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金持ちジュリエット


 ジュリエットの元に脅迫状が届いた。
「三千万円準備しろ」
 目に入れても痛くない孫娘が拐われたのだ。

「そんなお金はありません。でも何でも差し上げますから、孫娘を返して」
 さめざめと泣くジュリエット。
「主人は、困ったことがあれば黒い金持ちを探せと言い残しました」
 ポアロに憧れる警部は、勝手にお仏壇を覗き込む。
「ぼた餅がある」
「それは主人の好物で」
 警部はしつこくお供えものをいじくりまわす。金持ちとは、金の餅の隠語だろうか。真っ白な脳細胞が囁く、お前はいつだって棚からぼた餅。

 ウエーブした黒髪を風になびかせ、一人の女が庭先に現れた。
「目の前にありますわ」
 優美な弧を描くナイフを取り出し、ためらいなく木の幹につけられていた傷を切り裂く。
「あっ、ダイヤモンド」
 クロガネモチの木肌の奥に、ご主人から大粒の贈り物。

「では、ごきげんよう」
 女は左の第七肋骨を引き抜くと、ナイフをしまって元に戻した。

 彼女の名は、名探偵コスティーナ。


<了>

(403字)



「名探偵コスティーナ」でお題十本、何とか完走できました!

 ご覧くださってありがとうございます。読み切りなので、どこからでもお楽しみいただけます。けれどけれど、順番にご覧いただくと、「登場人物のおかしみ」が感じやすいかもしれません。また、「コロコロ変わる名探偵」は、最終がオススメでございます! 

1.アナログバイリンガル  
2.しゃべるピアノ 
3.金持ちジュリエット
4.数学ギョウザ
5.君に贈る火星の 
6.空飛ぶストレート
7.1億円の低カロリー
8.違法の冷蔵庫
9.株式会社リストラ 
10.コロコロ変わる名探偵