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てか私のこと何歳に見えてるよ?

 母の古いギターが見つかった。50年も前のものであろうし、なにより30年以上ゴミ屋敷のどこかに人知れず放置されていたのだ。それが案外、きれいな状態で発掘されたのだったーー。


 しかし見えないところに重大な破損(例えば虫食いとか)がないとも限らないので、楽器店に持ち込んでみた。すると、「この人なにをしに来たんだろう」と店員さんに訝しがられるほど、どこも「問題ない」らしい。うれしい。

 一応クリーニングを依頼して、弦の張り替えもしてもらい、思い掛けずもわずか数千円の出費でYAMAHAのカッコいいアコースティックギターを手に入れることとなり、今日の私は久々にテンションが上がっている。


 ギターはこれまでに数本、手にしてきた。どれもエレキだ。高校時代に買ってもらったゾウさんギターはかわいくてお気に入りだったが、軽音部の部室に置いてみんなで共同で使っていたら、結局、誰かに持っていかれてしまって、行方知れずのままだーー。


 アコースティックは「初めて」なのだなぁとしみじみ思う。ボディがデカくて抱えづらそうという理由だけで、昔から敬遠してきたのだった。楽器店に持ち込む前にチューニングだけしてみたが、エレキと違い、音の響きが美しくて驚いた。ワクワクする。「今度こそ!」という思いが一気に沸き起こる。ーーそうなのだ。白状すると私は、これまでにギターを数本所持してきたにも関わらず、いまだに「ぜんぜんギターが弾けない人」なのだ。

 母はあんなに才能があったのにねぇ。どうにも私は、父親の血が濃く出てしまったらしい。怠け者の血だ。どんなに努力しようとしてみても、毎度毎度、呪いのごとく足を引っ張られてしまうーー。
 しかしこれは母が使用していたギターだ。母の形見なのだ。ギターに乗り移った母の魂が、きっと私を励ましてくれることだろうと期待している。(※まだ生きてるけど)


 さて、前置きが長くなったが。(今さら本題に入ります)

「今度こそ!」と密かに意気込む私に、楽器店の店員が言ったのだ。
「ちなみにこういうクラスがあるんですが、よかったら」
 渡されたチラシには、『昭和歌謡クラス初回無料』とある。
「50代60代が中心メンバーでして、気軽に歌ったり踊ったりしてるんです」
 曲目は、ザ・ピーナッツ、ピンキーとキラーズ、沢田研二、尾崎紀世彦、森田公一とトップギャラン、etc・・・。誰だよ。何時代だよ。ぜんぜん知らんよ。てか私のこと何歳に見えてるよ。なぁ、何歳に見える!? (知るか)

 実年齢より10歳は老けて見られているということだろうか。白髪を染めていないというだけで、高齢者扱い(苦笑) ショックだね。世界は危険に満ちている。こういう「ちょっとしたこと」から女は恐怖を感じ、白髪染めを買いに走り、厚化粧をし、世間に媚びて、若作りモンスターと化してゆくのだろうな。他人の感覚に振り回されて、自分を見失ってしまうのでは情けない。冷静にならなければ。私が目指すのは昭和歌謡ではなく、ローリン・ヒルだ。アコースティックギターをかき鳴らすのだ。


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