vol.12|好きなことに思う存分取り組める余白を大切に
2023年5月15日公開記事の再掲となります。
学校でのICT活用に訪れたさまざまな変化を、Google との出会いを切り口に語る本シリーズ。
今回はGEGメンターとしても活躍する名古屋経済大学市邨中学校・高等学校の中川琢雄先生にインタビューしました。
2005年に教員になったので、今年で教員生活は18年目です。
高校3年生特進コース主任をしながら、ICT関連を扱うシステム管理部、新しいカリキュラムを検討・構築していくカリキュラム検討委員会、新教科ワーキングチームなども兼務し、探究的な授業の構築などにも携わっています。
Google とわたし
中川先生と Google との出会いは何がきっかけだったのでしょうか?
2019年に六本木の Google オフィスで開催されたGEGLAND(GEG鎌倉が主催する Google ツールの研修会イベント)に参加したことが Google との出会いで、すごく印象的に覚えています。学校としてのICT導入は2017年から進めていたのですが、使用端末がiPadだったこともあり、研修会などへの参加も Google 系ではないものばかりでした。
ある学校でのICT研修会で湘南学園中学校高等学校の小林勇輔先生のワークショップに参加したことがキッカケでGEGLANDのことを知りました。
Tech系の研修会のはずなのに、ピンポン球を投げて遊んでいる。
ましてや Google やTechの話を全然しない。
なんて変わった人なのだろうと興味を持ち、なんだか面白そうだなとGEGLANDに参加しました。
当時は Google のことは全くといいほど知識をもっていませんでした。
持参した端末がiPadのため「Google サイトがつくれない」など、新たな環境への戸惑いもありましたが、それ以上に刺激的な1日を過ごすことができました。
このイベントでGEGという存在を知り、GEG名古屋のイベントにも顔を出すようになりました。
2019年末にはその流れでGEG関西Weekend(関西にあるGEGの合同イベント)へ迷わず参加したのですが、ここでも参加したのがマインドセットや評価の話がメインのワークショップで、Techの話を全くしなかった。
GEGの人たちがより本質的なワークショップを実施していたことに非常に感銘を受けたことを覚えています。
Google サイトをつくろう
実際の利活用はどのようなことからはじめたのですか?
本校付属の中学校ではプロのダンサーを招いて生徒たちがダンスをチームごとに教わり、文化祭でコンテストを実施するといった活動をしているのですが、コロナ禍でダンサーを学校へ招くことができなくなってしまいました。
そのような状況であっても、コンテストを中止にするのではなく、オンラインを上手に使いながら実施しようと考えた時に「Google サイト」の利活用を思いつきました。
作成した Google サイトのおかげで、生徒・保護者・ダンサーを繋ぐことができ、コロナ禍でもダンスコンテストを実施することができました。
この経験から Google の使いやすさと効果を実感し、様々な教育活動で利活用を進めています。
ただ、学校で Google アカウントを取得しているわけではないので、各自の Google アカウントを上手に利活用して運用をしています。
自分の学びにあったツールを取捨選択できるように
生徒たちにとって特定のツールだけしか使えないという状況は良いものではないと感じています。
様々なツールを使いこなせるようになった方が良いし、その中から自分の学びにあったものを選択・判断して使えるようになることは非常に重要だと思います。
そうした想いもあり、 Google のツールを利活用しています。
様々なイベントに参加して情報収集をされていますよね。どこにでも中川先生がいると話題です。
いろいろな場所に行くことが好きなこともあるのですが、コロナ禍のオンラインもあり、全国のGEGに参加できるようになりました。
イベントに参加することで全国各地で熱い先生たちがたくさんいることを知り、日本の教育は凄いと感じるようにもなりました。
その先生たちも「自由」に「好きなように」やっているわけではなく、様々な「できない」がありつつも工夫しながら面白いことを実践している。
そういう話を直接聞くことで刺激を受けますし、改善のヒントもたくさん得ることができる。
さらに悩みを共有できる仲間も増えていく。
とても楽しい時間を過ごしています。
生徒の「本当に好きなこと」に学校は入り込み過ぎない
いま取り組みたいことはなんですか?
