株式会社リストラ
彼は絶望した。
とぼとぼとビルの屋上。
なけなしの休日。
「こちら株式会社リストラプップップー、ガチャ」
電波状況が悪いようだ。
リストラ代行で悪名高い会社から。
自分に。
ウエーブした黒髪の女が訝しげに見ている。
「早まるんじゃない」
ポアロに憧れる警部は、向かいのビルの屋上から叫ぶ。
上司も面と向かって言えなかったのか。
靴を脱ぐ。
この仕事に生涯を捧げるために禁煙したのだけれど。
最後の一本。
ウエーブした黒髪の女が火を差し出す。
「鳴ってるわ」
「いや」
「話は最後まで聞くものよ」
気圧されて、彼は携帯を出す。
「こちら株式会社リストランテ・ファンタスティコです。あなたを当店のチーフにと、推薦が」
タバコが、涙が落ちる。
座り込む真っ白な脳細胞。
「シェフ、おめでとう」
「どうしてそれを」
「両腕に火傷。料理人の勲章でしょう」
女は左の第十一肋骨を引き抜くと、ライターをしまって元に戻した。
「では、ごきげんよう」
彼女の名は、名探偵コスティーナ。
<了>
(406字)
「名探偵コスティーナ」でお題十本、何とか完走できました!
ご覧くださってありがとうございます。読み切りなので、どこからでもお楽しみいただけます。けれどけれど、順番にご覧いただくと、「登場人物のおかしみ」が感じやすいかもしれません。また、「コロコロ変わる名探偵」は、最終がオススメでございます!
1.アナログバイリンガル
2.しゃべるピアノ
3.金持ちジュリエット
4.数学ギョウザ
5.君に贈る火星の
6.空飛ぶストレート
7.1億円の低カロリー
8.違法の冷蔵庫
9.株式会社リストラ
10.コロコロ変わる名探偵