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Vol.2| ICTで見つかる可能性をどこまでも

2022年7月11日公開記事の再掲となります。

学校でのICT活用に訪れたさまざまな変化を、Googleとの出会いを切り口に語る本シリーズ。今回は、ICTを用いた芸術の可能性を追求しつつ、なんと南極にも行ってしまった?!という、ドルトン東京学園中等部・高等部(東京都)の新井 啓太先生にインタビューしました。

Google とわたし

新井先生とGoogleの出会いはいつ頃だったのですか?

「Google」との出会いは、2013年の頃にスマホをiPhoneからGoogleのNexus5(懐かしい!)に買い変えた頃かもしれません。料金が格安になって、アプリ連携もスムーズ。Gmailも、Googleカレンダーもサクサク動くし、Macと常に同期してくれる。これは良い!と思いました。個人としてのGoogleとの出会いです。

その翌年、前任校で全学ICT強化のプロジェクトが立ち上がり、その委員の一人を担当することになりました。メインはクラウド化。Google Workspace for EducationがまだGoogle Apps for Educationという名称だった頃です。Classroomの原型のような機能を英語で操作するDoctopus(ドクトパス)に触れながら導入を検討しました。メンバーでお題を出し合ったり、コメントをつけて返却をしたり。今、あたり前になってきているICT教育が「見えた」瞬間です。いやぁ、衝撃でした。

これが教育の仕事におけるGoogleとの出会いです。そのプロジェクトは一旦ストップとなってしまいましたが、2016年から中高のICT責任者を担当することになり、そこからWiFi整備やGoogle導入などを本格化させて、年次進行で全生徒端末所持まで整備を行いました。クラウドベースのICT化がどんどん進み、学校にとって「無くてはならないもの」になるまでそれほど時間はかかりませんでした。研修会や生徒へのオリエンテーションを楽しいハンズオン形式になるよう組み立てていた頃が懐かしいです。

その後、Googleとの関係が深くなっていったのはどのような経緯があったのでしょうか?

ICT責任者と言っても、ただの美術教員。テクノロジーに興味を持っている素人です。校内に閉じこもっていても絶対に失敗するという確信だけはあったので、校外のセミナーや研修会へ積極的に参加するようになりました。そこで出会ったのが、GEG Kamakuraです。

GEG Kamakuraは、ICTのツールを学ぶというよりも、教育に本気で向き合う最高に面白い大人の集まりでした。「教員」という職業上の顔よりも、みんなが一人の「人」として好奇心を持ってそこに集まっている。ワイワイガヤガヤ、遊びながら学ぶ。そんな空気に居心地の良さを感じ、参加者から気がつけば運営のお手伝いをさせてもらうようになりました。

KamakuraやMachidaのGEGリーダー代行でGoogleオフィスや関西に行くような機会もありました。その頃はGoogleどっぷりですね。そんなこんなで、全国の先生たちと交流をさせていただく機会も増えていきました。

「教室を飛び出す学び」というキーワードを自分の中で強く意識するようになり、2018年に南極へ行くことが決まりました。地図関連ツールに特化したGoogle Earthのブートキャンプに参加。当時、教育ツールとしては使用例がそこまで多くなかった地図ツールですが、あらためて触れてみると面白い!そして深い!日常生活と学校の間に隔たっている壁を超えられるような気がしたのです。このブートキャンプ参加メンバーで、Sensei with Google Earth Japanというコミュニティを立ち上げてイベントを定期的に開催しています。

2019年に、Google for Education認定イノベーターJPN19のアカデミーに参加をして、そこから「どこがく」が誕生。あれやこれやで株式会社となり、コワーキングスペース「はじまる学び場。」がオープン。鎌倉市の入口にあたる大船駅で店舗運営するだけでなく、公益財団法人日本極地研究振興会よりご依頼をいただくなど、デジタル教材の開発を担当させてもらうようになりました。

リアルの場にはなかなか現れませんが、オンラインにはよくいます。これはGoogleと仲良くなれた成果なのかもしれません。

いざ!南極へ

南極に行っていたことがあると伺ったのですが...本当ですか?(笑)

はい(笑) 本当です。教員南極派遣プログラムという公募に採用いただき、南極へ行くことになりました。60年以上の歴史がある南極地域観測隊(年に1便しか船が出ない!)に同行して、その活動や南極観測の意義を、次世代を担う子どもたちへ伝えていくことがミッションです。南極と日本を衛星テレビ会議システムでつなぐ南極授業を実施して、帰国後もその活動を続けています。

同行の内定をいただいたのが2018年3月。そこから準備期間8ヶ月。南極観測船しらせ に乗って南極昭和基地へ到着するまで1ヶ月弱。南極活動を2ヶ月。帰りの船や飛行機の移動に約1ヶ月弱。南極派遣の総行程は117日でした。

文明圏から完全に遮断された環境で活動したことで、ICTをただ便利なものとしてみるのではなく必要性や弱い面もじっくりと考えることができたような気がします。

何万年も変わらない大自然の姿、地球の未来を解明するために過酷な環境で活躍する研究者たち、その活動を支えるために南極で活躍する設備系の隊員や海上自衛隊の方々、異分野のプロが集結して閉鎖空間の活動を乗り越える絆。南極は教材の宝庫です。