大きな話かもしれませんが、中等教育の価値を作り直したいと考えています。
いまは多くの学校が「やることは同じ」で「目指すところも同じ」になってしまっているのではないかと感じることがあり、それでは面白くないと思っています。
例えば進学実績だけでなく、各学校の教育活動の価値を別のものさしでも観ることはできないのか。そして、そんな様々な価値を受け入れられる社会をつくることはできないのか。そんなことをぼんやりと考えています。
探究はその手段のひとつになるかもしれませんね。
そうですね。探究はレールがあるわけではなく、それぞれがどこに辿り着いても良い。
失敗しながら自分なりの答えをみつけていく。
探究のノウハウさえ、生徒が失敗しながら自分でつくっていく。
そんな「生徒の本当に好きなこと」については、学校が関与しすぎるのではなく
本人が思う存分取り組めるようにとっておいてあげたい。
生徒が本当に好きなことに取り組む探究は非常に興味深いです。
先日も「どうしたら前髪が崩れないか」を真剣に考える生徒がいました。
これを最初からアカデミックに寄せようとすると面白くなくなる。
生徒の「素」が出せるように、そして、やりたいと思わないと探究になりません。
”主体的にさせられる”
そんな探究にならないように気をつけています。
ここ数年、非常に多くの学校を視察させていただきました。
素晴らしい「探究」の授業を数多く見せていただいて、いますごく感じていることは「探究は各教科で」取り組むことが大切ではないかということです。
ここでもやはり「やらされる探究」にならぬよう、生徒がそれぞれの視点を持つことができるように気をつけています。
協業をスタンダードに
ICT利活用で変わったことは何ですか?
協働をスタンダード(当たり前)にしたのは Google ではないかと感じています。
今までの「協働しましょう」ではなく、ごくあたりまえに「協働」がある。
これは Google などICTのなせる業なのではないかと思います。
また「◯◯しなければならない」ではない別の選択肢をICTはたくさん与えてくれます。
生徒たちがTechを用いた多彩な表現方法を獲得したことで、我々も生徒の良いところを見つけられる機会が確実に増えました。
さらに人と繋がることも簡単にできるようになった。
その結果、協働できる人との出会いも増える。
我々の中高時代にこんな世界はありませんでした。
極めて閉じられた狭い空間だった学校が、ICTによって開かれるようになったのではないかと感じています。
これからについて考えていることはありますか?
自分の授業をより本質的なものにしたいと考えています。
授業を探究的に、歴史を学ぶことの意味とは何かについて、生徒たちと考えていきたい。
これから、いま、未来を生徒たちと考えていくうえでICTは大きな武器になると感じています。
もう少し大きな話をすると、学校でできなかったことをできる場に変えていきたいと思ってます。
様々な人に学校に関わってもらい、生徒が出会う人たちを増やして、新たな価値をつくりたい。
その先に、先ほど話をした新たな中等教育の価値が生まれるのではないかと期待しています。
GEGメンター(地域ごとにGEGリーダーをリードしサポートするGEGリーダー)として
ICTに関して、活用が得意な先生と苦手な先生のギャップに課題を感じています。
使う先生、使わない先生。
ここが固定化されてしまう流れを変えたいと思っています。
GEGメンターがGEGリーダーのその先にいる、まだまだICTを使いこなせていない先生方を見ることができるか。
その先生たちにGEGという場所を発見してもらうにはどうしたら良いのか?
「なんだか面白そうだから参加してみた」「楽しそうだから使ってみた」
そんな場をデザインできたら良いと考えています。
中川 琢雄
名古屋経済大学市邨高校中学校勤務・社会科教諭
GEG Nagoya共同リーダー | Microsoft Innovative Educator Expert 2021〜2023
2005年より中学校、2021年より高校勤務。中学社会科及び高校地歴公民を担当。言語技術を学ぶ「言語力・論理力」ワーキングチームリーダー兼授業担当。全国および海外の先生方と交流しながら、今とこれからの「学び」について模索中。先ごろApple Distinguished Educator Class of 2023の認定を受けた。