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あの日のチョコレート工場の話

前略 どくろくらげです。
こちらではごぶさたしていますが
先日、新曲『Golgotha or a chocolate factory』を配信リリースいたしました。
お一人お一人のお手元、お胸元にてお聴きいただけたらうれしいです。

Photo by Masayuki Horita,thanks!

今回の曲から、歌詞をお読みいただけるようになりました。
こちらもどうぞお楽しみくださいね。わたしの歌詞は長いので(笑)

さて、少しだけ曲のお話をいたします。
このちょっと長い英語のタイトルは『ゴルゴタ オア ア チョコレート・ファクトリー』と読みます。
ゴルゴタは、「ゴルゴダの丘」と、最後「ダ」と濁ってよく言われる彼の聖地の名前からとりました。
タイトルに聖地を使うにあたって、センシティブな名前かな・・・と思ったのでゴルゴタについてあらためて調べてみたのですが、「しゃれこうべの丘」とか、「髑髏」という意味もあるという説を読んで、自分の芸名(どくろくらげ)もあってすっかり気に入ってしまいました。禁忌の言葉ではないようだったのでそこはほっとした点。何しろ最初からこの曲のタイトルは『ゴルゴタ・・・』と決まっていて、リリース前に色々念のため調べているていたらく、いや、次第だったので。そしてこのタイトル、フィーリングでとても気に入っていたので。物語はそのゴルゴタ、わたしにイメージの中でゴルゴタの丘に建つ、或る古いチョコレート工場から始まります。

わたしが育った街は今は遠く、思い出とともに遠くにあります。
その遠い街には古いチョコレート工場がありました。
チョコレート工場のすぐ隣りには児童公園があり、わたしたち子どもは学校が終わると皆でそこでめいめい好きな事をして遊びました。
申し訳程度の遊具、その代わり十分に駆け回って遊べるスペース、藤棚の下のベンチ、砂場、水飲み場。断片的に、でも今でもはっきり思い出す光景は鮮やかです。その中でもこの公園での思い出の中で最も鮮やかなのは「チョコレート工場の匂い」でした。

公園全体をほぼ飽和状態で包むチョコレートの香り。毎日働くこの古いチョコレート工場からやってくる甘い匂い。わたしたちはいつも「チョコレートの匂いだー」と言い合って遊ぶのですが、何故か誰もチョコレートを買いに走ったりはしないのでした。その位、空間に飽和した濃厚なチョコレートの甘い香りがいつもありました。半分その甘い匂いに酔ったようになって、わたしたちは夕方の風が吹いてきて、すりむいたひざに沁みるまで、夢中で遊び続けていました。近くのビルの上に立つ電波塔の、衝突防止閃光灯が夕闇に赤く点滅を始めるまで。それをいつも眺めた記憶があります。ああ、今日もよく遊んだって。ああ、もっと遊びたかった気がするな、って。

大人になって違う、遠くの街にやってきた自分は、大人になるにつれ、良い子ではなくなっていくように思いました。大人になってゆくのに、不器用に人と傷つけあって。疲れなんかに優しさを削られて。同胞である筈の、「皆」へ抱かなければいけない愛を忘れて。世界とうまくやれなくて。

そんな或る日、何も考えずに買ったチョコレート菓子を口に入れようとした時、鼻が「その匂い」を嗅ぎつけました。あの日の甘い、特別な香りを。
そんなに高価でもないそのチョコレートは、他のチョコレート菓子とそんな大差は無い筈でした。だけどわたしの鼻はそれを嗅ぎつけたのでした。菓子袋の裏を見たら、製造された工場の所在地が印刷されていました。

東京都××区××町。

わたしの育った街でした。あの工場で作られたチョコレートの香りが確かにわたしにそれに気づかせた。間違いなかった。
途端に思い出される記憶。ああ、あの少ないシケた遊具、藤棚の下のベンチ、砂場、水飲み場!
沢山の、子供たち。皆が皆、それぞれの良い子だった子供たち、わたしたち!

この曲で「あの子」とわたしが書いて歌ったのは誰だろう、と思いました。
お酒をたくさんたくさん飲んで身体を壊し早くに先に行ってしまったあの子?
いつも一緒にライヴハウスに遊びに行ったのにいつか道が分かれてしまったあの子?
今も消えない恋の傷を胸にぐっさり刻んでいったあの子?
誰なのかははっきり自分でもわかりませんでした。でも、なので、かえって色んな皆さんの「あの子」の事を歌えているかもしれないと思いました。
もう会えない「あの子」。もう「今は」会えない「あの子」。

このパンデミックにおいて、わたしたちは多くを失ったように思います。そして、でも、不思議にそれでも失われることなかった何かを得たような気もするのです。何かは言葉ではっきり言えません。そういうものがあると思った。それを歌いたかった。でもそれが何かは曲に語っていてもらいたい。曲に尋ねていただけたら。と、ゆめをみています。

それは小さく耀く希望と思っています。祈りかもしれません。

失われたものたちへ、
そして
けして失われることのないものたちへ

今も胸が痛むくらい、大好きなんだから。

読んでくださってありがとうございます。下書きなしのその場のMCみたいな文章ですが、もし、少しでも曲の外でお楽しみいただけるものがあったらうれしいな、と思いながら書いています。

皆さん、どうか良い季節を。

2023年 
ゴルゴタの丘の上 風に吹かれながら、
それでもどうしたって美しい秋の中で。

どくろくらげ

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