2021年 小学生部門 優秀賞・ニャーロウ賞
◎優秀賞 中込 恵楠さん(小5)
読んだ本――『ぼくのつくった魔法のくすり』 ロアルド・ダール作 宮下嶺夫訳 評論社
【作品】
「ぼくの願うくすり」
「いいきみだ!」
ジョージの作った薬を飲んで、ひょろひょろと二階建ての家よりも背が高くなったジョージのおばあさんは、家に入ることができなくなった。しかたなく、ねずみたちといっしょに干し草置き場でねることになったグランマのことを、ぼくはそう思った。
この本の作者はロアルド・ダールだ。以前、『こちらゆかいな窓ふき会社』を読んだ。それは、とても想像をふくらませ、楽しくさせてくれる話だった。だから、『ぼくのつくった魔法のくすり』は飲めば何でも願いがかなう薬だと想像して、読みたくなったのだ。
主人公は八才のジョージとそのおばあさんのグランマ。グランマはいつも、文句やわがままばかりジョージに言っている人。ぼくは、楽しい話を想像していたのに、ジョージのことがかわいそうになり、グランマが憎らしく思えてきた。そしてぼくは、数年前にある生徒が、先生をこまらせたり、友達にどろだんごを投げていやがらせをしていたことを思いだした。そのことが今でもはっきりと目にやきついている。人をこまらせて平気でいる人や喜んでいる人がいるなんていやだ。その時の気持ちが重なって、ぼくもグランマをこらしめられる薬を作ろうと思ったほどだ。
この本を読んだ後、ぼくの気持ちにはもやもやが残った。最後にグランマが消えていなくなって良かったと思う気持ちとこれはやりすぎだと思う気持ちがぶつかっていたから。初めは、グランマのことが憎らしく感じていたのに。それから、「パパ」はちっとも悲しくなっていない。「ママ」はしばらくするとおちついた。
でも、ジョージはどう考えればいいか分からずふるえるような気分だった、と書いてある。すると、この本を読んだあとのぼくの気持ちとジョージの気持ちは近いのではないか。「くすりって人間をよくするはずのものだ」とジョージは考えている。
ぼくも考えてみた。
グランマに飲ませる一番いい魔法のくすりってどんなものだろう。
もしぼくがナンバー5の薬を作るとしたら、グランマが一言も文句が言えない薬を作ろうか。それとも、誰からも好かれるような別の人に生まれかわる薬を作ろうか。でも、グランマはよろこぶだろうか。ぼくもうれしいかな。
いろいろ考えてみるけれども、やはりぼくの心の中はもやもやしたままだ。
ジョージの考える「魔法の薬」って作れるものだったのかな。自分の思い通りの薬は作れないのかな。
だったら誰もが喜ぶ「飲めば何でも願いがかなうくすり」が作れればいいのに。
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◎優秀賞 杉本 善々さん(小4)
読んだ本――『八つの犯罪』 ルブラン作 南洋一郎訳 ポプラ社
【作品】
「怪盗ルパン『八つの犯罪』を読んで」
母がぼくと同じ年の頃、怪盗ルパン全集にハマッたと聞きました。さっそく同じシリーズの「怪盗対名探偵」を読んでみたら面白かったので、今回は「八つの犯罪」を選びました。
表紙の絵を見た印象は、ルパンの髪型や服装が格好良いなということです。また、他の話にも若いきれいな女性が登場するのですが、今回の表紙にも居たので、ルパンは美少女が好きなのかなと思いました。それから、タイトルからは、「ルパンが八つも事件を起こすのか」というイメージを持ちました。
実際読んでみると、この本ではレニーヌ公爵と名乗っているルパンが、両親を亡くしてつらい目にあっていた美少女オルタンスを助手にして、八つの難事件を解決する話でした。
まずレニーヌ公爵として美少女オルタンスと出会い、①古塔で白骨を見つけてその犯人をこらしめる話、②無実の人が死刑になりかけたけれど、真犯人を見つけてその死刑を止めさせる話、③密室殺人を解決する話、④映画スターの秘密の恋を助ける話、⑤実の母が二人いる男の話、⑥頭文字Hの美少女を狙う殺人魔女の話、⑦父と息子の保険金さぎの話、⑧オルタンスのお母さんの形見を取り返す話、以上八つの物語でした。
ぼくが感動したのは、最後の事件です。一番目の事件の時に、ルパンと美少女は約束しました。古塔の大時計が三ヶ月後の同じ時刻に鳴るまでに、二人で残り七つの冒険をしようと決めたのです。
八つ目の話では、オルタンスが一番ほしかった物、母から受けついだ宝石の付いたコルサージュを見事に取り戻しました。それと同時に大時計が鳴ったのです。約束を守った格好良さにしびれました。目的を果たすために自分の乳母を変装させていたと判る場面では、優しさを感じました。
ルパンは、どれだけピンチでもあわてず、いつも冷静です。本当に頭の良い人だと思います。また、フランス人ですが日本の文化に詳しそうです。オルタンスを正気づかせたときに使ったのはジュウドウ(柔道)の活【ルビ:かつ】、狂女をはね飛ばす時もジュウドウの技を出しました。強くて賢いヒーローです。パリの人々に尊敬されるのも分かります。ぼくもあこがれます。
「八つの犯罪」を読んで、ぼくはますますルパンのファンになりました。全集は三十巻あります。気になるタイトル、不思議なタイトルも多いので、がんばって読みきりたいと思います。
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◎優秀賞 三原 舜一朗さん(小2)
読んだ本――『がんばれ!小さいじどう車』 バーグ作 まえだみえこ訳 旺文社
【作品】
「はたらく小さい自どう車」
むこうぎしにもどってきた小さい自どう車は、
「あーつかれた。」
と、つぶやきました。
「わしもつかれたあ。」
と、うんてんしゅさんもためいきをつきました。
