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ショートショート|ドローンの見たもの

【ドローンの見たもの】

ある秋の早朝、2階の寝室で寝ていた私は寝つきが悪くなんとなく目覚めた。辺りはまだ青暗い空の色をしていた。ふと外に目をやるとドローンのようなものがコツンコツンと窓に当たる。微かな隙間から入ろうとしている。私は、ぼーっとした頭で手助けをするかのように窓を少しばかり開けた途端、空飛ぶ物体が勢いよく部屋を旋回し、宝物を飾っている、いわゆるコレクター部屋に行くのが一瞬見えた。
今の出来事は夢なのか、現実を信じられないまま、先ほど少し開けた窓の外に目をやると草むらを全速力で走って逃げようとする黒い人影を発見した。急いで夫を呼んだ。しかし説明する間に逃げてしまうと咄嗟に思い、
「後で説明するから外の男を捕まえて!!」と叫ぶ。
 私は先ほど目の当たりにした残像を信じ、コレクター部屋の扉をさらにガッと開ける。そこには何かを粗探しする、”空飛ぶ物体”が、やはり存在していた。ふざけんなという気持ちで空飛ぶ円盤の首根っこを掴み、わけもわからぬままその物体の脚を捥いだ。すると横にマイクロSDが取り出せる小さな入り口を見つけ、踠こうとする空飛ぶ円盤を押さえつけながら荒々しく取り出した。ここに何かの証拠があるような気がした。ウインウインウ、イーン・・・_と弱々しく、力尽きた空飛ぶ物体。ほっとしたのも束の間、激しい口論が1階から聞こえてくる。ドタドタドタと階段を駆け上がってきた180センチの不審な男が、自分の前に現れた。
「こいつに間違いないから早く!!捕まえてくれ!!」と夫が叫ぶ。
 148センチの自分がこんな大男を捕まえられるか!と思いながら、目をやると、男は目の前に倒れている空飛ぶ円盤をすかさず手に取り、やはりマイクロSDを確認し、それがないことに気づくとキッと私の方を睨みつけた。マイクロSDはどこだと言わんばかりに、両手を広げ私に襲いかかろうとした。すかさず夫が大男を羽交い締めにし、やっと捕まえた。
「すぐに警察を!!」私は震える手でスマホを持ち、警察を呼んだ。

 15分後だろうか、二人の警察官に続き、三人の若手警察官も遅れて到着した。しかし、おかしなことがある。この状況にもかかわらず、警察は手錠をかけない。何やら奥で揉めているようだ。若手三人の警察官に見守られながら、わたしは男をずっと押さえつけていた。なぜ自分がずっと押さえつけないといけないのか・・・と思い、イライラしていた。
「あの、そこの警察官の皆様、なぜ早くこの男を逮捕しないのでしょうか。納得できる説明してくれませんか」
 私は普段、どんな嫌なことにも耐えられる耐性があるが、明らかに間違っていることには到底我慢できない。1人の30代前半の男性警察官が、けだるそうに電子タバコを片手に言う。
「今、最終調査と確認してるんで、もう少しそのままで。」
全然答えになっていない。全く納得できない。他の2人の警察官を目にやると、もうどう見ても状況を判断できていないような気弱な新米だったため、ベージュのコートを着た探偵風の男に声をかけた。
「いったい、なぜ、自分がこの怪しい男をずっと押さえつけなければいけないのでしょうか」
「おそらく、この人が犯人だと思うのだが、裏付ける証拠が見つかっていないんですよね」
「いや、証拠とか後でいいから、とりあえずかくまってくださいよ。」
「まぁまぁまぁ、もう少し待っててくださいよ。」
 ・・・なぜだ。なんで早く捕まえないんだ。納得できないまま、男を掴む手にぎゅっと力を入れると、大男がうぅっと唸った。

