「相馬の若者の気合い」に難癖を付ける者ら
名古屋で開かれていた芸術祭「あいちトリエンナーレ」の「表現の不自由展・その後」の展示が不快だなどとして抗議にさらされ、ガソリン携行缶を持って行くと主催者を脅迫する事件まで起きてしまった。表現の不自由展は開催3日で中断を余儀なくされ、加えて、政権の意を受けたらしき文化庁が助成を撤回するという横やりまで入ることになる。だが、愛知県などの主催側は、芸術祭の終了間際に展示を再開し、ぎりぎりのところで矜持を保った。
この展示に福島ゆかりの作品があったことに気がついたのは、不自由展の再開後だった。「Chim↑Pom」というアーティスト集団と相馬市の若者が一緒につくったアドリブ一発撮りの映像作品「気合い100連発」だ。ところが「30マイクロシーベルト」というかけ声に呼応して「被曝最高」などと叫ぶ場面があるとして、「福島県民をおとしめる」とか「日本人の感情を逆なでする」とか難癖がつき、抗議の対象に加えられていた。
不自由展には行けなかったものの、ネット上で公開されていた別バージョンの「気合い100連発」全編(付記:またはYouTubeのここかここかここ)を見ることができた。映像は2011年5月ごろ、相馬市尾浜で撮られたようだ。津波で亡くなった尾浜の親族の葬儀のとき私も見た、松川浦にマイクロバスが漂うさまも映っていた。
作品ではアーティストと相馬の若者が円陣を組み、「復興がんばるぞ」「相馬最高」「漁師最高」「放射能最高じゃないよ」「ふざけんな」などと気合いを入れ、その合間に「被曝最高」「相馬最悪」「もうちょっと浴びたいよ」という叫びも確かに飛び出していた。
家々が流され、街はがれきに覆われ、身内や友人を亡くした人もいたに違いない。その上、原発事故が起きた。港町なのに、漁もできない。相馬市は原発からそれなりに離れてはいても震災直後のこの時期、被曝を不安に思うのは当然のことだ。「最高」も「最悪」も、空元気の悲しい叫びのようだった。思わず私は涙がこぼれてしまった。
作品を批判する人々は、被災者や被災地を慮るように見せかけつつ、アーティストらに「ヘイトだ」「日本から出て行け」などと悪罵をぶつける。まさに為にする批判かのようだ。被災当事者である相馬の若者の心情が無視されたことに、やりきれない思いが募る。
(福島民友「みんゆう随想」第6回「相馬の若者の気合い」2019年11月9日付。写真は2018年に石巻市の日和山から撮った、日本製紙の工場)
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