長夜の長兵衛 (3) 雑草 #1分マガジン参加作品
長兵衛は、ひどくその河を渡りたかったのだが、数日ばかり足留めをくらっていた。
増水しているのだという。
水面を遠くに眺めながら、雑草の生い茂る河原を散策して過ごした。小さな花を見つけ、その色や形がさまざまであることを知ると、最早雑草とは呼べなくなった。
石ころも、手触りや重さ、ちょいとお天道様にかざした時の光の加減など、一つとして同じものがないのだ、ということがわかった。ここへ来た当初、手持ち無沙汰にぽちゃりと放り込んで、周りの人々から無言の非難を受けたのは、そういった理由だったのであろう。
ねじのように巻くうす紅の花の側に、石を並べたり、積んでみたりなどした。これで最後の一個、というところまでくると、決まって崩れてしまう。熱中するあまり、渡し舟が出てしまったのに気づかなかった。
不思議と、残念だとは思わなかった。
あちらの岸に着いた爺さまが、こちらに向かってにこりとした。
お主の舟は、まだまだ先であろうよ。
そうか。わしは。
そんなわけで、神棚に、一つ石が置いてある。
むかしむかし、長兵衛の袂に入っていたものである。
あのうす紅色の花びらは、うっかり、洗い流してしまったやもしれぬ。
<了>
illust AC No. 22752865
この作品は、長兵衛が小牧幸助さんのところへお邪魔させていただきました! ほっこり企画、ありがとうございます。
小牧さんのショートショートは毎晩のお楽しみです。あなたも、そうですよね。