こうして私は80日間【犬のインド】を撮った ②
Photo&text=Akira Hori All rights reserved
2024/08/12更新
インドで私はぼんやりと犬を撮っていた。
前回の話を一行でまとめなさいと言われたら、そう書くことになるだろう 。
ぼんやりと犬の写真を? 読者の皆さんは、「堀らしくないぞ」と違和感を抱かれるかもしれない。なにしろこのnoteの書き手は「2本足の犬」を自称しているくらいなのだから(笑)
5度目の撮影旅行は6カ月間に及んだ
最初に言っておこう。
今回の旅はこれまでとは大きく様変わりした、と。
まずタイの熱帯雨林でトラの気配を追いかけ、バンコクからコルカタへ飛んだ。
アッサム州のサイの保護区を皮切りに、トラ保護区をいくつか巡った。
カシミールやダージリンなどを除き、インド亜大陸をほぼ1周した。
動物保護区を回りながら、合間に犬を撮るというスタイルを貫いて旅を続けた。
(猫も撮影したが、インドでは限られた地域でしか猫を目にすることがない。)
ケーララの犬
この旅の中では犬の生活ぶりをじっくり観察することもできた。
南西部のケーララ州は特に印象的な土地だった。
アラビア海から風が吹き抜ける海岸。
その海岸沿いには、 生い茂るココ椰子の風景が広がっている。
高原や滝。野生動物保護区がある。
水郷地帯、バックウォーターの中継地点として多くの観光客も立ち寄るクイロンでは、 野良犬が走り回っていた。 3〜5頭で群れをつくる犬たちもいた。
カメラを向けるとそのうちの1頭が興味を示したようだったが、その表情は少し固い。 私を警戒しているのかもしれない。
チャイニーズフィッシングネットという 面白い漁法がある。
これは ケーララ州のコーチン近郊にだけ見られるもので、その昔中国から伝わったとされている(ポルトガルから伝来したという説もある)。
重石をつけた丸太を数本使って組み上げ、先には大きな網を張るという大仕掛けを用いて、海中に網を落とす。魚群が通りがかるタイミングを見計らって丸太を持ち上げる。すると魚が 一網打尽になるという、いたって原始的な漁法だ。
この海岸には、岩場に子犬を隠しながら時々浜辺に出てくる犬がいた。
この母犬は育児の最中だ。
岩穴の中を覗いてみた。出入り口はすこぶる狭い。しかし奥の方には子犬がくつろげるだけのスペースがある。この巣穴は、子犬の安全を確保するための母犬のアイディアの賜物とも言うべきものだ。探し当てるのは楽ではなかったことだろう。
私はさらに南下して、州都トリヴァンドラムを経て、コバラムビーチに出た。
この辺りは暑すぎず寒すぎず温暖で過ごしやすい。つい長逗留になった。
ビーチに出るといつも犬をチェックしていた。
飼い犬を散歩に連れ出している欧米人を見かけた。話しかけてみるとドイツから移住しているという。 その婦人はスパニエル系の犬を連れていた。ストリートドッグと自由に遊ばせるんだと頬を綻ばせていた。
ケーララ州では、イギリス人たちで構成するアニマルレスキューが活動していた。
目的はストリートドッグの医療だという。不妊手術を施したり、感染症の予防接種を行なっているのだ。
犬たちの多くが交通事故など路上でのアクシデントに見舞われる。重態になったり、歩行障害が出たりするが、治療を受けることなく死ぬまで苦しむ。
こんな話を、私はメンバーの1人のTaffから聞かされた。
パッと見では、自由気ままに暮らしているかのような野良犬たちだが、 現実は厳しいのだ。命にかかわるリスクと常に隣り合わせだ。
この話は『ここまでわかった犬たちの内なる世界』の「野良犬も人間の意図を見抜く?」でも書いた。
デカン高原の犬
トラの生息地を巡る旅をしているおかげで、 観光地をめぐっているだけでは、決して垣間見ることのできない辺境地の人々の暮らしにふれることもできた。そうした辺境地にも犬が生活している。
ここの犬たちは、別の意味でのリスクと隣り合わせだ。
出稼ぎ季節労働者になった動物カメラマン
私はこの旅では、かなり目的意識的に犬を撮影するようになっている。
なぜ、私の犬の撮り方が変わったのだろうか?
この疑問に答えるためにはタイムラインを2年ほど遡らなければならない。
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