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夢日記「恋人ごっこ」

ゆるやかな長い階段を降りた先。開けた道路の奥には広々とした公園と大きなカフェがあり、犬を連れて散歩をする人や、公園を走り回る子どもたちがたくさんいた。

焦茶色のウッド調のそのカフェには大きな入り口があり、活気と穏やかさが入り混じっていた。テラス席には、この晴れやかな休日の午後を、静かに愉しんでいる人たち。ゆっくりとそれぞれの時間を過ごしていた。

私たちはカフェに続く道を足早に歩き、長い階段を降りていた。彼がとんでもなくくだらないことを楽しそうに話して、私はそれを笑いながら聞いていた。

小走りでカフェに入り、私は迷わずホイップクリームが溢れんばかりのワッフルサンドを注文した。あれだけ甘いものが食べたいと言っていたはずの彼は、あろうことか野菜が沢山入ったクラムチャウダーを頼んでいた。

「甘いの食べるんじゃなかったの?」
「だってお前、そんなでかいワッフル頼んだら絶対残すやん」
私を見つめる彼の眼差しが愛おしかった。

雨上がりの空は曇りひとつなく綺麗に晴れている。あたりに落ちた水滴に光が反射して、私が見た世界は煌めいていた。やわらかな日差しが、午後の公園を優しく包んでいた。


ふと目を覚ますと窓の外は薄暗くなっていて、やけに静かだった。隣で寝ている彼の静かな寝息が心地良い。
冬のような冷たい空。それなのにいつまでも沈もうとしない太陽が、春を呼んでいる気がした。

隣で寝ているにも関わらず、夢にまで出てくるとは。なんだかおかしくなった一方で、彼と過ごしている今だけは、心の靄が何ひとつなくなっていることに気がついた。彼の寝顔を見つめる私は相当穏やかな顔をしていただろう。張り詰めた空気感や、葛藤から解放されたような君の優しい寝顔。私のそばにいる時は、どうかそのままでいてほしい。

何も気にすることなく、だらだらと過ごした彼との時間は、私の心をとても穏やかにした。
夜ご飯を食べに行き、普段は頼まない豪華なパフェを注文した。彼は小さなデザートを注文していた。

「なんでそんな小さいのにしたの」
「だってお前、そんなでかいパフェ頼んだら絶対残すやん」

この会話のやり取りがあまりにも自然すぎて、夢を見た時も同じ会話をしていたんだよ、なんて嬉しそうに報告する方が馬鹿らしくなった。
だから私の心の中に、その束の間の幸せをしまっておくことにした。

案の定、期待以上の甘ったるさだった豪華なパフェにしてやられ、残りの半分は彼が食べてくれていた。

隣に広い階段があるというのに、脇の小さな小道を2人で笑いながら駆けて駅まで向かった。

「さみしいんやろ?」

彼は冗談混じりで別れ際に聞いてきた。さみしいよ、と返事をしたけれど、私の手をぎゅっと握りしめる彼の手は、まるで迷子になった子どものように物憂げだった。

彼の姿が見えなくなるまで何度も手を振った。
もう君とこんな時間を過ごすことは到底無理なんだろうなと思っていたけれど、私が考えすぎていただけだったのかもしれない。

普通だったらこの状況にもどかしさを感じても良いのかもしれないけれど、私は今の関係性に十分満足していたりもして。だって穏やかなんだもん。うさぎと一緒にいた時なんかより、全然気持ちは穏やかで。

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