氷の地平線でぐるりと360°みえる景色、完全無音になる瞬間、キュートなアデリーペンギンたち、1万年前のアザラシのミイラ、オーロラ、大海原、他にも派遣期間中の全てが新鮮で本当に貴重な体験をさせてもらいました。

この派遣プログラムは2009年から始まったものです。毎年2名の教員が派遣されるこのプログラムに多く参加されているのは理科の先生です。これまで派遣になかった美術教員の視点と、ICT担当である強みを活かして企画書を書きました。

南極派遣中もGoogleツールは大活躍でした。電波なしの問題はもちろんありますが、仲間と協働できる点がGoogleツールの強み。とてつもない長距離ではありましたが、信頼して任せ合うことで企画をどんどん進めることができました。有志生徒たちとの交流にはClassroom。活動を発信するために教員南極派遣プログラムのHPをGoogleサイトで作成。南極授業の中継を所属校から拡大するためにGoogle Meetを活用。YouTubeで発信などなど。オフラインで位置情報を記録するGoogle Earth Pro。多くのシーンで活躍してくれました。

帰国後には、日本と南極の空を撮影して「空マップをつくろう!」という企画を行いました。南極で冬隊として一年以上南極に残って、研究や基地整備を続けている隊員が、空を撮影。国内では複数校の児童・生徒が南極撮影の同日同時刻に空を撮影。それらをプロジェクト機能を使ってGoogle Earth上に表示させて「空マップ」まとめて公開をしました。遠く離れていても、それぞれが地球上でつながっているという実感する有意義な取り組みになったと思います。

ICT × 美術 の可能性

美術とICT、ちょっと素人目にはイメージを持ちづらい感じがありますが、どんな風に混ざり合っていくものなのでしょうか?

何の教科の先生ですか?とよく聞かれます。「美術です」と答えると、不思議な顔をされるんです。笑

私自身の専門は油画です。絵画の技術的なこと以上に「表現とは何か?」を学んできました。絵具、土、自然物、廃材、筆、手など、何でも表現の画材や素材やテーマになります。テクノロジーや極地観測に関わることもその一つとして考えています。美術とICTの相性はとても良いものだと思っています。

表現をしていくことに、アナログとデジタルの境界線はありません。

現在、ドルトン東京学園4年生(高1)の美術では地図文字立体タイポグラフィという授業を行っています。中国の武漢をGoogle Earthで検索してみてください。街の間に流れる川に着地し、そこから南西へ川を下っていくとアルファベットの「A」のカタチに見える地点があります。この授業では、そんな「見立て」をヒントに世界中に潜む地図文字を発見します。パソコン画面に紙を押し当てて文字をトレース。木材へ転写して、糸鋸で切り抜いて、最後に着色します。集まった文字を並び替えることで、言葉を表現しながらタイポグラフィのデザインを学びます。この授業では、木工、絵画、デザインが含まれていますが、導入に簡単ながらテクノロジーを使うことで、生徒の制作に向かう意欲や表現の幅が広がっているように思います。完成した作品はAdobe ExpressのWebページに一人ひとりが作品集としてアップロードしていきます。

地図文字立体タイポグラフィ

Adobe CCもどんどん活用。ドルトンではOH(オフィスアワー)という時間を設けています。生徒が学びたい授業科目の先生を2日前より予約して、そこで自学や探究に取り組むというものです。美術OHで学ぶ生徒の活動は様々です。絵具まみれで絵を描く生徒、iPadでデジタル絵を描く、立体制作、映像作品を作る生徒や3Dプリンター出力などバラバラです。ここではBYODの端末に依存せず、作りたい生徒がそれぞれの積極的な学びとしてPhotosop, Illustrator,Premiere ProなどAdobe CCのプロツールにチャレンジしています。

GIGAスクール構想でICT環境が全国に整備され、みんなが同じツールを使って手軽なテンプレートを多用する場面が増えてきたように思います。答えのない問いに向かうための武器であるICT端末が、下手をすると創造力を削ぐような使い方をされているかもしれません。こんな時こそ、ICT×美術の力が大切になるんだろうと思います。もちろん、アナログでの表現活動の価値も込めて。

私にとってのICTは脱テンプレ!

新井 啓太
ドルトン東京学園 中等部・高等部 教諭(美術科主任)
Google for Education 認定イノベーター(JPN19)
GEG Machida Leader
Sensei with Google Earth Core
Adobe Education Leader
第60次南極地域観測隊夏隊同行者
株式会社どこがく取締役

2006年に東京芸術大学美術学部絵画科油画専攻を卒業。「教室を飛び出す学び」をキーワードに美術教育の可能性を追いかけている。2019年にGoogle for Education 認定イノベーターとなり、その仲間と2020年1月に YouTubeチャンネル「どこがく」を開設。2021年からは神奈川県鎌倉市大船にてコワーキングスペース「はじまる学び場。」を運営。「ど」ロゴや、Google for Education認定イノベーターJPN19のロゴをデザインを担当。
2022年4月よりドルトン東京学園中等部・高等部に勤務。

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