「うんてんしゅさん、ぼく、とってもおなかがすいた。」
と小さい自どう車は言いました。うんてんしゅさんは元気のない小さい自どう車をのろのろ走らせながら、ガソリンスタンドを目ざしました。
「しかたがないなあ」
とうんてんしゅさんは言いながら、じぶんもあくびをしています。そして二人でそのままねむってしまいました。
「つめたーい」
小さい自どう車はさけびました。うんてんしゅさんはあわてておきて、小さい自どう車を走らせました。小さい自どう車は
「どこへ行くの?」
とうんてんしゅさんに聞きました。うんてんしゅさんは
「それはひみつだな」
と、にやりとして言いました。小さい自どう車はぐんぐんすすみます。
うんてんしゅさんがきゅうブレーキをかけました。
「うわあー、なにするんだよ。」
と小さい自どう車はびっくりしてさけびました。
「すまん、すまん。にじがとってもきれいだったから。」
うんてんしゅさんはあやまりました。小さい自どう車が顔を上げると目の前には大きな大きなにじがかかっていました。小さい自どう車は思わず、
「わあーきれいい」
とさけびました。そして
「うんてんしゅさん、あのにじをわたってみようよ」
と言いました。
「それはいいね。」
とうんてんしゅさんもうれしそうに言いながら、アクセルをぎゅっとふみました。そして、二人はにじのてっぺんにたどりつきました。
「ねえねえ、うんてんしゅさんの言っていたひみつのばしょってにじのことだったんじゃないの。」
と、小さい自どう車は聞きました。うんてんしゅさんは、にやりとわらいました。
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◎ニャーロウ賞 大北 隼矢さん(小5)
読んだ本――『アインシュタイン 時をかけるネズミの大冒険』 トーベン・クールマン作 金原瑞人訳 ブロンズ新社
【作品】
「時をこえて」
ぼくは、トーベン・クールマンのネズミの冒険シリーズが大好きだ。
だから、今回も出版が決まったと聞いてから、ずっと楽しみに待っていた。
初めて「アインシュタイン」というタイトルを聞いた時、彼のことは、理科で特殊相対性理論の人だと習って知っていたから、「おっ」と思った。
サブタイトルの「時をかけるネズミの大冒険」は、「空、宇宙、海ときて、ついに時間が来たか!」と驚いた。
表紙を初めて見た時は、「これまでは飛行機、ロケット、潜水艦があったけど、今度のは機械がない?」と、今までと違う雰囲気を感じて、ちょっとドキドキした。
主人公の小ネズミは、待ちに待った世界最大のチーズフェアに間に合わなかった。日めくりカレンダーの十日目のところで、寝てしまって、めくるのを忘れてしまっていたからだ。
そこから、時間をさかのぼる方法を探していくのだが、時間はエスカレーターみたいだ。
小ネズミを、何とかして大チーズフェアへ連れていってあげたいけれど、「もしも、過去に行けてしまうと、過去の自分が二人になるんじゃないかな? それって、危なくないのかな」と心配になった。
調べてみると、ネズミの寿命は一~三年だったので、複雑だけど、ほっとした。
もしも、小ネズミのように過去に戻れたら、ぼくは、ジャンボ宝くじを何回もやる。当たったら、PS5を買いたい。
そして、競馬の番号を見ておいて、お小遣いの中から出せる金額から始めて、資金を稼いで、億万長者になる。
億万長者になったら、株を見て、大富豪になる。
お金を使いきったら、また一円からスタートする。
すごくいいアイデアだと思ったけれど、こんなことをぼくができる頃には、きっとみんなもできるようになっているだろうから、お金の価値はなくなってしまうかもしれないと思った。
もしも、時空間を移動する小ネズミが、我が家にきて、うちのトイプードルのわこと会ったら、どうなるだろうと想像したりもした。 残念ながら、わこの性格だと気付かずに、ぼくも気付かないまま、子ネズミは去ってしまうだろうと思うと、少し残念な気がした。
さて。この本の一番の山場は、アインシュタインが足にインクを付けられ、居場所を知られるところだ。
今回は、もし見つかったとしても、相手はアインシュタインだから、命が危ないということはないだろうけれど、好奇心旺盛な人だから、きっと、いろいろと研究されて、居心地の悪い思いをするだろう。
実は、一回目に読んだ時は、小ネズミが、ただ時間の移動に失敗しただけだと思っていた。
何回か読んでいくうちに、小ネズミは一日前に行きたかったけど、間違って八十年前の過去へ行き、その八十年前の過去から未来へ行けたことに気が付いた。
ぼくは、時間移動は過去にしかいけないと思っていたから、「実はすごいことだったんだな」と、後からじわじわきた。
もしも、いつか作者に会うことができたら、聞いてみたいことがある。それは、「主人公が最初に出会う太ったネズミは、自分自身ですか?」ということだ。
ちなみに、ぼくが、ネズミの大冒険シリーズの中で一番好きなのは、『アームストロング 宙飛ぶネズミの大冒険』で、刑事に追われたり、何回も失敗しながらも成功していくところがいい。
この文章を書き終えた今、全シリーズをもう一度、読み返してみようと思った。
きっと、何か新しい発見があるにちがいない。おもしろい作品というのは、そういうものだから。
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(注:応募者の作文は原則としてそのまま掲載していますが、表記ミスと思われるものを一部修正している場合があります。――読書探偵作文コンクール事務局)
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