イワン・デニソビッチの一日 ソルジェニツィン
「朝の五時、いつものように起床の合図が鳴った…」で始まり、「一日が過ぎ去った。どこといって陰気なところのない、ほとんど幸せな一日が」という驚くべき言葉で終わる、強制収容所(ラーゲリ)の一日の物語。だがそこには濃密な「人間の日々の暮らし」が息づいていた……(グーテンベルク21あらすじ抜粋)
ロシア人とはこういうものなのかと思った。強制収容所の生活は極限状態のものとして描かれているが、あらすじの通り主人公シューホフに悲観した様子は見られない。
極寒の元、刑務の一環としてレンガ組み立てを命じられる。最初は嫌々であったものの職人気質の血が騒いでしまって時間一杯点呼に遅れてしまっても仕上げた場面には感動した。月は日々生まれ変わって空に上って来るので実は毎日別人なんだとした詩的描写も良かった。
囚人同士案外チームワークが良いんだなと思う反面、本文には「収容所で身をほろぼすのは、食器をなめる奴、医療部に行きたがる奴、それから政治将校に密告する奴」ともあった。怠け者や馬鹿はまだ許せるけどもといったところだろう。これもロシア人気質なんだと思った。
また、口で仕事をする人間(お偉方)は、生き抜く術を知らない軟弱者として描かれていた。別にソ連時代の共産党批判がしたいのみならず、しぶとく生きる庶民においては本当に弱々しく見えた事だろう。それくらいシューホフにおける不屈の精神とサバイバル能力には驚かされた。極寒の厳しい風土だからこそ育まれる生活の知恵があるのだろう。現代人はこの点だけでも一読の価値がある。