣きそうな目で女の子の耳と口を指しては✕印を繰り返していた。私は、その女の子が耳が聞こえないために口がきけないんだとわかると、今までの行動を反省して、しばらく下を向いていた。何か話しかけたところで何も伝わらないし、他にコミュニケーションのとり方なんて知らないし。すると、女の子がいきなりピアノを弾き出した。とても楽しく軽やかな曲で、『そんなに落ち込まないで、仲良くしようよ』と言っているように思えて、自然に笑顔になった。真っ暗だった心が明るくなって、ママに教えてもらった手話を思い出した。