【ミクロ-07:不動産鑑定士試験のための経済学】 労働供給曲線 をわかりやすく(消費者の行動)
1. 効用最大化条件①
労働供給量の背景には、個人が限られた時間と資源を最も効果的に使って最大の効用を得るための選択があります。この選択の中で、労働をどれだけするか、また余暇の消費量をどれだけ取るかというバランスが問われるのです。
1.1. 労働供給量の決定
労働供給量は賃金wと労働時間の関係によって決まります。一般に、余暇の消費量の初期保有量Lは労働と余暇の消費量消費量lの和となるので、労働供給量(労働時間)はL−lと表すことができます。
1.2. 予算制約線のシフト
効用最大化条件(予算制約式)は、所得と賃金の関係を表すpx + wl = wLの形で表されます。ここで、 p は財の価格、x は財の消費量です。
賃金が上昇すると、予算制約線は外向きにシフトします。これは、同じ労働時間でより多くの所得を得られるということです。この外向きのシフトによって、労働供給量の選択も変わる可能性があります。
2. 効用最大化条件②
効用最大化の条件は、労働供給量を決定する際に考慮すべきものです。具体的には、余暇の消費量と財の限界代替率(MRS)が賃金と財の価格の比率に等しい場合に効用を最大化することができます。
数式で表すと、効用最大化の条件は MRS =w/p となります。この条件を満たすとき、個人は労働と余暇の消費量、財の消費量を最適に選択しているとされます。
3. 余暇の消費量が正常財の場合のスルツキー分解
スルツキー分解は、価格(この場合は賃金)の変動が労働供給量に与える影響を、代替効果と所得効果に分けて考える方法です。
賃金が上昇すると、労働することで得られる所得が増え、労働時間を増やすインセンティブが生まれます。一方で、得られる所得が増加することによって余暇の消費量を選択する余裕が生まれます。
3.1. 代替効果>所得効果の場合
この場合、代替効果が所得効果よりも強く影響すると考えられます。余暇の消費量が正常財の場合、代替効果と所得効果が反対の効果を生じさせるため、2つの大小で場合分けする必要があります。
3.1.1. 代替効果
代替効果は、賃金の変動が余暇の消費量と労働の相対的価値に与える影響を指します。賃金が上昇すると、労働することで得られる所得が増加するため、労働の相対的価値が上昇します。このため、労働時間を増やして余暇の消費量を減少させます。
この効果だけを考慮すると、賃金の上昇は常に労働供給量の増加、余暇の消費量の減少をもたらすという結論になります。
3.1.2. 所得効果
所得効果は、賃金の変動が所得に与える影響を指します。賃金が上昇すると、所得が増加します。この増加した所得によって、余暇の消費量を増やし、労働供給量を減らす選択をします。
代替効果が所得効果を上回る場合、余暇の消費量の減少が余暇の消費量の増加を上回るため、結果として余暇の消費量は減少します。
3.2. 代替効果<所得効果の場合
この場合、所得効果が代替効果よりも強く影響すると考えられます。所得効果が代替効果を上回る場合、余暇の消費量の増加が余暇の消費量の減少を上回るため、結果として余暇の消費量は増加します。
4. 余暇の消費量が劣等財の場合のスルツキー分解
劣等財とは、所得が増えると消費量が減少する財を指します。余暇の消費量が劣等財の場合、所得が増えると労働供給量が増加、余暇の消費量が減少すると考えられます。
このケースでは、所得の増加によって労働供給量が増加し、代替効果と所得効果の両方が、労働供給量を増加させます。
4.1. 代替効果
賃金が上昇すると、労働することで得られる所得が増加するため、労働の相対的価値が上昇します。このため、労働供給量を増やして余暇の消費量を減少させます。
4.2. 所得効果
劣等財の場合、賃金の上昇による所得の増加は、余暇の消費量の減少を促すと考えられます。
余暇の消費量が劣等財の場合には、代替効果と所得効果により、労働供給量の増加、余暇の消費量の消費を減少させることとなります。
5. 労働の供給曲線の反転(バックワード・ベンディング)
労働供給量曲線の反転とは、賃金がある一定の水準を超えると労働供給量が減少する現象を指します。これは、賃金が高くなると、所得効果が代替効果を上回り、余暇の消費量を増やす選択が強まるためです。ここでは、余暇の消費量が正常財であると仮定します。
この現象は、労働供給量の選択が単純に賃金の変動によって決まるわけではないことを示しています。賃金の変動だけでなく、所得効果や代替効果の影響も大きく、これらのバランスによって労働供給量の変動が生じることがわかります。