水深1000mまで迎えに来て / Carpe diem
多分、病んでいたのだと思う。その先が全く見えなかった。
どうしても息ができなくて、足が動かなくて、圧力で心臓は小さくなった。体も冷たくて、暗いし何も見えない、誰も声も聞こえない、鼓動がうるさくて、この世に自分しかいないように感じて気が狂いそう。
深海に沈んでいく。足を動かそうともしたくない、浮かび上がって光を探そうという意思ももう無くなってた。あーもうこのまま消えていくのだわ、と思っていたのに、自分の存在だけが嫌になる程感じられる。自分を感じたくないのに自分だけがそこに居る感じ。
水深200m以下は、地上の光の約0.1%しか差し込まない、1000mになると暗闇だという。
そんな音も光もない世界にあなたは迎えにきた。人間の体温を手に感じた。気づいたらゆっくりと浮上して何だか光が見え始める。魚が見えて、水の流れが見えてきた。しん、とした所からポコポコと空気と水が混ざる音、そして自分が海からざばっと上がる音。風が当たる、凪だ。柔らかいオレンジの夕日を久しぶりに見た。夕日が暖かいことと繋がれている手の温度で、自分の体が冷えていることに気づく。久しぶりに胸いっぱいまで空気を吸って、吐いた。酸素が体を脳を走り、思考を始めようとする。また生きる。
そんな感覚。疲れて、自分を探して、見えなくなった時。そんなことそーだっていいよ、答えなどない、それより君は今生きているということを感じれているかい?と教えてくれたのが私のパートナー。
自分の人生に本質的な意味など無いし、どうせどんな答えを他者によって出されても納得しないんだろう。だから、あなたと生きているということ、逆に、それを感じていれさえすれば私は生きている、そう思うようにした。明日なくなるかも知れないこの生の感覚を、今日も感じていれたことに感謝して、そんな一日一日を重ねていくだけ。
たとえこの先、私たちにどんな泥沼離婚の結末が待っていようとも、私を迎えにきてくれたこととあなたといる1日の重なりたちに感謝して、今日を生きる。