vol.14|生徒の「学びたい瞬間」を逃さない
2023年7月24日公開記事の再掲となります。
学校でのICT活用に訪れたさまざまな変化を、Google との出会いを切り口に語る本シリーズ。
今回は教育系企業での営業経験も持つ、藤村女子中学高等学校の佐藤 邦享先生にインタビューしました。
現在の学校には着任1年目となります。
ICT教育関連企業の営業職からの転職なので、様々な学校の事例を共創してきた経験を生かしたいと考えています。
今は中学1年生の担任をしながら、教務としてICTに関する様々な業務に携わっています。
現在は全学年がiPadを持ち、Google Workspace for Education も利活用する学校生活を送っています。
Google とわたし
佐藤先生と Google との出会いは何がきっかけだったのでしょうか?
通っていた都留文科大学で、野中 潤一先生のゼミに参加したことが全てのはじまりでした。
最初に触れた Google のツールは Google Classroom で、この掲示板のようなツールが授業にどう生かせるのか全く想像ができなかったことを覚えています。
野中先生からは「すでに授業や教育活動に利活用している学校もたくさんある」と聞いても、半信半疑であり、
確かに「便利そうだな」とは感じたのですが、ゼミの仲間たちとも「とはいえ、これはどうやって使うのか?」と話題になっていました。
その日から Google の利活用を考えることが私の大学生生活になりました。
Google の利活用を探る学生生活で大きなキッカケとなった出来事はありますか?
実際の利活用はどのようなことからはじめたのですか?
2つあります。
ひとつは実際に使われている学校現場へのフィールドワークです。
生徒たちと活用している先生方の授業などを見学し、自分が拘っていた「授業観」「教育観」が違うのではないかと衝撃を受けました。
いわゆる一斉授業だけではない、協働がベースとなった授業などを見学したことで、ICTの使い方について自分の持っていた枠が壊され、広がった気がしました。
もうひとつはedcamp鎌倉です。
ゼミの学生がイベントのお手伝いとして参加したこのイベントも強烈な体験となりました。
今まで「協働」といえば「模造紙」だった自分にとって、 ドキュメントの共同編集を用いた議論の記録やコメントを用いたコミュニケーションを当たり前に使いながら、イベント準備および当日の運営をする先生方に「協働・共有ってこういうことか」と衝撃を受けたのを覚えています。
大学生時代のこの衝撃が大きすぎて、学校現場で働くようになってから、これを超える感覚はまだありません。
自分の経験からも大事なことは「体験し、実感すること」だと思います。勤務校でもその機会を作れないか、増やせないかと試行錯誤しています。
教職課程でICT利活用を学んでいる世代
卒業後について教えてください
野中ゼミで学んだことが生かせる環境で働きたいと考え、ICT環境が整っている学校を探して教員採用試験を受けました。縁あって千葉の学校に採用していただき、ICTを利活用した教員生活がはじまりました。
大学の教職課程で「ICTを利活用した教育」について学び、それを新任時代から実践できる環境は刺激的でした。様々な場面でICTを利活用した教育活動を実践し、自分が受けてきた学校の授業とは変わっていく実感を持つことができました。自分の実践に可能性を感じる反面、まだまだICT利活用が進んでいない現状に懸念も感じました。
そんな想いから、学校におけるICT利活用を日本中に広める仕事にも興味を持つようになりました。
学生時代から Google だけでなくロイロノートも使っていたため、応募したところ採用していただきました。
なかなか面白いキャリアですよね。ロイロ時代についてのお話を聞かせてください。
営業職として、日本中の学校へICT利活用を届けようと意気込んでいたのですが、コロナ禍となってしまいました。また、GIGAスクール構想が加速した時期も重なり、数年後に目指していた世界を1年後にはつくる仕事となり大変でした。
多くの先生方への授業支援にやりがいも感じていましたが、気がつくと「自分も授業がしたい」という気持ちが強くなっていました。
自分が実施する場合のアイデアが溢れ、もう一度「先生になりたい」という気持ちが強くなり、3年間お世話になったロイロを退職し、現在の藤村女子中学高等学校にお世話になることになりました。
