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DIC川村記念美術館②

資産効率の観点から2025年3月末から休館予定となったDIC川村記念美術館。
先日私は箱根の七つの美術館のうちの一つを訪れたのですが、そこでDIC川村記念美術館との違いに気づいたのでnoteに記録します。


プライベート美術館の運営

実業家が絵画や美術品を蒐集してきたケースは多々ありますが、実業家の個人保有の場合、その死後に相続税が膨大になる可能性があるため、財団法人を設立し、そこで管理するケースもあるようです。
財団法人は「財産」について法人格が与えられるもので、中でも公益社団法人はその名の通り公益性の高い法人として扱われるようです。

DIC川村記念美術館は創業者のコレクションの所有は、約半分がDIC株式会社、残り半分くらいが創業者の所有ということで、DIC株式会社の株主の一部である投資ファンドが今回の件を指摘し、現在の決定に至っています。

箱根の七つの美術館の運営母体

箱根にはポーラ美術館、箱根美術館、彫刻の森美術館、成川美術館、岡田美術館、箱根ガラスの森美術館、箱根ラリック美術館があります。
それぞれの美術館がどのように運営されているのかネットで調べてみました。

ポーラ美術館:公益社団法人 ポーラ美術振興財団
箱根美術館:公益財団法人 岡田茂吉美術文化財団
彫刻の森美術館:公益財団法人 彫刻の森芸術文化財団
成川美術館:一般社団法人 成川美術財団
岡田美術館:株式会社ユニバーサルエンターテインメント
箱根ガラスの森美術館:株式会社うかい
箱根ラリック美術館:籏保全株式会社

七つのうち四つが財団制度、三つが株式会社の運営でした。
株式会社が運営する三つの美術館について株主構成をみてみるとこんな感じでした。

🔴岡田美術館を運営する(株)ユニバーサルエンターテインメントはパチスロをメインとしたエンタメ事業を展開する会社で、株主は1万6千人ほど、株主構成までは分かりませんでした。


🔴箱根ガラスの森美術館を運営する(株)うかいは飲食店をメインに運営しており、株主構成はうかいファミリーが一番多く、続いて国内鉄道会社や国内金融機関、国内食品会社が続きます。


🔴箱根ラリック美術館の運営は今年(2024年)4月までは(株)ル・ミューゼ・ハタでしたが、5月に同じ籏グループの籏保全株式会社に合併されています。((株)ル・ミューゼ・ハタは解散)
籏グループは映画やレジャー施設関連の会社のようです。

実業家が蒐集したコレクションの継承方法については、財団、株式会社が運営していくのとどちらがいいか一概には言えないですが、作品の価値を守るという意味では財産に法人格のある財団法人の方が安心なのかも、、、と思いました。

一大観光エリアとしての箱根

箱根はその自然(森や湖)、温泉、神社があり、交通インフラも整っており、一大観光エリアになっています。
今回、ポーラ美術館と立ち寄り温泉に日帰りで行ったのですが、交通の便もかなりよく、ロマンスカー→箱根登山電車→美術館専用バス→温泉旅館専用バスで全くロスタイムがなく場所場所を楽しめました。
この「ロスなく便利に楽しみ尽くす」というのは箱根町の取組や情報産業会社との連携で磨かれてきたものだと思います。
旅行者はそれを意識しなくても、便利で楽しい、しかも限られた時間にたくさんのことを楽しむことできているのです。(うまくできているな〜。私も次に行ってみたいところがたくさんあります。)

千葉の里山にぽつんとあるDIC川村記念美術館の意味

DIC川村記念美術館には箱根のような大掛かりな仕掛けはありません。交通の便も限られていますし、食べる場所でさえ限られています。
この美術館に行くためだけに向かうのです。

この美術館の所蔵品は、日本の他の展覧会で多い印象派の絵画より、それ以降の時代の特にアメリカ現代美術の作品が多く所蔵されています。
私はここでアメリカ現代美術を知り、そして好きになったのですが、初めて見た時は何をどう見たらいいのか分かりませんでした。何度か見るうちに「自分が好きな見方をして良い」と思うようになり、描かれている大きなものの中の一部を切り取って見たり引いて見たりするうちに、人の気持ちや他者やモノとの関係が想起され、作品をずっと見ていたくなるように変わっていきました。

🟢フランク・ステラ
《トムリンソン・コート・パーク(第2ヴァージョン)》
先日、これを見た時、自分の胸から不思議と息が長く吐き出されました。息はほぉっと長くゆっくり吐き出され、突然のことに自分でも驚きました。


🟢ロスコルーム
マーク・ロスコは生前から自分の作品が展示される場所にかなりのこだわりがあったようで、この美術館ではロスコ作品専用の部屋が作られています。
(ロスコ専用の部屋があるのは世界に三つか四つだけと言います)
このロスコルームに入ると、ステラ作品とは反対に、赤銅色の作品群に少し息が詰まりそうになりますが、私にとってはただその作品を見ているだけの時間です。

ロスコルームの素晴らしさは下記をぜひご覧ください。


🟢木漏れ日の部屋
緊張したロスコルームを出て2階に上がると、そこは2面ガラス張りの「木漏れ日の部屋」です。
2024年10月現在、西川勝人氏の《静寂の響き》展の一部として ガラス作品が壁に掲示され、床にはガラスのほおずきが配置されています。
部屋の入り口にあるソファに座り、ずっとガラスのほおずきを見ていると、光の入り具合でプリズムができる場所が少しずつ変わってくるのです。
チラッ、チラッと変わるような、目を離すとプリズムは消え、そしてまたいつの間にかプリズムができる、その繰り返しを見ていると気持ちが落ち着きます。一日中、ここに座って光の変化を味わいたいと思うほどです。
作者の西川氏が配置を試行錯誤して決めたのだろうと思うと、私も西川氏と一緒に配置のアレコレをやってみたい、直接ご本人と会って光と作品について話したてみいと思いました。

箱根にある美術館と比べてみて分かったのですが、DIC川村記念美術館は、人間の内面を考えさせる作品が多く、また交通の便の悪さは 逆にこの美術館に行くだけに時間を使う贅沢さにつながっています。
ここは ほっとしたい時、ぼうっとしたい時、何かゆっくりしたいときに、一人で、または親密な人と訪れる場所なのではないでしょうか。
あれもない、これもない、だけど自分の落ち着くものがある、そんな場所があるから生きていける人もいるのではないかな。。
それがこの美術館の作品、建築、庭であり、それが一体となってできた価値なんだと思います。


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