 どれくらいの時間が経過したのだろうか。押さえつけることにだんだん慣れてきたので、私はなぜか気分よく鼻歌を歌ってしまっていた。そうでないと苛立ちでどうにかなりそうだったのか。それにしても、あのマイクロSDのことがとても気になる。あそこに何が入っていたのか。コレクター部屋にはいろんな宝物があるが、自分にとって価値があるというだけで金目のものは何もない。何を探していたのか、いや何かを映そうとしていたようにも見える。
 数分間だったろうか、数十秒だっただろうか、押さえつけていた男に目線を落とすと、なんと握りしめていたのは、硬い男の形をしたラバースーツだった。
「ぬ、ぬけがらだ!!」
 ルパン三世でしか見たことない謎の抜け殻が目の前に怪しく存在していた。警察官たちがいっせいにばっと立ち、「誰もここから出るな!!犯人が逃げたぞ!」と叫んだ。吹き抜けで1階の様子を見ると全窓、全ドアの前に警察官がいる。そして2階の窓、ドアの前にも警察官たちで溢れている。もし自分が犯人だとしてこの状況に置かれるのだとしたら、警察官に紛れた方が逃走可能だと思った。

 私の自宅の間取りはとても変わっている。新築で地元のハウスメーカーに頼み、デザイナー物件としてモデルルームにもなった邸宅だ。こだわりはなんといっても、1階、2階の間にある1.5階だ。1階はリビング、お風呂、和室などで成り立っており、1.5階にキッチンバーがある。場末のスナックのようなカウンターに憧れ、お酒も並べている。1階や2階から1.5階のキッチンバーへは一方通行になっており、窓などはない。2階は2つの寝室、宝物などを置いている趣味部屋1つがある。
 正直言って、完全密室に近いこの状況。さぁどうするのか。警察は頼りになるのかわからない。もう自分で見つけるしかない。この状況で犯人は逃げると思うが、もしかしたら、マイクロSDが命より大事なら、私に接触するだろう。間取りは私がよく知っている。1つ1つの部屋を見て違和感や不審なところがないか確かめていこう。
 まずは奥の寝室。主に警察官たちの調査部屋となっているので、ここに紛れるわけがないと思うほど、限られたメンバーでパソコンやらよくわからない機械で通信しているようだった。映画「交渉人」でよく見るシーンのようだった。だが、そもそも人も死んでいない、いち一般人の部屋に謎の男が住居侵入、空飛ぶ円盤(おそらくドローン)侵入のプライバシー的な罪にとどまるはずなのに、こんな大事になっているのが不思議だ。きっと国家関連なのだろうか。頭の中の一人議論が止められないまま、他の寝室へ移動する。
 ここは、警察官たちが少し休む場となっているようだ。お茶や軽食が用意されている。全然構わないが、何が起きていて、なぜすぐ逮捕しないのかなど一般人に秘密にしていることで優越感に浸っているような雰囲気がある。やはり国家秘密関連なのだろうか。。。 宝物部屋にはテープが貼られており、人の気配はない。第一、私の大事なコレクションなのだから本当は誰にも見せたくないし、盗まれたら嫌だと思う。隠れられる場所はないので、そっとドアをしめ、鍵をかけた。
 そうすると残りは、1.5階と1階だ。これまでは警察官だらけだったが、ここからはさらに念入りに探す必要がある。心のどこかで180センチの男の顔がうっすら記憶に消えていった感じすらある。どんな顔をしていただろうか・・・
 もともと今日は朝から1.5階で顔の知れた仲間に料理などを振る舞う予定だった。気が付けば、いつの間にかそのパーティーは始まっており、警察官などをよそに飲み食いを楽しんでいるようだった。本当は私が手料理を振る舞う予定だったが、他の知人が料理をすでに振る舞っており、楽しく飲んでいるようだった。
 この中に180センチの男がいたらかなり目立つだろうなぁと思いながら、目をやるとやはりそのような長身の男はいなかった。しかし、5人の知らない男女を見つけた。近づいていくと、3人の男はいずれも小柄で挨拶をしたときに1回だけ会った事がある顔見知りだったが、残り2人の女性は完全に初対面だった。挨拶がてらさらに近づいてみる。
「こんにちは。今日はありがとうございます。少し野暮用で警察官がいますが、気にせず飲み食いしてくださいね」
「えー今日は警察官の方々もゲストかと思ったら違うんですね」
 なんと、この状況まで私が用意したと思われていたことにびっくりした。まぁ、そんな感じですと笑って見せた。お酒はいくつか振舞われており、シャンパンなどもかなり減っている様子から、だいぶ前から開催されているようだった。もう一人の女性を見ると、なんとなく惹かれる雰囲気を持っていた。綺麗なのか、可愛いのか、魅惑的なのかわからないが、なぜか惹かれる。向こうも自分の方を瞬きせずじっと見ていた。その瞬間、私はすっと血の気が引いていくのを感じた。頭の中では走馬灯のように犯人の顔をハッと思い出した。・・・目だ。あの男と同じ目をしている。はっきりした二重で目の色が茶色がかっている。カラコンだろうか、いや目の縁が自然の色だから違う。150センチ台の小柄なその女性は青いシフォン素材のワンピースを着ている。180センチの身長が本物だとしたら、この背丈はかなり厳しい。だが、元々この身長だったら、180センチの男の姿で誤魔化せることはできなくもない。あぁ、確かめたい。抜け殻のラバースーツのところにあった靴がシークレットブーツになっているのかどうか確かめたい。でももう、無理だ。仮にこの女性が犯人だとして、仮に今私が気づいたことに彼女は気づいていたとしたら、目を離せば必ず逃してしまう。とにかく、この女性をマークしようと決めた。