教員としての再出発
改めて教員になって感じていることは何ですか。
学校は授業だけでなく様々な教育活動があります。それに伴って教員の業務も非常に多岐に渡ります。ICTの利活用に関しても「授業支援」だけでなく、そういった授業外や業務の利活用についても可能性を感じるようになりました。教員の仕事にはまだまだDXできる部分がたくさんあることを感じています。
前職では「いかにICTを使うか」「授業をどう変えるか」という視点だけでしたが、もう少し広い視野で学校を捉えられるようになった気がしています。
本校もICTの利活用が「ペーパーレス」を目的とするような段階から、「授業改革」「働き方改革」に変わり始めたことに少し手応えを感じ始めています。
日本の教育は変わってきていると思いますか。
まだまだ黎明期だと感じています。ただ自分が小学生だった20年前と比べて小学校はすごく変化した印象があります。それに比べ、中高はなぜかそれほどの変化を感じる状態にないことに疑問を持っています。
今の小学生が中高生になると中高の変化も加速するのか、この5年くらいが楽しみであり勝負だと感じています。
中学1年生の担任として感じていることはありますか。
大きな変化ではありませんが、小さな変化を感じていることはあります。例えば、Google での「共同編集」に関しては、私が大学生で経験したことが目の前の中学生で当たり前にできている。
しかも、小学校から経験してきた生徒までいる。そう考えるとやはり大きな変化の真っ最中であることを感じています。この黎明期の先にどんな時代を迎えるのか楽しみです。
制限を超えるテクノロジーの利活用
生徒たちと取り組みたいことはありますか。
探究活動 × 協働学習 × テクノロジーを形にしたいと考えています。
そして、その可能性と面白さを生徒に体験して欲しいです。
探究活動と協働学習については、いままでも取り組んできた学校は多いと思いますが
そこに「テクノロジーの可能性」を掛け合わせることで起こる変化を楽しんで欲しいと考えています。
どんな可能性が広がると感じていますか
いろいろな制限を打破できることが強みだと感じます。授業時間という制限、情報(教科書や資料)の制限、自分の頭だけという制限。テクノロジーの利活用によって、そうした制限を超えて授業時間外でも活動できる幅が広がり、情報は世界中にアクセスでき、オンラインで繋がることで他者と協働が可能になる。
そのことで生徒たちの「やりたい」と思うことがすぐに可能となる。
これは非常に重要だと考えています。
生徒たちのやりたい、やってみよう。は残念ながら長続きしません。熱が冷めるのがものすごく早い。
その熱を絶やさないようサポートするのが教員の役割だと思うのです。
対面でないと伝えられなかったことが、オンラインなら伝えられる。
明日にならなければ伝えられなかったことが、オンラインなら「いま」伝えられる。
明日にならないと取り組むことができなかったことが、今日から取り組む手助けができる。
もちろん、対面で伝えることの重要性は変わらないけど、テクノロジーで時間と空間を超えたコミュニケーションは、子供の学びの熱を冷めさせない重要なツールになるかもしれないと感じています。
生徒の「学びたい瞬間」を逃さない。
今までは生徒たちの「学ぶ瞬間」すら大人がコントロールしてきたのかもしれません。
ですが、生徒たちが自らの端末で様々な情報へのアクセスできるいまは、先生の見えないところにも学びは溢れています。
生徒たちのキラキラした「学んでいる瞬間」が教室の外で起こり始めている。
先生たちは寂しいのかもしれませんね。
最後にこれからの意気込みを教えてください
共有の文化を学校に定着させたいと考えています。
熱を逃さないのは生徒だけでなく、 先生方の教育活動の熱も逃さないように Google を上手に使いたいです。
そして、それを自分が先導できるように成長したいと思います。
佐藤 邦享
藤村女子中学高等学校 教諭(国語科)|GEG Tsuru|Google認定教育者Level2
都留文科大学 野中ゼミでICT教育の可能性を学ぶ。大学卒業後は千葉県にある私立中学・高等学校に勤務した後、株式会社LoiLoにて全国の学校にICT教育の紹介や研修を行う。今は現所属校でICTを活用した授業や前職の経験を生かした研修を実施。いつどこでも「学びたい」という気持ちを実現するツールとして、ICTの活用を進めている。