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『赤毛のアン』で高円寺の夜を思い出した

『赤毛のアン』に夢中です、今。
 高畑勲、 近藤喜文、 宮崎駿という大好きな人たちが作った名作だと知ってはいたのに物語のあらすじすら知らなかったテレビアニメが毎週2話ずつ再放送されていて、月曜の楽しみになってます。敬称略。

 とりわけ好きなシーンがありました。
 カスバート家に引き取ってもらえると大喜びのアンだったのに養子に求めていたのは男の子だからと孤児院へ送り返されることになってしまい、馬車に乗せられ絶望の道を行く第4話。
 想像の話ばかりするアンにうんざりして、どうせ話すなら生い立ちを聞かせなさいと言うマリラ・カスバートに対し、それを拒否したアンは馬車を降りて走り出します。
 マリラの呼びかけに答えず、離れた場所でしゃがみ込むアン。馬車から降りないマリラ。草を食む馬。風が吹いて雲の影が草原を横切る。再び陽の光が射し、アンは空を見上げて流れる雲を眺める。ここまで1分以上の無言の場面。そしてアンは、立ち上がって馬車へ戻ります。
「ごめんなさい、おばさん。もう大丈夫。すねたりしないわ」
「私も悪かったよ。あんたの気持ちも考えないで」
「あたし、おばさんに自分のことを話すわ。始めからありのままを全部」 

 10年以上前のある夜、高円寺に居ました。
 自主製作の映像作品を上映する小さなイベントに友達が出品していて、短編映画やら悪ふざけ動画やら玉石混交の中、彼女のは明らかに他の参加者とはレベルの異なる実験的な映像作品で、当時アルバイトをしながら脚本家を目指していた私はコンクール用の脚本執筆を先延ばしにしていたこともあり、同じ大学を卒業した同級生が働きながら自分の作品を完成させ発表したことを大いに尊敬し、ちょっとだけ劣等感を抱いたイベント終了後の居酒屋にてその友達の飲み友達の年上女性に言われた言葉を、『赤毛のアン』で思い出しました。ああ、長い前振り。

「腹立ったことは3日で忘れる」
 どういう話の流れだったのか忘れてしまったけど、その女性が言いました。いつまでも根に持つのはどうかと思うし、かと言って一晩寝れば忘れるなんてのは信用できないでしょ、と。
 私は切り替えに時間がかかる質なので、それはそれは心から同意しました。頭では納得してても気持ちが治まらないとか、感情の整理はついてても理性が待ったをかけたりとか、そういうことが度々あるので。時間が必要なんです。世の中にはすぐに結論を求めてくる人が多くて、もちろんスピードが大切な場面も多々あるけれど、できれば待ってほしい。

 マリラはアンを待ちました。追い掛けることなく、アンの背中を見つめたりもせず、馬車の上で前を向いて待っていました。おかげでアンは一人になって風に吹かれて、自らの意志でマリラのもとへ戻れたのです。マリラ素晴らしき。
 態度の転換には時間が必要だというのはドラマ『リテイク 時をかける想い』の第2話と『捜査会議はリビングで!』の第5話で書いたのですが、その考え方の表現の仕方の正解が、『赤毛のアン』にありました。

 ちなみに5月4日現在、『赤毛のアン』の再放送は第10話まで進んでます。これをnoteに上げるまで3週間かかりました。時間が必要なんです。

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