vol.15|想いをつなぎ・届ける場としてのGEG
2023年8月15日公開記事の再掲となります。
学校でのICT活用に訪れたさまざまな変化を、Google との出会いを切り口に語る本シリーズ。
今回はどこがく出前教員研修を担当している自由ヶ丘学園高等学校の大里 歩先生にインタビューしました。
現在の学校には着任3年目となります。現在は理科(物理)教諭・高校3年担任・男子女子サッカー部顧問・広報戦略室Web主任・広報部副部長・生徒会副主任と多岐にわたる役割で仕事をさせてもらっています。現在は、全生徒が Chromebook を持ち、Google Workspace for Education を利活用する学校生活を送っています。
Google とわたし
大里先生と Google との出会いは何がきっかけだったのでしょうか?
どこがくの小林 勇輔さん(現・湘南学園中学校高等学校 教諭)との出会いからですね。ある雑誌の特集で「40人のクラスでも1対1の授業に近づける果敢なチャレンジ」という小林さんの記事を読んで衝撃を受けたことが最初です。その記事が当時隣駅にある近隣校の先生の記事だったので、部活の顧問の先生経由で紹介してもらったことが全てのはじまりですね。
お互いの自己紹介もそこそこに、小林さんから「日本で最初の日本人GEG(Google Educator Group)を一緒にやりませんか?」という呼び出しがかかりました。個人的には記事で読んだ授業について興味があり聞きたかっただけなのですが、完全に巻き込まれてしまい、初回の集まりでは全く分からない横文字が飛び交う場でずっとスマホで検索していました。
Google の利活用は何からはじめたのですか?
新しいものが好きなタイプなので、色々なことを自分で調べ始めたのですが、なかなか最初の一歩までは時間がかかりました。ただ、いわゆる一斉一律の授業にモヤモヤを感じていたこともあり、何かできることはないかを模索していましたが、生徒を巻き込んで動き始めるまでには1年くらい試行錯誤しましたね。また当時の担当学年が中学生だったこともあり、スマホの所持率が上がるのを待っていたというのも理由のひとつです。
スマホ利用での利活用の目処が立ったのをきっかけに、生徒に無料の Google アカウントを取得してもらい、Classroom 利活用を開始することができました。課題の提出やオンラインでのやり取りなど、いままでにないことができる可能性も感じていたのですが、1年も経たずに「キーボード欲しいな」「つくるのはスマホは不向きだな」と思うようになりました。
一人一台の環境が整ったら、さらに可能性は広がることを確信したので、知人経由などで Chromebook をお借りし、新たな利活用への挑戦をはじめました。始めてみると整っていたはずのWi-Fi環境が脆弱で複数台の接続が安定せず、ポケット型Wi-Fiルーターを複数台借りて運用するなど、とにかく試行錯誤し続けた時期だったのを覚えています。
いま考えると、コロナ禍のように突然の利活用開始ではなく、様々な検討や試行錯誤をする時間があったのが良かったのかもしれません(当時はなんでこんなに遅いのかと不満に思っていたかもしれませんが)。
端末利用の必要性が叫ばれていない当時のモチベーションはどこにありましたか?
モチベーションと言われると難しいですね。努力していないかと言えばそれも違いますが、「生徒たちが使うことで何が起こるのかを見たかった」というのが本音かもしれません。
ですから、「使わない」という選択肢はなくて「使えるようにどうするか」しか考えていなかったのだと思います。当時は自分の範疇でしか利活用していなかったのですが、それでも全く使わないよりは違うと信じて使い続けました。授業だけでなく日直日誌のオンライン化など、やってみようと思うことは全部取り組んでいましたね。
生徒の利活用には可能性を感じましたか?
文書作成や表計算ソフトの読み取り専用しか知らない我々にとって「生徒との共同編集」は非常に衝撃的でした。教員はもともと「協働の価値」を知っていると思うのです。ですからそれを一生懸命に「アナログ」でやり続けてきた。
それが端末と Google を使うことで拡張・強化される。特に実験などで各班のデータがリアルタイムに入力されている様子は見ていて面白かったですね。その即時性や可視性によって、生徒の活動や学びが大きく広がっていったのは間違いないと思います。
このような話をすると、とはいえ「書くことは大事ですよね」と言われます。もちろん「書くことは大事」です。
ただ、それは誰が書くのか、何を書くのか、何で書くのかが大事だと思うのです。生徒による端末利用はそのことを問い直すキッカケをくれたと思っています。
さらに利活用が当たり前になってきて感じたことは「生徒たちの端末利用が気にならなくなった」ことですね。
生徒たちがスマホをいじっているときなども「遊んでいるだけではない」ことを知ったことで、考え方が変わったことを覚えています。
GEG とわたし
大里先生にとって GEG とは何ですか?
