過去の経験の総体を
幼い頃からある病院の入院生活で経験したこと。
慣れない環境で病気と闘う恐怖。血管が細くてなかなか点滴が入らない苦痛。手術前日の夜の最悪な時間。手術台の上の眩しすぎる光。退院できずに学校に通えない、友達に会えない苦痛。
挙げていくとキリがない。
たくさんの苦痛を経験したある病院の就職試験が終わった。
吐き気がするほど嫌いだった入院生活を送った病院に看護学生となった今、就職を希望した。
幼い頃、この病院で様々なことを経験したことがきっかけとなり、私はいま看護師を目指している。そして、看護というものに憧れと誇りを待ちながら目指すきっかけとなったこの病院で働きたいと思っている。
面接試験本番。当たり前のように吃音がでた。
現実を突きつけてくるかのように、言葉が喉を通らずに一単語ずつ詰まりながら質問に答えた。なぜ小児科を希望しているのか。入院時のエピソードについて。の質問ばかり。あまり自分の思いを伝えられないまま、時間と額の汗だけが流れていった。
「これで終わりになります。どうぞ退室してください。」
この言葉が聞こえた時、何を思ったか分からないが、きっとこのままじゃダメだと思ったのだろう。
「最後におひとつよろしいですか?」
気づいたらこの言葉を発していた。もう上手く話そうとなんかしなくていい、飾った言葉で伝えようとしなくていい、ありのままの思いを伝えようと思った。
「私は幼い頃吃音症があり、思うように言葉がで出てこないことが多いです。看護を目指した当初は、コミュニケーションが取れてなんぼの看護師という仕事を行う中で、吃音症があることは致命的ではないか、自分は看護師に向いていないのではないか、と考えたこともありました。」
「しかし、貴院で実習経験を積み重ねて行く中で、自分が本当に看護が好きであることを実感しましたし、同時に、吃音を理由に看護の夢を諦めたくないなとも思いました。だからいま、看護師の仕事を吃音がありながら責任を持って全うしていくために、優先順位を考えた報告や言葉の言い換えのトレーニング、言友会への参加などを行い、日々努力しています。」
「また、幼い頃から貴院での入退院でたくさんの経験をしてきました。当時は、どうして自分だけこんな目に遭わなければいけないんだろう、今ごろ友達は元気に遊んでるのに自分は病室で点滴の針を入れられてるんだろうと考えたこともありました。しかし、その経験の全てが今の私の人生の糧となっていますし、誰よりも患者様の苦痛がわかり、寄り添うことのできる自信があります。」
全部言った。全部ぶつけた。今ある思いを。
そしたら部長に、
「しっかり伝わりましたよ。あなたの看護師人生はこれからもずっとずっと長く続いていきますよ。」
と言ってくれた。嬉しかった。その言葉の裏にはどんな意味があるのかは分からないけれども、それでもありがたい言葉だった。
長かったかもしれない、言葉が適切でなかったかもしれない。けどありのままに伝えたかった、その上で自分を選んでほしいとも思った。これでダメなら仕方がないと思えるくらい、全てを伝えられたし悔いは全くない。