見出し画像

アラフォーは大吟醸である

日本全国の働き盛りアラフォーの皆様、ごきげんようでございます。
無駄に歳だけ食っている38歳独身店長です。

わたくしが働くお店は東京・高田馬場にあるのですが、現在は緊急事態宣言中のため、お店は臨時休業中。
その間は系列店である神楽坂店へと出向き働いております。

神楽坂店での出張勤務も、本日でちょうど三週間。あっという間です。
緊急事態宣言は延長の公算が大きいということで、どなた様もあらかた予想の範疇でしょう。

高田馬場店への凱旋はいつになることやら。
毎晩、涙したたる数をかぞえながら毛布にくるまる38歳独身男がどこかにいるとか、いないとか……。

そんなわたくしが現在働いている神楽坂店ですが、店内に流れるBGMはUSENの《jazzチャンネル》です。

土地柄でしょうか、以前はJ-POPを流していたそうですが、お客さんから『神楽坂なのに大衆居酒屋みたいで勿体ない』と、はんなりとした訓戒を頂戴したそうで、以来、シックにキメたMUSICをご来店の皆様の耳にお届けしているそうです。

わたくしはさほど気にも止めない事柄なのですが、女性スタッフのひとり・でっちゃんは、なにやらお気に召さないご様子。
ブー垂れながら小言を放っておりました。

「つまんない。00年代ヒット曲がいい!」
「なんで? いいじゃない、ジャズ」
「テンション上がんない。知らない曲しか流れないし」
「君のテンションなんぞオレの知ったことではないけども(バッサリ)ーーそれはさて置き、楓ちゃん(馬場店のアルバイトスタッフ)は、高校時代から趣味でサックス吹くって言ってたなぁ」
「へぇ~、かっこいい」
「まぁ、でもおれの予想では……たぶん嘘だね。楓ちゃんはサックスなんて吹かないよ!」
「え、なんでですか?」
「かっこつけたいんだよ」
「……」
「『わたしサックス吹いてます』みたいな?w スカしたいお年頃なわけ。だから絶対ウソだね!」
「なんでそんなこと言うんですか」

「だって楓ちゃんがサックス吹いてるとこ見たことねぇもん!」

自らの発言ながらめちゃくちゃ言うなぁとも思いましたが、自分自身で見聞きしていないものは断固信じない……そう、それがわたくしなのです。

しかし居酒屋の営業中にサックスを吹く女の子など、どこの世界にいようものなのか。
ご存知の方は、どうぞご一報くださいませ。

とまぁ、こんな性格が災いして、これまで38年間の人生で幾度もの失敗を繰り返してまいりました。

思い起こせばわたくしがまだ二十歳くらいの頃ーー。当時付き合っていた女の子と、こんなやり取りがありました。
どこかの街のどこかの店で、わたくしがある羊の小物に興味を示した時のことです。

「あ、これいいなぁ」
「なに?」
「この羊のガラス細工。くぅ~、かっこかわいいぜ」
「えー、いらないよ。邪魔になるだけじゃん」
「邪魔にはならないでしょ!こんなちっこいんだから」
「こういう玩具いっぱい持ってなかった? これ以上買う必要ないって。お金の無駄だよ」
「金の無駄、ね。はいはい……」

そしてわたくし、こう続けたのです。

「じゃあ、君もダイエットサプリ買うのやめれば?」

このひと言が引き金となり、その女の子とはその後FOREVER BYE-BYE(今生の別れ)をしたのでした。

こういった類いのエピソードが話題に上がる度、アルバイトの女の子達からは、
「そういうところが38にもなって結婚できない理由ですよ」
などという苦言を頂戴します。

しかし、彼女達のような若輩者はまったく理解しておらんのです。一見、余計なひと言と思える発言でも、それがアラフォーとなれば話は別。
アラフォーであるが故に醸すことの出来る " 味 " もあるということを。

それを理解してもらうには、こちらのお酒たちを例にとり、吟醸酒がいかに素晴らしい造りなのかをご説明するのが分かりやすいでしょう。

画像1

■鍋島 ~大吟醸~■

(写真・左)

使用米:山田錦
精米歩合:35%
Alc:17度

■陸奥八仙 ~大吟醸~■

(写真・右)

使用米:華想い
精米歩合:40%
Alc:16度

共に大吟醸で、スペックは申し分ありません。
精米歩合の「35」「40」といった数字もアラフォーに通ずる部分もありますが、重要なのは他にあります。

日本酒造りの工程として、(もろみ)の発酵期間は通常20~30日程度。しかし吟醸造りにおいては低温発酵で「40日」ほどの期間を費やします。

そして低温発酵で雑味の少ない味わいとなったお酒に醸造アルコールを添加することで、香りや味の成分が引き出され、淡麗で軽快、スッキリした味わいとなるのです。

わたくしがなにを言いたいのか、お分かり頂けるでしょうか?

言うなれば、20や30といった若い歳の頃では人生の成熟期間も貧弱で乏しく、そのくせ四方八方へと向けられる雑念という名の雑味ファクターが邪魔をして人としての軸も定まらず、おしなべて物腰に角が見て取れる尖った言動となること必至です。

かたや円熟期のアラフォー世代は、いわば人生経験という名の醸造アルコールを添加しているので、人間としての味わいも十二分に備わっています。
吟醸造りの美点である香り同様に何事にも誇りを高く持ち、また多少のトラブルも問題としない軽快なフットワークでもってスッキリとした後味のよい言動を取ります。

つまりーー若い時分は未熟ゆえに余計なひと言となる言葉も、人間としての厚みが違うアラフォーが放てばユーモアとしての側面が強調され、自然と笑いに昇華できるものなのです。

「だからそんなオレの性格も、今や結婚への弊害とはならんのだよ」

などとわたくしが反論すると、彼女達は軽く鼻で笑いながら返してきます。

「じゃあ、羊の女の子と今出会えてればよかったですね」
「……君は今いくつだっけ?」
「21です!!」
「だろうね。どうりで発言にユーモアが感じられない訳だよ」

アラフォー気分を味わいたい方は、どうぞ大吟醸を飲んでみてくださいませ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?