「今日はどうしてうちに?楽しんでますか?好きなお酒があれば用意します」
 好印象を心がえ、笑顔で話をかけた。
「ありがとうございます。とても面白い空間で楽しんでますよ」(面白い空間?空間?空間なんで普段言うか?)
「それはよかったです!」
「まだ朝なのに、夜みたいで、、、あ、それはもう飲んでるからですね。アハハ」と愛想よく笑っていた。(いや、もしこの人が犯人だったら相当な演技だな、逆に笑えてくるわ)私も笑みをこぼしていた。

すると、彼女の後ろに見える廊下の角から、警察官の服がチラと見えた。あぁ、やっと気づいたのか警察官も。絶対この女性だ。だけど、この位置だと奥に追い詰められない上に、マイクロSDのこともあるし、私が人質に取られる可能性もある。この女性との立ち位置を自然に変えないといけないし、この警察官もそれを待っているのがわかる。そこでぴーんと作戦を思いついた。

 「今日の服、すごく素敵ですね!青のシフォン?のワンピースですか?ちょっと明るいところで見たいな!」とすっと腕をひき、立ち位置を交換することに成功した。腕を掴んだまま、警察に合図を送る。しっかりと伝わったようでスゥッと警察官がこちらに歩いてきた。

「●●さん、国家機密なんちゃらかんとかで逮捕いたします。」
 その瞬間、女性は「何かの冗談ですかね?」と笑った様子。だが、変装前、変装後、体の特徴などの証拠写真を見せつけられると引き攣った顔になった。握った腕をそのまま、警察官へ引き渡し、すれ違いざまに女性がニヤリと笑ったのが見えた。その後、手錠をかけられた女性と警察官の背中がブルーライトに黒い影となっているのを見つめ、姿が完全に消えたところでやっと安堵した。

その後、警察官に説明されたこととしては、犯人は小柄な男性であったこと(顔は目以外誰やねんお前と言葉が出るほど、異なる顔だったが)、そして国際指名手配犯で国家機密を盗み、他国へ情報を流し大金を得ていたことがわかった。警察に押収されたマイクロSDは中身を見てみたが何も録画されておらず、おそらく取り出したと同時にデータが消えたと説明された。自分のコレクター部屋には何かを示す暗号のようなものがあったようにも思えるが、何も意味がなかったようにも思える。だけど、あの時犯人が必死にマイクロSDが取り出されているかどうかを確認した必死な顔は、まるでやばい情報を誰かに取られてしまうことを恐れているかのような顔だったようにも思える。私としては、知らぬ間に自分のコレクター部屋に何か国家機密が隠されていたならば、すごく特別な感じがしたが、この一連の騒動や危機感、恐怖などをすぐに思い出し、良い迷惑だとも思った。それにしても、小柄な男が、大柄男に変装し、さらにその後小柄な女性に変装するなんて。警察がすぐに逮捕できないほど混乱したのも納得だった。しかしいくつかのこと、マイクロSDが写したものによって誰がどんな不利益を得て、誰が微笑むことになるのかは未だ謎に包まれたままだ。2階窓から見える空き地の伸び切った新緑がいっせいにさらりと風でゆらめくのを感じた。

ーーーーという、夢を見た。どなたか考察が欲しい。
ちなみに家の間取りや犯人の顔などは結構リアルで絵にかける。描いたらどうなるのかわからないくらい怖いので、希望があれば描くことにします。
2024年10月9日 毒ぐまちゃん


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