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芋洗いの子猿


 実は、ポテチとかいふものにあまり興味がない。
 友人宅で皿に盛ってあると、多少つまんだりはするので、嫌いというわけではない。ただ、何十年来、自ら買ったことはない。
 そういえば最近では、「サッポロポテトバーベQあじ」を一袋やったろうという気概がない。それにつけても、おやつにカールを学校のストーブで焼いてから食べるのは大変結構でしたな。
 手元にあっても良いと思えるもの、それは。
 かっぱえびせん。
 もう大人だからね、やめられるし、とめられるよ。でも特別なの。


 子供の頃、入院していたことがある。
 塩分制限、というのがあった。
 四角い乾燥麩が、薄い砂糖味だけで煮付けられてある。
 いっそ、ひたひたに甘くして、デザートレベルにしてくれればいいと思うけど、これをおかずに飯を食えという。
 ほえええ。小学一年生、涙目。
 食べないと治らないよお家に帰れませんよ、と脅されて、吐きそうになる。
 そこでライフハックとして身に付くわけだね、息を止めたままで飲み込むの術。
 おかげでいまだに乾燥麩が食べられない。吸い物に入っているクルクルしているやつも無理。
 金沢へ出張した折、後輩が「有名なお麩料理の店に行きたい」と言う。わたしだけオフでお願い、というわけにもいかず、丹田に呼吸を沈めて覚悟を決める。
 今夜一晩息止めたる。
 いやそれがね。
 生麩って別世界じゃないの。
 麩、という文字に徹底して背を向けてきたので、生麩があるなんて知らなかったのでございますよ。
 麩饅頭とかもう最高。


 小学一年生に戻ろう。
 途中から、長期入院の子供達を対象とした病棟へ移った。性別も学年も病名も違うお子たちが、わちゃわちゃと共同生活をするのであった。勉強とか、まあそれなりに遊んだりとか。
 塩分制限は、病状に応じて緩くなってくる。おやつのおかきが、重い子は1つだが、軽くなってくると5つ、となるのである。5つもらえた子は、そのうちの1つを看護婦の目を盗んで隠しておいて、上級生に差し上げたりなどするのであった。
「ささ、お代官様、お一つ」
「おお、穂音屋、お主もなかなか、悪よのう」
「ふひひひひ」
 かようにして、お子は成長するものである。


 もうすぐ退院、となると外泊が許されたりなどする。
 この機会を見逃すわけにはいかない。
 その日、その子は、物資の密輸に成功したのであった。
 食事制限の無い子供達には、計画は伏せられた。
 真夜中、同室の子が寝静まった中、3人のお子が一つのベッドの中で布団をかぶって息を潜めている。
 出でたるは、黄金の菓子かっぱえびせん。
 頭領のお子が、恭しく一つ取り上げると、傍の水を入れたコップの中で振り洗いをはじめた。
 涙ぐましいではないか。
 塩分を多少とも、落とそうというのである。
 かくして、3匹の子猿は、布団の中で粛々とかっぱえびせんを洗っては食べ、洗っては食べるのであった。


 その後、小一にして出席日数ギリで留年しそうなのを、すんでのところで回避し、成人すると憑きものが落ちたように元気になり、勢い余っていけいけどんどんで働きすぎて倒れましたが、今では普通にかっぱえびせんを頂いております。

 あの時みたいに黄金色はしていないけどね。





 拝啓 あんこぼーろさんの企画に参加しております。

 いつもながら、ステキな企画ですね! あんこぼーろさん、ありがとうございます!