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おかえり、あんちゃん #春風怪談


 拝啓 あんこぼーろさんの企画「春風怪談」でございます。

 ひとつ、こちらでお焚き上げさせてくださいましね。


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 会ったことのない伯父がいる。
 母とは随分、齢の離れた「あんちゃん」であったそうだ。

 戦死された。ノモンハンと聞いたように思う。

 同じ話を何万回も繰り返した母、あ、たいていこういうのは、父の悪口ですね。
 そんな母が、2、3回しか口にしなかったお話です。


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 祖父母には長いこと子が授からず、あんちゃんを養子に迎えたのだそうだ。無口な祖父だったが、跡取りができたと喜んで、大層可愛がっていたらしい。
 そんな矢先。
 祖母は男の子を産んだ。
 それでも祖父母にとってあんちゃんは一等大事な息子だった。
 そして数年後、母も生まれた。
 年頃になるとあんちゃんは、グレるまではいかずとも、多少荒れたらしい。でも、伯父や母には、とても優しくて頼もしい兄だった。
 だけんね、あんちゃんが戦争に行ったのはそういうことだったかもしれん、と思うの。母は語った。赤紙がきて兵隊にとられたのではなく、志願したのかもしれないと。

 列車に乗ったのを見送ったら、二度と帰ってこんだった。
 だから。
 伯父は大学へ行かせてもらえなかった。
 母は修学旅行へ行かせてもらえなかった。もちろん、大学も。

 ノモンハンから戻ってきた遺骨なんて、きっともう誰のものだかわからないに違いない。

 玄関で音がしたけん、出てみたら、あんちゃんが立っちょった。
 兄と二人で、
 あんちゃんが帰ってきたー!! 
 って部屋へ駆け込んだ。
 おばあちゃんと三人で玄関に戻ったら、
 誰もおらんだった。
 探したよ、近所を、
 でも
 おらんだった。


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 祖父は、母が持っていったお酒で晩酌している最中に、大往生を遂げた。
 その数日前、廊下を何度も歩きながら、道順を確かめていたのだそうだ。
 靖國神社は、ここを、こう曲がって。


 そういえば、祖父が炬燵にあたっているとよく、
 こたつ板がガタガタガタ、、、、と震え出すのであった。




 あ、それは
 おじいちゃんがプロレス見て興奮しているときだったね。



 祖父母も、伯父も母も、もうあんちゃんのところへ行きました。
 なので、ここに残しておくことにしました。

 あんこぼーろさんが企画してくださらなかったら、書こうと思わなかったかも。


 いつも絶妙のタイミングであんこぼーろさん。

 ありがとうございます!