コーヒーブレイク3回目:ベトナムの紹介~歴史的に創り上げられたバランス感覚~
東南アジア研究家の桐島です。さて前回に続いて、3回目のコーヒーブレイクです。
前回のラオスのお隣のベトナムの紹介です。ベトナムは、ラオスと深い関係があります。それは、以下の地図を見るとわかります。
左の地図は、フランスの植民地だった「仏領インドシナ」ですが、ベトナム、ラオス、カンボジアがフランス統治下だったことが分かると思います。
ベトナムは、縦に長い国で、南北の長さは1650km、東西は600kmです。
中国、ラオス、カンボジアと国境を接しています。タイとは接していません。
さて、ここで問題になりますが、
現在、世界で社会主義国家はいくつあるでしょうか?
※社会主義国家=マルクス・レーニン主義を標榜する国家
正解は、こちらです。
かなり一部に固まっていることに気づくでしょう。アメリカ大陸に位置するキューバは例外ですね。やはりロシア(旧ソ連)が発祥の地なので、中国周辺に密集しています。現在は、中国、北朝鮮、ラオス、ベトナム、キューバの5ケ国が社会主義国家です。
以前、ホーチミン美術館に行った際に、ラオスとベトナムの社会主義の友好関係をPRする特別展示があって驚いてしまいました。
フランス植民地化という共通の歴史体験があり、その後に社会主義という共通の政治体制を維持しているのだから、それは、それで独特の紐帯があるのかと、「ハッと」させられました。
やはり、現地に足を運ばないと、その国が置かれた状況というものは分からないですね。
それでは、そんな社会主義国家同士といえば、ベトナムと中国も一緒ではないか、と思いますが、
上記の通り、ベトナムと中国は、因縁の関係があります。それは、1978年に、ベトナムがカンボジア侵攻してからです。
ベトナムは、カンボジアの独裁者ポル・ポトが、国民に反ベトナム感情を煽りまくって国境線で断続的に攻撃を仕掛けてくるので、ぶち切れました。
カンボジアに攻め込んだ際に、中国がベトナムに攻め込んだのです。
中国の思惑は、中国がベトナムに攻め込めば、カンボジアにいるベトナム軍は、ベトナムに戻らざるを得なくなる、というものでした。
結果は、ベトナム軍はカンボジアに送り込んだ軍隊を呼び戻すことなく、ベトナムに残っていた軍だけで中国と闘いました。
それは、ベトナムは、ベトナム戦争の名残で、米軍が使っていた当時の最新兵器を持っていて、中国の軍隊は近代化されていなかったためです。
また、実は中国と対立を深めていたソ連がベトナムを支援したためです。
ソ連は偵察衛星を使って中国軍の動きを把握、それをベトナムに教えました。
この中国とベトナムの対立は1度で終わらず、中国とベトナムの国境沿いで1979年から10年以上も頻発していて、ようやく1991年11月に国交が正常化しました。
そういうわけで、現在のベトナムに取って中国は、永遠のライバルです。
ベトナム人が、中国人嫌いと言われるのは、こんな由縁があります。
これに関係して、ベトナムにおける華僑の人口はどのぐらいでしょうか?
他の東南アジア各国と比べて多いでしょうか?
正解は、人口に占める割合は、1.1%とかなり低いです。ベトナムの人口は、1億人近くなので、そのおよそ1%で100万人の華僑がいることになります。
ここからも、華僑にとっても魅力的な進出先で無かったことが分かると思います。ベトナム人の反中感情、中国への恐怖心は根深い歴史的な側面があります。
それでは、最後に、今回の本題の「バランス感覚」を解説します。
1976年に現在のベトナムが成立してから、中国の隣国のベトナムという関係を相対化して、多角化するために、あらゆる努力をしました。
経済面で言えば、1995年にASEANに加盟して、東南アジアの一員に、
1998年にAPECに加盟して、アジア太平洋の一員になりました。
2007年にはWTOに加盟して、世界的な貿易国の一員に、
2016年にはTPPに参加して、アジア太平洋の貿易国になりました。
この間に、米国との関係も正常化して、通商協定を締結しているのもポイントです。
安全保障面での多角化に関しては、戦略的パートナーシップ(Strategic Partnership)を2001年のロシアを筆頭に多くの国と確認し合ってきました。路氏は、旧ソ連自体から仲が良く、現在も主要な兵器供与国です。
2009年に2400億円で、潜水艦6隻の購入契約を交わして、2016年に6隻目の最後の潜水艦が無事ロシアから納入されました。
ちなみに、包括的パートナーシップ(Comprehensive Partnership)というものもあり、恐らくこれは、「戦略的」よりも「格下」の位置付けだろうと思われます。それは、2009年にオーストラリアと確認した後に、2018年にオーストラリアは、「戦略的パートナーシップ」に変更されているためです。
これ以外のベトナムの「バランス感覚」を示す戦略として、中国の「一帯一路戦略」に対する態度と、米国の「インド太平洋戦略」に対する態度を見ていきましょう。
「一帯一路」→総論肯定、各論慎重
「インド太平洋」→総論黙殺、各論協力 です。
一帯一路に関しては、もともと中国が2003年に提唱していた、ベトナム北部の「二回廊一帯」という枠組みを「一帯一路」として扱うことで、2017年に合意しましたが、プロジェクトはほとんど進んでいない状況です。
理由は、①中国に対する経済依存を深めることに対する不安、②首都ハノイが北部に位置していて、中国との物理的な連結性を強めることは、有事における進入路を大きくする、という国土が脆弱になる危険性があるため、③経済関係の対中依存度が高まることで、南シナ海問題を巡るベトナムの立場が弱まる懸念があること、です。
以上より、中国との関係上、大きな方針には賛成せざるを得ないが、個別プロジェクトとなると、慎重対応という流れが見えます。
インド太平洋に関しては、「インド太平洋」を支持するとも、不支持とも明確な表現は避けて、米国の価値観の押し付けや、親中・反中の二者択一を迫られないようにする。彼らは、むしろ、「インド・アジア・太平洋」という表現を使い、この構想をかわしています。
しかし、個別のプロジェクトになると、米国、日本、豪州、インドとの安全保障関係の進展があり、例えば、2018年3月の米国海軍の空母カールビンソンのダナン寄港を許可したりしています。※米軍空母の寄港は、ベトナム戦争終了後初めてです。
このように、ベトナムは、「一帯一路」、「インド太平洋」の双方と適度な距離を保ち、双方から利益を出しているのです。
このようなバランス感覚は、ASEANの1国としても発揮されています。
ベトナムは、大国中国と地理的に国境が接していて、歴史的にバランス感覚を保って接してきたのです。
米国との戦争にも勝利したベトナムは、現在も、バランス感覚を保ちながら、何かと闘っています。
これを機にベトナムに興味が湧いた方に、以下の本をお勧めします♪
See you soon.