GEG鎌倉は何というか Google 感のないGEGでしたね。たんなる先生方のコミュニティがそこにはあって、確かに使っていたツールは Google だったのかもしれませんが、やっていることはHow to のようなアプリの使い方講座とかではなかったので、安心して過ごせる場がそこにはあったように思います。
印象に残っているのは工藤 勇一先生(当時千代田区立麹町中学校 校長)の講演会、鎌倉の古民家で実施したプロジェクションマッピングをつくろう、雑談会の3つですね。
あとは江ノ電すごろくも印象に残っています。当時は Google Meet ではなくビデオハングアウトの時代。
教員にとってオンライン会議は未知の世界であり、ドキュメントの共同編集とかが当たり前になっていた自分でさえも、江ノ電すごろくの準備のためのオンライン会議のハードルは高く感じました。
あと GEGLAND は言うまでもないですが、このイベントが生まれるキッカケとなった「はじめての GSuite」も印象深く覚えています。湘南エリアの先生方が集まって Google のツールについて学び合う3時間。この日をキッカケに GEG 湘南を立ち上げることを考えはじめました。
Google の各種ツールをキッカケにすることで想いを届けられる先生もいる。GEG鎌倉とGEG湘南で上手に役割分担することでより多くの先生たちと繋がれるのではないかと感じていました。
この想いが「押しかけワークショップ」に繋がるんですね。
そうですね。とにかく「はじめての人を助けたい」という強い想いがありました。
そんな想いを逗子の海の家で語るイベントをしていた時に、野中 潤先生(現GEG富士リーダー)が「ワークショップをしに、押しかけちゃうとか…」と呟き、それをみんなが「良いね」となり誕生しました。このブログシリーズにも登場している佐藤 知道先生(現GEG横須賀リーダー)もオープニングスタッフの一員です。そして、はじめての「押しかけ」は佐藤先生の勤務校でした。
押しかけワークショップがあったことで、多くの人たちと出会うことができました。キッカケは Google ツールかもしれませんが、それだけではない「縁」に恵まれました。
「おかわり」と称して、再び招いてくれる学校もあったり、コロナ禍でもオンラインで研修をしたり、学内を推進していく立場の先生たちを支える「ひとつのコミュニティ」として押しかけワークショップは機能していたのではないかと思います。
さらに、多くの学校や先生に出会ったからこそ感じることも多かったです。例として挙げると、私立と公立の違いや温度差など、押しかけたからこそ感じれたこともたくさんありました。このままでは「一番届けたい人には届かない」ことを感じるようにもなりました。当初の想いや感じてきたギャップも含め、そろそろアップデートする時期なのではないかと感じています。
印象的だった先生はいますか
逗子の村松 雅さん(元逗子市教育長)には、ものすごくエネルギーを感じました。
勇退しておかしくない年齢にも関わらず、コロナ禍で小中学校の先生たちが使えるように、楽しめるようになって欲しいと頑張っている。オンラインで「押しかけワークショップ」をやらせてもらって、それが更に地域の先生方に広がりはじめている。村松さんの「子供たちのため」という熱意をすごく感じました。
他にも印象的な先生はたくさんいます。2時間の講習後に「すみません、上書き保存ってどうすればいいんですか」という先生もいました。そんな先生たちに出会い、共に学ぶことで押しかけるスタッフも元気や熱意をもらって自分の勤務校へ戻っていく。現役教員が押しかけて研修するこのスタイルはみんなにとってハッピーだと毎回感じていました。
Google との出会いやGEGの始まりを経験し、今想うことは何かーー。
次回(後編)では、転職・学校広報とテクノロジー・Chromebookの活用・出前研修などをテーマに大里先生の内側に迫っていきます。
大里 歩
自由ヶ丘学園高等学校 教諭(物理)|GEG Shonan リーダー|どこがく 教員出前研修担当
2008年から母校で理科教諭として勤務し、コロナ禍では校内の Google Workspace for Education 利活用に尽力。2021年から現任校へ。「学び方は自由自在」を実現するため、ICTを授業で積極的に取り入れ、子どもたちが『自走する学習者』になってもらえるように奮闘中。ICTツールの使い方に加えて、なぜ使うのか、を様々な先生方に伝える研修を実施中。