違法の冷蔵庫
とあるバーに、薬物取引の疑いが浮上したが、なかなか尻尾を掴めない。
「ウイスキー、ロックで」
ポアロに憧れる警部は、客の振りをして一杯やることにした。
マスターは、大きな球形の氷をグラスに入れる。
ガラ、ガラガラ。
冷蔵庫が氷を作っては、吐き出す。
カウンターの端の男が声をかける。
「いい冷蔵庫だね、マスター」
「どうも」
「ウイスキー、ロックで」
マスターは角氷をいくつかグラスに入れる。
男は酒をためつすがめつ楽しむと、支払いをして出て行った。
ウエーブした黒髪をひと撫でし、一人の女が隅のテーブルから立ち上がった。
「この方のおごりね」
真っ白な脳細胞、懐に木枯らしが吹く。
男は駅ビルのロッカーからブツを取り出したところで御用となった。
「氷に暗証番号が刻印されていたのですわ。同じロックなのに、警部のは丸、あちらは角って、ね」
女は右の第六肋骨を引き抜くと、眼鏡をしまって元に戻した。
「では、ごきげんよう」
彼女の名は、名探偵コスティーナ。
<了>
(408字)
「名探偵コスティーナ」でお題十本、何とか完走できました!
ご覧くださってありがとうございます。読み切りなので、どこからでもお楽しみいただけます。けれどけれど、順番にご覧いただくと、「登場人物のおかしみ」が感じやすいかもしれません。また、「コロコロ変わる名探偵」は、最終がオススメでございます!
1.アナログバイリンガル
2.しゃべるピアノ
3.金持ちジュリエット
4.数学ギョウザ
5.君に贈る火星の
6.空飛ぶストレート
7.1億円の低カロリー
8.違法の冷蔵庫
9.株式会社リストラ
10.コロコロ変わる名探偵