当たり前のことを、当たり前にやって、まちから信頼される仕事をしないといけない。それが一番大変なことなんだよ。
ぼくが人生の先輩と勝手に呼んでいる栗下さんという70過ぎのおじさんがいます。
焼津駅前通り商店街を含んだ自治会の元自治会長で、神社のことをやったり、お祭りのことをやったり、この地区でなにかあれば「とりあえず栗下さんに相談しよう」と言われていて、地域の有力者とはこういうひとのことを言うんだといつも感じています。
栗下さんは「さんかく」の近くで、Kurisanchiという雑貨屋さん&駄菓子屋さんを4−5年前から営んでいて、子どもも親世代もおじいいちゃん、おばあちゃん世代も集まる地域の居場所になっています。
Kurisanchiの運営自体は娘さんがされているのですが、栗下さんは毎日のように駅前通り商店街に来ては、そこを通る人とあれこれ話をしています。
そもそも「さんかく」をつくるときにも、大家さんとの仲介に入ってくれたり、工事をする業者を紹介してくれたり、全面的に協力をしてくれて、オープンのときは「うれしいなぁ、よかったなぁ」と自分のことのように喜んでくれました。
栗下さんは、「さんかく」にも毎日のように寄ってくれて、お客さんがいない時間帯に、商店街の昔やこれからの未来の話、地域の政治の話、周辺の空き物件の話、新しいビジネスのアイデアなど、いろんなことを話します。
ぼくは就職をしたことがないので、もちろん上司がいたこともありません。そんなぼくに人生や仕事、まちのあれこれを教えてくれたのは、紛れもなく栗下さんです。意見を押し付けるわけではないんだけど、「それはよくないよ」とさり気なく教えてくれたり、ハッとした経験が何度もあります。
言うなれば、自分のなかに「栗下語録」があって、栗下さんに言われて、ハッとした言葉は自分の胸のなかに刻むようにしています。そんな栗下さんの口癖は「若い人の意見をもっと聞かないといけない」で、ぼくらの声や意見にもじっと耳を貸してくれます。
今日も栗下さんと話をしていて、「さんかく」の今後の事業展開の妄想をいろいろと相談していました。
「ブックホテルをつくってみたい」「このまま古本屋をやってみたい」とまらないぼくの妄想を一通り聞いてくれたあとに、栗下さんは静かに「どひちゃん、奇抜なことをするのもいいけど、それは続かないことの方が多い。当たり前のことを、当たり前にやって、まちから信頼される仕事をしないといけない。それが一番大変なことなんだよ。」と言ってくれました。
この言葉が自分のなかにずしんときて、しばらく考え込んでしまいました。ぼくはすぐに新しいことをやってみたくなる性格です。ただ、そればかりでは疲れてしまうし、一時的な盛り上がりしかつくることができません。
まちにとって重要なのは「日常」で、それを当たり前につくっていくことが、いかに大変なことであるか。本当に当たり前のことなんですが、よく忘れてしまう自分...。
栗下さんからは「どひちゃん、初志貫徹じゃないといかんよ。」とも、よく言われます。初志からすぐにブレてしまう自分は、まだまだ師匠の教えを乞わないとダメだなぁ(笑)
こうして自分に言ってくれることをありがたく感じながら、最初の志を忘れず、まちの豊かな日常がつくれるように、改めて励んでいこうと思うのでした。